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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第3章 南方の《狂》気と32個の風鈴が奏でる浄化

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第49話 狂の核 ― 封印の鎖が外れる時

 封印扉が開いた瞬間、

 空気が一気に“変わった”。

 温度が下がるわけでも、

 風が吹くわけでもない。

 ただ――

 世界の脈が一つ跳んだ。

「……聞こえる?」

 ルシアナが眉をひそめる。

 その場の全員が息を呑む。

ドクン……

   ドクン……

     ドクン……

 それは、まるで森全体の心臓が

 地下で鳴っているような――

 そんな音だった。

「……これが、《狂》の鼓動……?」

 フィンの声が震える。

「封印が……まだ“完全に”外れてない。

 でも、半分は壊れてるわ」

 ルシアナは奥へ視線を向けた。

 薄紫色の霧が、ゆっくりと渦を巻いている。

 まるで“呼吸”しているかのように。


 空洞の奥には円形の祭壇があった。

 中央には、透明なゼリー状の“核”のようなもの。

 そこに黒い鎖が何本も巻き付いている。

 鎖は時折ビクリと震え、

 そのたびに鼓動が強まる。

「古代封印術で作られた“鎖印さいん”ね」

 アニスが低く言う。

「中の力が暴れれば暴れるほど、鎖の結び目が押し広げられる」

「……つまり、もう限界ってこと?」

 ドランが固唾を飲む。

「ええ。

 あと一押しで、狂が目覚める」

「じゃあ押さなきゃいいな!!」

 グレンが即答した。

「あなたが押さなくても、

 “狂自身が”破って出てくるのよ!」

 ルシアナが怒鳴る。


 そのとき、核の横の空間がねじれた。

ビキッ……ビリリ……ッ

 空中に亀裂が走り、

 紫色のひずみが“口”のように開いた。

「ひ……っ!?」

 フィンが一歩下がる。

「空間が裂けてる……。

 狂の力が鎖を押し広げて、外へ漏れ始めてるんだわ」

 ルシアナが震える声で言う。

 ひずみの口から、

 黒い腕のような“影”が少しずつ伸びている。

「こ……これ絶対やばいやつ!!」

 ドランが叫ぶ。


 影の腕が祭壇の外へ伸びる瞬間――

ガンッ!!

 ボビンの盾がそれを叩き落とした。

「守る」

 短い言葉だが、

 そこには揺るぎない覚悟があった。

「ボ、ボビンさん……!!」

 フィンが叫ぶ。

「影は“精神攻撃”に見えて……

 実は物理的な圧力もある。

 盾で受け切れるのは……本当にすごい……!」

 アニスが青ざめる。


 影の腕が引っ込み、

 空洞全体に響く声が漏れた。

『……ア……アアァ……

  タノシ……イ……』

 ぞわり、と全員の背筋が凍る。

「言葉……!?

 喋ったの!?」

 フィンが震える。

「単語だけ……。

 でも、まだ本体が目覚めてないからこそ断片的なのよ」

 ルシアナは必死に言う。

「狂気が形になる前の“幼声おさなごえ”……

 封印が破れる直前の現象よ」

「幼声ってなんだよ!?」

 ドランが叫ぶ。

《感情発生:恐怖・信頼150,000ルーメ》


 緊張が最高潮に達した時――

コトン……

「……あれ?」

 カケルの足元で、何かが転がった。

「カケル、何落としたの?」

 フィンが訊く。

「さっき拾った石。

 なんか模様がついてたから、何かなーって思って」

「その模様、絶対触っちゃだめな――」

ピシ……!

 床に触れた瞬間、

 石から淡い光が広がる。

「ま、まさか……!」

 ルシアナが青ざめた。

「古代封印術の“鎖印チェイン・マーカー”を作動させる封印石?」

 鎖が一斉に震え、

 核がギュウッと縮む。

ゴォォオオオオ……!!!

「ちょっ、カケル!!

 封印を強めたの!?弱めたの!?どっち!?」

 ルシアナが叫ぶ。

「いや……どっちだろな?」

「偶然で封印触るな!!」

 しかし結果として――

 狂の影は一度内側へ押し戻された。

「……いまの一撃で、

 封印が“数秒”だけ安定したわ!」

 アニスが驚く。

「数秒!?」

「むちゃくちゃ短ぇ!!」


 ◇


 その頃。

 封印空洞のずっと上層。

 隠れて監視していたスルヴァは――

「や……やばい……やばい……!!

 封印核が鎖ごと捻じれ戻った……!?

 なんで“強化”してるの!?

