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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第3章 南方の《狂》気と32個の風鈴が奏でる浄化

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第37話 南からの報せと、留守番の約束

 憤との死闘から、いくばくかの日が過ぎた。

 昼どきの《前借亭》は、またいつもの喧騒を取り戻していた。

「フィン、このシチュー二つ、奥のテーブルね」

「はいっ!」

 フィンが軽やかに皿を運び、

 カウンターの奥ではルシアナが手際よく飲み物を用意している。

「ボビン、裏の薪、もう少し割っておいてくれ」

「……了解」

 店の外からは子どもたちの笑い声。

 カケルの肩では、スライムの小玉――ミュコが「ぴゅい」とあくびをした。

(……平和だな)

 カケルはカウンター越しに広がる光景を眺めながら、

 わずかに目を細めた。

 そこへ。

 ガラッ!

「カケルさん、皆さん! ギルドから緊急のお知らせです!」

 勢いよく扉を開けて飛び込んできたのは、

 冒険者ギルド・リベリス支部の受付、ノエルだった。

「ノエル? そんなに慌ててどうしたの?」

「本部から“南方”に関する緊急報告が届きました!」

 ノエルは肩で息をしながら、一通の封書を掲げる。

「ウェルダ熱帯林圏――あの南方の大森林からです!」

 店内の空気が、すっと引き締まった。


 ◇


 人の出入りが一段落したころ、

 四人と一匹は店の一角に集まり、ノエルの話に耳を傾けていた。

「まず……南方からの交易キャラバンが、ほぼ壊滅状態で戻ってきました」

「壊滅?」

 グレンが顔を上げる。

「ウェルダ街道を進んでいたところ、

 突然、季節外れの豪雨と突風に襲われたそうです。

 橋が増水で流され、護衛の半数以上が負傷。

 隊長は今も行方不明です」

 ノエルは眉を寄せ、報告書の一節を指でなぞる。

「さらに――霧の中から猿の群れが出現。

動きが著しく乱れており、姿が揺れて眼の光が異常であり、

 危険と判断された、と。」

「……何かの影響を受けて猿型霊獣の大規模移動、ってことか」

 カケルが呟く。

「はい。

 その後も、ウェルダ街道の見張り塔が落雷で倒壊したり、

 数時間ごとに晴れと豪雨が入れ替わるなど、

 気候が“狂ったように”変化していたと」

「南方の交易は?」

 ルシアナが尋ねる。

「ほぼ止まっています。

 薬草や香辛料など、リベリスにも影響が出始めています」

 ノエルは最後の一枚を広げた。

「そして……本部が派遣した《ウェルダ調査隊》が、消息を絶ちました」

 フィンが小さく息を飲む。

「調査隊は、森の中から上がる光の柱を確認したあと、

 『風が笑っているような音が近づいてきている』と報告し……

 それを最後に、通信が途絶えたそうです」

 その言葉に、ルシアナの瞳が細くなる。


 ◇


「で、本部はどう見てるんだ?」

 カケルが尋ねると、ノエルは少しだけためらってから答えた。

「古文書班が、過去の記録を引っ張り出したそうです。

 “かつて南方の森で、季節の周期が崩れ、

 霊獣が一斉に動き出した”という記述が見つかったとか」

 ノエルは紙をめくり、読み上げる。

「《湿りすぎた森に、狂躁の波が走るとき、

 空と大地の拍子が乱れ、

 封じられし“四つの柱”の一つが目覚める》」

「四つの柱……」

 グレンがつぶやく。

「はい。

 本部は、これが“四魄柱《狂》”の封印が緩んだときの記録だと見ているようです。

 今回の現象は、その文献と酷似していると」

 全員の視線が、自然とルシアナへ向かった。

 ルシアナは、少しだけ周囲を見回し、

 カケルの方へ身を寄せると、小声で囁いた。

「(本部の判断は、概ね正しいと思うわ)」

「(やっぱり、狂か)」

「(憤が消えたことで、四魄柱を繋いでいた“封印枷”つまり封印を地脈に固定している“杭”のようなものね。それが緩み始めてるんだと思うわ。

 最初に動くのが、いちばん“外側”にいた狂――

 ウェルダの森に封じられた柱ね)」

「(あの気候の乱れと、霊獣の移動……)」

「(躁気よ。

 怒りとは違って、“生物のテンポ”を狂わせる波。

 今回の異変は、どう見ても狂の仕業。ほぼ間違いないわ)」

 ルシアナはそこまで言うと、ノエルの方を見て、

 いつもの落ち着いた口調に戻った。

「……本部は、私たちに何を求めているの?」

 ノエルは深く頷き、正式な言葉で告げる。

