第38話 碧牙の矛と、火花
翌朝。
冒険者ギルド・リベリス支部の会議室は、
いつになく重苦しい空気に包まれていた。
支部長――ハリス・エンドロウが静かに立ち上がる。
銀髪交じりの長髪、痩せた体躯だが、
元Aランクの威圧感は今も健在だ。
「皆、集まってくれて感謝する。
――南方ウェルダ熱帯林圏が、異常だ」
テーブルに広げられた報告書には、
霊獣の大移動、街道崩壊、豪雨と雷、
調査隊の消息不明など、深刻な文字が並んでいた。
「本部は判断した。
『狂の封印が緩んでいる可能性が高い』とな」
その言葉で全員の表情が変わる。
ルシアナは薄く息を吐き、小声で呟いた。
「……始まったのね」
◇
「で、そいつらが例の“憤討伐の新人”ってわけか?」
低く響く声とともに、
会議室の扉がバンッと開いた。
風が吹くように入ってきたのは、
ショートの風髪を揺らす女性――アニス。
その後ろに、巨漢ドランと、細身の斥候リュート。
三人はぞろぞろと入ってくると、
こちらを見てニヤリと笑う。
「南方担当パーティ《碧牙の矛》だ。
よろしく頼む……って言いたいとこだが」
ドランはグレンを真っ直ぐ指差す。
「お前が“聖剣持ちの新人か”。
なんならその剣、俺が代わりに振ってきてやろうか?」
挑発。
会議室の空気がキリっと張り詰める。
「ドラン……!」
アニスが目を細めるが、もう遅い。
「良いぜ」
グレンは、あっさりと聖剣を鞘ごと取り外す。
「えっ!!??」
フィンの声が裏返る。
カケルもルシアナも、思わず目を丸くした。
「おいおい待てグレン――」
カケルが止める間もなく、
グレンはドランに向かって “ひょい” と投げ渡した。
「重くて持てねぇなんて言うなよ?」
ドランは余裕の笑みで受け取ろうとして――
「……っ!」
両腕が沈んだ。
流石に床に落とさなかったが、
支える腕が僅かに震える。
明らかに想定外の重さだった。
(こ、これ……なんだこの密度……!?)
(くそ……これ以上震えたら馬鹿にされる……!)
ドランは手が震えるのを必死でこらえながら、
グレンへ返した。
「お、おう……
ま、まぁ……そこそこ……だな」
「お前、顔引きつってるぞ」
「引きつってねぇッ!」
会議室が微妙な沈黙に包まれた。
フィンが隣で小さく囁く。
「(……すごいバカ正直な人だね)」
「(大声で言ってないだけマシよ)」
ルシアナが肩を竦めた。
(グレンの成長と共に、剣も重厚さを増したみたいだな)
とカケルが一人で納得する。
アニスが深いため息とともに三人を見回す。
「申し訳ない。
うちの重戦士が無礼を働いた」
「いや別にいいぜ?」
グレンは肩をすくめる。
「実力を見てから文句言うタイプってだけだろ?」
「そのとおりだ」
ドランが胸を張る。
「……なら、ちょうどいいな」
静かに口を開いたのはカケルだった。
「連携なんて、初対面じゃできない。
なら―― 一度、模擬戦やった方が早いだろ」
「模擬戦……?」
アニスが眉を上げる。
「俺たち vs お前たち。
お互いの力を知っておけば、森で死ぬ確率は下がる」
その言い方があまりに自然で、
“挑発”にも“教官風”にも取れた。
「面白ぇ」
ドランが即答する。
「アニス、やろうぜ。
その聖剣チームがどれほどのもんか、はっきりさせようや」
リュートも肩をすくめた。
「まぁ……いいんじゃね?
こっちも連携の再確認になるし」
アニスは少し考え――頷いた。
「わかった。
この後、訓練場でやりましょう」
「決まったな」
カケルは薄く笑う。
「こういうのはノリが大事よ」
ルシアナが小さく笑う。
「フィン、ボビン。
準備は大丈夫か?」
「う、うん! がんばる!」
「……問題ない」
その横で、グレンがにやりと笑った。
「いいじゃねぇか。
やっと身体が温まってきたところだ」
《感情発生:決意・覚悟1,800,000ルーメ》
◇
会議の最後、支部長ハリスが重い声で言う。
「どちらの実力が上かはどうでもいい。
重要なのは――
《狂》と戦うために、お前たちが“本気で協力できるかどうか”だ」
全員が黙ってその言葉を噛みしめた。
そして。
「訓練場へ移動する。
準備ができた者から来い」
こうして、
《碧牙の矛》とカケルたちの最初の火花は、
静かに、しかし確かに散り始めた。
狂の森へ向かう前の、
“試しの戦い”が――幕を開ける。
ご覧いただきありがとうございます。
聖剣、やっぱりとんでもなく重いんですね……。
涼しい顔で投げ渡すグレンもグレンですが、それを受け止めて(震えながら)耐えたドランさんも流石です(笑)。
そしてカケルの提案で、いきなりの模擬戦へ!
次回、訓練場で実力行使の挨拶が始まります。
憤との戦いを経て成長した彼らの実力にご注目ください。
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