 強化なんて計画外なのに!!」

 帳面に必死で書き込む。

《予定:封印は時間と共に破壊 → 狂暴走》

《現実:カケルが石を落として封印が数秒だけ強化(今ここ)》

《意味不明》

「……意味不明なのは私の人生の方なのかもしれないけどぉ!!」

 涙目で絶叫した。

《感情発生:驚愕・混乱600,000ルーメ》


 ◇


 封印核の鎖が軋み、祭壇が不気味に震えていた。

ピキ……ピキキ……ッ

(……来る。これはもう止められない……)

 ルシアナの胸が冷たくなる。

ドクン……

   ドクン……

     ドクン……

 狂の鼓動が、空洞の壁そのものを震わせていた。

 狂気そのものが息を吸い込み、外へ出ようとしている。


 その緊張を切り裂くように――

「そういえばさ。

 気になってたんだけど……

 “もう一つ拾った石”があるんだよな。」

 カケルがポケットから、

 封印術の紋様が刻まれた石をもう一つ取り出した。

「――――っ!?」

 一同の顔が真っ青になる。

「ちょっ……カケル!!」

「お願いだから今は何もしないで!!」

 ルシアナが本気で叫んだ。

 カケルは素直に「わかった」と石を持つ手を止めた。

 だが――


 ◇


 頭上の暗がりで、スルヴァは声にならない悲鳴を上げた。

「な、なんで!?

 封印石チェイン・キーを2つも持ってる!?

 本来なら選ばれた巫女しか触れられないものなのに!!

 なんで……なんであの男が……!!!?」

 手帳は震え、頁が破れそうだった。

《予定:封印石は森に隠してある》

《現実:カケルが2つ持っている(今ここ)》

《何がどうしてこうなった》

《感情発生:驚愕・絶望600,000ルーメ》


 ◇


ギィィィ……ギギギギギ……ッ

 核を締め付けていた鎖が悲鳴を上げ、

 一本、また一本と外れていく。

 黒い霧が空洞全体を覆う。

「来る……!」

 ルシアナが叫ぶ。

 霧の中心から“何か”がゆっくりと頭をもたげた。

 角のような髪。

 人の形とは言えない、ねじれた輪郭。

 濁った瞳がうっすらと開き――

『……ア……ァァ……

   オマエ……タノ……シ……』

 狂の“顔面”が、封印核から持ち上がった。

 その瞬間――

 狂気の吐息が全員の皮膚を刺した。

 アニスもドランも、一歩後ずさる。

「う、うそ……

 もう頭まで……!?」


 狂が完全に目覚めかけた、その刹那。

「なぁルシアナ。

 やっぱりこの石使った方が良くね?」

「やめ――」

 言い終わる前に、カケルは石を――

コロ……ッ

 軽く転がした。

「えっ」

「おま――」

「待て――!!」


 石が地面を転がった瞬間、

バチィィィィィィィィン!!!

 封印鎖が逆回転し、狂の首に封印の鎖が巻き付いた。

ガギィィィィィィ!!!

「ぐ、あぁぁああアァァアアアアアアア!?!?」

 狂が目を剥き、

 声にならない悲鳴を上げながら締め上げられる。

「くぁwせdrftgyふじこlp――――!!」

 気泡のような狂気が弾け、鎖がさらに締まる。

 頭部は出たのに、

 首が締め付けられたせいで、それ以上出られない。

「お、おい……これって……」

 グレンが震える声を出す。

「……あれだな。

言葉にならないってやつ」

 ドランも引きつった表情で言った。


 狂が苦しみ暴れる中、

 カケルは何でもないように言い放つ。

「空間に閉じ込めとくだけだと、

 そのうち力を溜めて復活しちゃうだろ?

 悪だくみとかしてさ。

 だから首でも絞めて苦しめておかないとダメなんだよ。

 復活させたくないんだったら。」

 一同、完全に絶句。

 ルシアナだけが叫んだ。

「に、人間の発想じゃないわよそれ!!」


 ◇


 上の枝で見ていたスルヴァは、もう限界だった。

「ちょっと待って……

 なに……なにそれ……

 封印石で狂に首輪みたいな締め付けできる人類なんて……

 今まで……いなかった……」

 スルヴァはぷるぷる震えながら呟く。

「……このパーティ……

 マジでヤバい……(主にカケルが)」

 そして絶句した。

《感情発生:恐怖・驚愕300,000ルーメ》

読んでいただきありがとうございます!

ついに最深部、狂の核へと到達しました。

封印の鎖、空間の亀裂……緊張感が高まります。

そしてカケルが拾った石がまさかの効果を!?

次回、四魄柱《狂》がついに目覚めるのか?

カケルたちはどう動くのか? ここから怒涛の展開になります。

是非、最後まで見届けてやってください!

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― 新着の感想 ―
空間が裂け、狂の黒い影が伸び攻撃、ボビンが守る。空洞全体に響く声が漏れた。『……ア……アアァ……タノシ……イ……』封印が少しずつ解け、狂の“顔面”が、封印核から持ち上がった。いよいよ復活、いよいよ対決…
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