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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第3章 南方の《狂》気と32個の風鈴が奏でる浄化

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第45話 狂の旋律域 ― 風の止まる廟(びょう)

 風が、止んでいた。

 ウェルダ熱帯林圏は本来、

 大気が常に揺れ、木々がざわつく森。

 だが廟へ近づくほどに、静寂が世界を覆う。

「……変な感じ。森が息してない」

 フィンが声を潜める。

「大気は正常よ」

 ルシアナが空を仰ぐ。

「躁気は完全に払われている……風鈴のおかげね」


 ◇


 森を抜けた先、石造りの建物が姿を現す。

「……びょうか」

 アニスが、崩れた石柱を手で触れる。

「古代ウェルダの“テンポ神”を祀った場所のはずよ」

 アニスが草をどけ、中央に刻まれた鳥の紋章を示した。

「本来なら、この廟は“狂”と最も相性が悪い。

 ここが最初に静まったのは……逆に嫌な予兆ね」

「嫌な予兆……予兆なら、もう来てるぞ」

 グレンの声に、一行は一斉に上を見た。


 廟の屋根に――

 逆さにぶら下がった鳥の影が十数。

「ホロウ・クロウ……!」

 アニスが身を硬くする。

 ウェルダでも最上位の危険種。

 本来は森の最奥に棲む幻影系霊獣。

「躁気で狂ったわけじゃなく……

 “躁気が晴れる前に逃げ場としてここに来ていた”って感じね」

 ルシアナが状況を即座に解析した。

「そして今は……本来の獰猛さだけ残ってる」

 霊獣たちは一斉に翼を広げ――

パアアアアッ!!

 風を裂く羽刃が、扇状に飛んできた。


「ボビン!」

 カケルの声に、盾役は静かに前へ。

ガガガガガガガッ!!!!

 降り注ぐ羽刃をすべて、

 巨大盾で受けきる。

「……軽い」

 ボビンは一言だけ呟いた。

「軽いのかよ!!?」

 リュートが絶句する。


「アニス、上!」

 ドランが武器を構える。

 アニスは軽く頷き、

 跳躍 → 石柱 → 屋根へダッシュ。

「森の鳥はね……

 “初撃”を外すと隙だらけになるのよ!」

 アニスは身を低くし、

 影のように素早くホロウ・クロウの死角へ回り込む。

ザシュッ!

 その場に力なく落ちる。


「グレン! 行くぞ!」

「おうよ!」

 ドランとグレンは互いに隣り合わせで動く。

直線で向かってくるホロウ・クロウを正面から切り伏せる。

 ドランは速度、グレンはパワー。

 正反対だが――

「せーのっ!」

ズドドドドッ!!!

 二人の同調した踏み込みからの同時斬撃。

 霊獣の影をまとめて三体、地へ叩き落とした。

「おい、グレン!攻撃を合わせる時はもう少し力加減――」

「そっちこそ速すぎるんだよ!!」

「なんだと!」

 言い争いながらも息は完璧に合っている。


「左上!隙間来る!」

 フィンが叫ぶ。

 視線が高速で動き回る。

 彼だけが見える“動きのテンポのズレ”が、霊獣の軌道を読んでいた。

「行くよッ!」

 フィンの短剣が、

 ホロウ・クロウの胸の急所を正確に突く。

パァンッ!

「……すごいね、完全に読んでる」

 アニスが呟く。


 一方、カケルはというと――

「よし、これで四匹目っと」

 いつの間にかフクロウの移動軌道に“偶然”の石を緩く投げて、

 一瞬流れを止めたり、軌道を逸らせたりして味方が攻撃しやすいようにアシスト。

「……なぁ、カケルって実は戦ってる?」

 ドランが額に汗を浮かべながら訊く。

「いやいや。偶然だよ偶然。

 ただの“石投げ”だって」

「そんな都合よく当たる石って有る!?!?」

「偶然だよ?」

 にっこり。

「お、何だか面白い模様の付いた石があるな。

しかも2つも。

これはしまっておこう」

 カケルはそれをポケットに収める。


 十数匹いたホロウ・クロウは、

 ものの三分で完全に沈黙した。

「……みんな……強い……」

 リュートは震えた。

「新人レベル……じゃないな……やっぱり……」

 アニスが肩を落とす。

「俺たち、今日何回現実を突き付けられるんだ……?」

 ドランが空を仰いだ。

《感情発生:驚愕・感嘆150,000ルーメ》


 ◇


 廟のさらに高い場所の影で、

 スルヴァは両手で顔を覆っていた。

(なんで……なんで風鈴だけじゃなく……

 本体スペックもこんなに高いの……!?)

(風鈴32個で躁気が全部吹き飛んだだけじゃなく、

 野生のホロウ・クロウ十数体を瞬殺って……

 予定が……予定が狂う……!!)

 影の官吏は頭を抱え、石壁にゴンゴンぶつける。

(だめだ……!

 狂、ほんと早く起きて……!

 じゃないと私……報告書どう書けばいいの……!?)

《感情発生:驚愕・パニック600,000ルーメ》


 ◇


 全員、戦闘の息を整える。

「じゃあ……行くか。

 “狂”の本丸へ」

 グレンが聖剣を担ぎ直す。

「……ここから先は、ただの霊獣じゃ済まないわよ」

 ルシアナが呟く。

「狂のテンポ破壊領域……

 本番は、ここからだね」

 フィンが短剣を握り直す。

 七人は足並みを揃え、

 風の止まった廟の奥へと歩を進めた。

《感情発生:決意・覚悟2,100,000ルーメ》

お読みいただきありがとうございます!

廟での戦闘回でした。

ボビンの「軽い」発言、頼もしすぎます。

そしてカケルの「偶然の石投げ」。

絶対に狙ってますよねこれ(笑)。

《碧牙の矛》との連携も板についてきました。

次回、さらに奥へ。

空間そのものが狂い始めます。

引き続きお付き合いください!


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― 新着の感想 ―
グレンとドランが言い争いながらも、息ぴったりの攻撃など、ベテランと新人冒険者との連携が良かった。皆はビシバシ戦ってるのに、カケルの石投げは、なんだかゆる〜い感じ。(実はゆるくないけど)そのギャップが面…
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