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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第23話 断崖の風と、封印の傷跡

 リベリス北方、赤岩の断崖地帯。

 吹き抜ける風が土砂を巻き上げ、太陽の光を橙色に乱反射させていた。

 崖の縁には、三人の姿――グレン、ボビン、フィン。

 そして少し離れた場所には、三組の冒険者パーティーが控えていた。

 今回はギルドによる「封印地の合同調査」。

 駆け出しのチームも含め、計十五名の小規模な探索隊だ。

「……封印の異常、あれだな」

 グレンが岩壁の奥を見据えた。

 地面の刻印が歪み、そこから熱を帯びた光が漏れている。

「何だよ、ただの岩壁の風化じゃ――」

 近くにいた冒険者の一人が、言葉を止めた。

 空気が震えた。

 ――ズゥゥンッ!

 地響きとともに、封印陣の中心が爆ぜた。

 溶けた岩が宙に散り、熱風が視界を奪う。

 炎の渦の中から、咆哮が響いた。

 ――グオォォォォッ!!

 赤黒い鱗、溶岩の血管。

 古代魔獣《炎鱗獣マルガドス》。

 封印が完全に解かれたのだ。

「撤退だ! あんなの、討伐ランクS級だぞ!」

「無理だ、無理だ!」

 他の冒険者たちは武器を構えるどころか、足早に後退を始めた。

 その中で、三人だけが残った。

 フィンは短剣を抜き、ボビンは盾を構え、グレンは剣の柄に手をかける。

「……逃げないのか?」

 グレンの問いに、ボビンが静かに首を振った。

「俺たちは“守る”ために来た。あの人たちが逃げ切るまでは、退けません」

「俺もです!」

 フィンが前に出る。

 震える声の奥に、確かな決意があった。

 グレンは息を吐き、剣を抜いた。

「……ったく、無茶苦茶な新人どもだ」

 だが、その瞳は笑っていた。


 魔獣が炎を吐いた。

 断崖が震え、爆風が地面を削る。

 ボビンが前へ踏み出し、巨大な盾を地面に叩きつけた。

「うおおぉぉぉっ!!」

 炎が壁のように迫る――が、盾は崩れない。

 熱が周囲の岩を焼き焦がし、地表が溶ける。

 だがボビンは、一歩も退かなかった。

「今だ、行け!」

 その隙を突き、フィンが駆けた。

 風を切る。

 軽やかな足取り。

 刃は炎を避け、赤鱗の隙間へと潜り込む。

「ここだ……!」

 短剣が、魔獣の脚関節へ突き立った。

 硬いはずの鱗を貫き、青い火花が散る。

 巨獣が咆哮し、尾を振り回す。

「フィン、下がれ!」

 ボビンが叫んだ瞬間、尾の一撃が迫る――

「うわっ!」

 弾き飛ばされる寸前、グレンが割り込み、剣で軌道を逸らす。

 尾が地面に叩きつけられ、爆風が走った。

「くっ……! 威力が……桁違いだな」

「まだ止まってない!」

 フィンが血の滲む手で短剣を握り直した。

 魔獣の片目が、彼を狙って輝く。

 炎光が収束――放たれる直前。

「やらせるかぁぁぁっ!!」

 フィンの視界が、一瞬だけ白く染まった。

 短剣の封印が軋む音。

 刃が、風そのもののように震え、黒い膜が剥がれ落ちる。

 疾風。

 世界が止まる。

 ――ザシュッ!

 フィンは魔獣の頭上を駆け抜け、片目を切り裂いた。

 血ではなく、溶けた炎が飛び散る。

 マルガドスが吠えた。

 怒り狂い、地を砕く。

 次の瞬間、口腔に紅蓮の光が集まる。

「高出力ブレスだ、全員下がれっ!!」

 グレンが叫ぶ。

 だが、ボビンは動かなかった。

 盾を両腕で支え、地面に固定する。

「下がる暇があったら、守るッ!!」

 紅蓮の閃光が、彼を呑み込んだ。

 轟音。爆炎。

 熱で岩が溶ける。

 ボビンの身体が押し潰されるように沈む――

 だが、次の瞬間。

 ――ガキィィィンッ!!

 鈍い金属音と共に、盾の表面に走った亀裂が輝いた。

 封印の掛けられた鉄板が一部裂け、その下から淡い金色の光が滲み出す。

「……っ!?」

 魔獣の炎が、逆流した。

 盾に吸い込まれた熱が、倍の衝撃となって返る。

 灼熱の奔流がマルガドスの胸を直撃。

 巨体がたたらを踏んだ。

 その一瞬の隙。

 グレンが剣を構える。

 剣に光が集まる――

「終わりだッ!!」

 閃光が、断崖を照らした。

 聖なる白刃が雷を伴い魔獣の胸を貫き、内部の魔核を一閃する。

 マルガドスの身体が爆ぜ、崩れ落ちた。

 炎が霧散し、残ったのは静かな風だけだった。


 後方で見ていた冒険者たちが息を呑んだ。

「おい……あいつら、本当にやったのか……?」

「駆け出しだぞ……?」

「いや、“勇者の剣”が導いたんだ……!」

 グレンは剣を下ろし、疲れたように息を吐いた。

 ボビンが盾を支えながら笑う。

「……重さが、ちょうどよくなった気がするな」

「お前、それ絶対気のせいじゃないだろ」

 フィンが笑った。

 彼の短剣は、今も微かに風を纏っている。

 遠く離れた《前借亭》のカウンター。

 カケルがウィンドウを眺めて、にやりと笑った。

《感情発生:覚悟・力900,000 ルーメ》

「……封印が、少しずつ解けてるな」

 ルシアナがコーヒーを注ぎながら言う。

「盾と短剣の?」

「いや、人間の方だ。強くなるってのは、そういうことだろ」

 カケルは湯気の向こうで微笑んだ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


次の話は、第1章の最終話です。

炎鱗獣マルガドスの討伐は、この先に続く苦難への序章に過ぎない?

どうなっていくのか…という展開に向けての第1章最終話です。

※次の話も、同日投稿します。

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― 新着の感想 ―
魔獣の封印が解け、次々と逃げる冒険者達までも、「守る」と、ボビンとフィンは言う。そこまで守るのか〜。凄いなあ。感心した。本当にブレなくていい。それを受け入れるグレンもいい。フィンと、ボビンの決意が本物…
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