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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第3章 南方の《狂》気と32個の風鈴が奏でる浄化

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第41話 旅立ち前夜と、新しい名前の話

 リベリスの朝は、旅立ち前の高揚に満ちていた。

 前借亭の奥ではノエルが慌ただしく皿を並べ、

 カケル一行と《碧牙の矛(へきが の ほこ)》の三人が賑やかに朝食を囲んでいた。

「はい、できましたよ!

 “旅立ち仕様の栄養満点メニュー”です!」

「……“普通の食材”って、やっぱり落ち着くわね……」

 ルシアナが小声でぼそり。

「え?何か言った?」

 カケルの無邪気な顔に、ルシアナはため息をこぼした。

(……ほんとお願いだから、竜肉はもう焼かないでほしい……)

 本人には言わない。言ったところで悪びれないのは前日の通りだ。


 ◇


 ミュコは前借亭の看板の上で胸を張り、

 誇らしげに両手のような突起を伸ばし、体の一部に触れた。

「ぴゅいっ!」(留守番任せろ!)

「ミュコちゃん、今日もやる気いっぱいねぇ」

 ノエルが抱きしめる。

 ミュコは自分の“役割”を理解していた。

「ミュコ、帰ったらいっぱい遊ぼうね!」

「ぴゅい!!」

 フィンが手を振り、ミュコも力強く突起した体の一部を振った。


 ◇


 リベリス支部・会議室。

 支部長ハリスが南部地図を広げ、一同の前に置いた。

「今回の任務は、ウェルダ熱帯林圏で発生している異変だ。

 《狂》が関与している可能性は高い。だが――」

「“封印が解かれた”と確定したわけではない」

 ルシアナが冷静に補足する。

「その通りだ。よって任務は、こうなる」

 ハリスは三つの指を立てた。

「1、ウェルダ熱帯林圏の異変調査

 2、調査隊の生存者がいれば救出

 3、《狂》の封印状態を確認し、解除されていた場合は再封印、もしくは討伐」

 アニスが腕を組む。

「森全体が異常気象を起こしてる。

 周期の乱れ方、霊獣の狂奔……普通じゃないわ」

「つまり、“狂”が動き出している状況が揃ってるってことか」

 グレンが静かに言う。

「心してかかれ。

 《狂》は“生命のテンポ”を壊す存在だ」

 ハリスは重い声で続けた。

「お前たち二つのパーティが協力して臨む。

これは本部の正式決定だ」

 全員がが同時に頷いた。

《感情発生:決意・覚悟2,100,000ルーメ》


 ◇


 説明が終わったあと、ふいにカケルが言い出した。

「ところでさ。

 俺たちのパーティ名って、無いよな?」

「確かに……!」

「言われてみれば」

「“カケル一行”ってそのままだったよな……」

 グレンが勢いよく手を挙げた。

「じゃあ俺が名付ける!

 “極光五連星きょっこうごれんせい”だ!!」

「却下」

 ルシアナ、即答。

「なんでだよ!」

「意味が分からない。あとセンスがない」

「光る要素聖剣だけ……他の4つの光は?」

「……弱そう」ボビンが真顔で言う。

「じゃあフィンは?」

 カケルが振ると、フィンは頬を赤くしながら言った。

「えっと……“五つ葉の風隊”とか……

 五人で、風みたいに動けたらいいなって……」

「可愛い!」

「良いじゃん!」

「今の、けっこう好きだぞ!」

 しかしカケルがぽつりと言った。

「でも……五つ葉だとミュコが入らないよな。

 六つ葉にする?」

「六つ葉の風隊……?」

「……なんかしっくりこない……」

 そこで満を持して、カケルが胸を張る。

「じゃあ、俺の案で決まりだな!

 “前借組まえがりぐみ”!!」

沈黙が三秒。

その直後――

「却下よ!!」

「絶対イヤだ!!」

「……嫌だ」

「ゴメンナサイカケルサン……」

全力で叩き落とされた。

「なんでだよ!?

 みんな前借亭で働いてたり常連で、

 スタッフチームみたいなもんだろ!?」

「あのね、冒険者ギルドの掲示板に

 “前借組”って載るのよ!?

 絶対イヤだから!!」

 ルシアナが涙目になる。

「響きが……弱い……」

 ボビンが地味に追撃。

 そこへ廊下からアニスが顔を出す。

「“前借組”……?

 ごめん、正直……絶対に一緒に任務に就きたくない名前だわ、それ」

カケル「なんでぇぇぇ!!」

 結局、パーティ名は決まらず。

 だが笑いの多い、温かい時間となった。

《感情発生:笑い・絆60,000ルーメ》


 ◇


 三日後の早朝。

 リベリスの街道に、一行が並ぶ。

 ノエルが走ってきて手を振った。

「みんな、気をつけて行ってきてね!」

 ミュコもノエルの頭上で大きく両手状の突起を広げる。

「ぴゅいっ!!」

「じゃ、行ってくる」

 カケルが手を上げる。

「戻ったら、また前借亭で騒ごうな!」

 グレンが笑い、

「……旅路に支障のない天候でありますように」

 ボビンが意外に現実的な祈りをし、

「絶対、生きて帰りましょうね!」

 フィンも力強く言う。

 ルシアナは静かに息を吸った。

(狂……そして神界の影……

 動き出したわね)

 二つのパーティは肩を並べ、

 南方への道を歩き出した。


 ◇


 リベリスの家々の影が朝日に伸びる。

 その中に……“揺れ方を間違えた影”がひとつ。

 屋根の上、壁の裏。

 誰にも気づかれない薄膜の残影が、

 ゆらりと形を変えながら動いていく。

(……封印は解かれつつある。

 四魄柱《狂》が目覚めるのは、もう時間の問題だ……)

 影――

 スルヴァはそう呟くと、風に溶けるように消えた。

ご覧いただきありがとうございます! パーティ名決め回でした。

「前借組」……うん、ルシアナたちの拒否反応も分かります(笑)。

結局決まりませんでしたが、こういう和やかな時間も冒険には大事ですね。

そしてリベリスの影でこっそり動き出している不穏な気配スルヴァ

次回から本格的にウェルダ熱帯林圏へ突入です。

森の異変とは一体? 引き続きお楽しみください!


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― 新着の感想 ―
チーム名、楽しみにしてたのに、決まらなかったね。みんなのやり取りを読んでて笑った。当分「カケル一行」ですね。「前借組」では、ちょっと…、ねえ。でも、これから厳しい調査&討伐になる、その前に笑いがあるの…
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