「本部からの通達にはこう記されています。

 『四魄柱《憤》を討伐した冒険者チーム、

 および南方担当上級チーム《碧牙のアズリオン・ファング》が協力し、

 ウェルダ熱帯林圏の異変調査と、

 必要に応じた封印・討伐を行え』――と」

「碧牙の矛……

森林踏破の専門家のリーダー・アニス、

バーサーカー系のアタッカー・ドラン、

斥候でトリックスター・リュート。

今回の依頼に合っているな」

 グレンが腕を組む。

「本部でも名の知れた上級パーティです。

 名前の通り先頭に立って突破し、鋭い攻撃で道を開いてくれると思います」

 とノエル。

 フィンがそわそわしながら口を挟む。

「そんなすごい人たちと、一緒に行くんですか……!?」

「ええ。

 本部も今回の件は、スヴァレ村以上の規模と見ています」

 ノエルは深々と頭を下げた。

「どうか……今回も力を貸していただけないでしょうか」


 ◇


 沈黙を破ったのは、フィンだった。

「僕……行きたいです」

 ぎゅっと拳を握りしめ、まっすぐに言う。

「憤のとき、皆に助けてもらいました。

 今度は、困っている人たちのために、

 もっとちゃんと役に立てるようになりたい」

 ボビンも短く言葉を添える。

「俺も行く。

 森が狂えば、守るべき場所も増える。

 盾の出番だ」

「しゃーねぇな」

 グレンが笑った。

「憤の時はみっともない姿を見せちまったし、挽回したい。

強い連中と組むのも悪くない。

 南の森ってのも、見てみたかったしな」

 視線が、最後にカケルへ向く。

「カケルさんは……?」

 フィンが不安そうに尋ねる。

「決まってるだろ」

 カケルは肩のミュコをひょいと持ち上げて笑った。

「どうせ俺が居ないと、話がこじれて面倒なことになる。

 だったら最初から行って、適当に“偶然”を起こしてくるさ」

「ぴゅい?」

 ミュコが小さく鳴き、カケルの指にかじりつく。

 その様子を見て、フィンがはっとした顔をした。

「……ミュコは?」

「ああ」

 カケルは腕の中のミュコを見つめ、少しだけ真面目な声になる。

「ウェルダは、天気も魔獣も荒れてる。

 今回も連れて行くには、ちょっと危険すぎるな」

「……そうですよね」

 フィンの肩がしゅんと落ちる。

 ミュコはそんな様子を見て、フィンの膝へぴょんと飛び移った。

「ぴゅ、ぴゅい」

「ミュコ……」

 ノエルが一歩前に出る。

「もしよろしければ、ミュコちゃんはギルドでお預かりします。

 前借亭の管理も含めて、本部から正式に費用が出ますから」

「ギルドで?」

「はい。

 飲食店としてギルド指定の施設ですし、

 留守の間、掃除や食材管理なども対応させていただきます。

 何より、ミュコちゃんのパンを楽しみにしている人たちが多いですから」

 ルシアナが小さく笑った。

「つまり、“拠点を守る任務”ね。

 いいじゃない、ミュコ。立派な留守番任務よ」

「ぴゅ……」

 ミュコはしばらくフィンの顔をじっと見つめ――

 やがて観念したようにノエルの腕の中へ移動した。

「ぴゅい!」

 “任せろ”と言わんばかりに鳴く。

「ミュコ……僕たち、ちゃんと帰ってくるから」

 フィンがその頭を撫でる。

「ぴゅ」

 短い返事に、皆の表情が少し柔らかくなった。

《感情発生:決意・覚悟 1,800,000ルーメ》

 こうして――

 四魄柱《狂》が蠢き始めた南方、

 ウェルダ熱帯林圏へ向かう旅の準備が、静かに動き出した。

 嵐と笑い風の森で、

 彼らを待つものが何なのかを、まだ誰も知らない。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


そして、お読みいただきありがとうございます!

いよいよ新章、第3章「南方編」のスタートです。

今回は冒険者ギルドからの緊急依頼、そして上級パーティとの共闘という流れになりました。

ミュコはお留守番ですが、あの「ぴゅい!」(任せろ!)というドヤ顔が目に浮かびますね 。

次回、南方担当の上級パーティ《碧牙の矛》との顔合わせです。

果たしてうまくやっていけるのか……?

引き続き、応援よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
困った時の、『四魄柱《憤》を討伐した冒険者チーム』 となり、カケルはいつの間にかこの冒険者チームに無くてはならない存在となってる。流石です。カケルの「適当に“偶然”を起こしてくるさ」のセリフでとても安…
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