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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第2章 黒き怒気と転がる偶然の浄化

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第26話 ミレイユ・フォルティナ、風のように乱入す

 ギルドから帰り、前借亭の営業を再開する。

 客は少なく、店内の空気は落ち着きすぎている。

「みんな、黒霧調査の準備でもしてるのかな」

 フィンは皿を拭きながら呟いた。

「どうだろうな。得体の知れない相手の調査に、そんなに希望者が居るとは思えないが」

 ボビンは裏方で食材を運びながら答える。

 普段は大きな盾を背負う彼だが、店では器用に裏仕事をこなす。

 カケルはカウンターの奥でコーヒー豆を挽きながら、

 先ほどのギルド長の言葉を思い返していた。

(怒気か……俺が行くと悪化する可能性もあるからなぁ。

 でも行かないわけにもいかないし……)

 その瞬間――

 ――ドドドドドドッ!!

「なんの音!?」

「魔導馬車だな……しかも急加速してる?」

 ボビンが眉をひそめる。

 店の外から、魔導騎士団並みの轟音が近づいてきたかと思えば――

 ドカアァン!!!

 前借亭の入口スレスレまで魔導馬車が突っ込んで来て、

 進行方向側に向けて派手な土煙を吹き出して止まった。

「いやいやいや!! 店ぶっ壊れるわ!!」とカケル。

 扉が弾けるように開く。

「ついたーーーーッ!! 時間短縮成功!!!」

 金の巻き髪をふわっと揺らし、

 赤い研究用ローブを身にまとった若い女性が店に乱入した。

 フィンは手に持っていた皿を危うく落としかける。

「えっ……誰!?」

「はじめましてーー!!

 王都魔術研究院・特異波長研究室の

 ミレイユ・フォルティナですっ!!

 黒霧事件の調査同行のため、この町に派遣されました!!」

 テンションが高すぎて、言葉にエコーが付きそうだった。

「ちょ、ちょっと!突然、何?」

 奥からルシアナが飛び出してきた。

「あなたね! 古文書から“感情エネルギー”って言葉を引っ張り出した人!!」

「いや私はただ、記載を見て思わず――」

「素晴らしいセンスよ!!

 今まで私“感情波長エモーション・ウェイブ”って呼んでたんだけど、

 エネルギーって言葉の方が……理論にしっくり来る!!

 すごい! あとで文献全部見せて!!」

「えっ……あ、うん……?」

 ルシアナは押され気味で少し引きつった笑顔になる。

(この人……勢いすごい……)

 フィンはその場で固まった。

「そして……あなたが例の“偶然をよく起こす人”ね!!

 私にも偶然を見せてくれるのかしら?」

 ミレイユの視線がカケルに向く。

「……なんだその雑な噂」

「町に着いた瞬間、宿の主人が言ってたわよ!

 “前借亭には偶然で人を救う男がいる”って!」

「だから噂とかやめてほしい……

 偶然を見せろって言われても、それもう偶然じゃないよな……?」

「それが面白いんじゃない!!」

 ミレイユは満面の笑顔。

「で、あなた! 名前は?」

「カケル」

「よし覚えた! 後でもうちょっと話聞かせて!」

 ルシアナがじとっと睨む。

「さて……次は――」

 ミレイユの視線がフィンに向いた瞬間、

 その目の色が変わった。

「……あなた、“怒気の揺れ”を感じてるわね?」

「えっ」

 フィンは驚いた。

「さっきから店の空気が変わるたびに、

 肩が少しだけ動いてる。

 敏感――いや、繊細、かしらね」

「……ぼ、僕、そんなに分かりやすいですか?」

「研究員の目は誤魔化せないわ!」

 ミレイユが胸を張る。

 続いて、ボビンを見る。

「そしてそっちの大きな人は……」

 ミレイユが盾に手を伸ばす――

「触るな」

 ボビンの低い声が、空気を切った。

 静かだが、拒絶の色は明確だった。

 ミレイユはぴたりと動きを止めた。

「……そ、そういう感じね。分かったわ」

 彼女は一歩下がり、軽く会釈した。

 先ほどの勢いとは違い、きちんと礼儀を見せた。

(あ……この人、ちゃんと空気読めるんだ)

 フィンは、少し見直した。

「でっ!!」

 ミレイユが両手を広げる。

「調査に同行させて!

 怒気が集まる現象なんて、王都でも滅多に観測できないの!!

 こんな大規模な“感情エネルギー波形”なんて初めてよ!!」

「感情エネルギー……って、私が何となく言った言葉ね?」

「そう!! あの言葉がぴったりなのよ!!」

 ルシアナは複雑そうな顔をしつつも頷いた。

「まあ……確かに理屈は通ってるけど。

 暴走しないでよ?」

「しないしない! 私はおとなしい研究者よ!」

「“おとなしい”の基準は地方によるのかな……」

 カケルがぼそりと呟いた。

 ミレイユは気づかず、バッグから分厚い魔術測定器を取り出した。

「じゃ、明日ギルド前で集合ね!

 みんなの感情波形、ばっちり測定するから!」

「する気満々だな!」

 ルシアナが小声で突っ込む。

 フィンとボビンは顔を見合わせた。

 ボビンが肩をすくめて言う。

「……あいつはしばらく落ち着かなそうだな」

「うん……でも、なんか悪い人じゃなさそうだよね」

「研究者ってのは、だいたいあんなもんだ」

「そうなの?」

「たぶん」

 二人の会話にボビンが笑う。

「まあ、仲間は多いほうがいい。

 行くぞ、黒霧の村へ」

 ミレイユの登場により、

 前借亭は一気に賑やかさを取り戻した。

 そして――

 四魄柱「憤」との戦いに向けて、

 新たな一歩がまた踏み出されるのだった。


嵐のような研究者、ミレイユが登場しました! 彼女も加わり、いよいよ調査隊が出発……の前に。

カケルさん、また「とんでもないモノ」をインベントリからこぼしませんか?

次回、第27話「封印の調整と、神級土器の“偶然の出現”」。 明日の更新もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
嵐が突っ込んでくるという表現がぴったりなミレイユ。あのカケルに「いやいやいや!! 店ぶっ壊れるわ!!」と言わせるなんて、笑ってしまった。まわりが戸惑っていても関係なし、興味深い相手にグイグイいくのに、…
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