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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第19話 守りたい、というはじまり

 昼の《前借亭》は、パンの香りと子どもたちの声で満ちていた。

 ミュコが「ぷにゅっ」と鳴くたびに、ふっくら丸いパンがふくらみ、

 フィンたちがせっせとトレイを運んでいく。

 いつの間にか彼ら孤児たちは、立派な“スタッフ”になっていた。

 焼きたてのパンを並べ、テーブルを拭き、配膳を手伝う。

 その中心に立つフィンの動きは、まるで風のように速かった。

 トレイを片手に、客席の間を縫うように走り、

 よろけた子どもを支え、落ちそうな皿を片手で掴む。

「ちょ、ちょっとフィン! 今どうやって掴んだの?」

「……体が勝手に動いたんです」

 ルシアナが感心して目を丸くする。

「すごい反射神経。冒険者でもここまで動ける人は少ないわよ」

「俺のコーヒーカップも何回か救われてるな」

 カケルが淡々とつぶやく。

「偶然って、才能を発掘することもある」

「偶然で片づけないでください」

 笑い声が弾む。

 その時、外で大きな音がした。

「おっと、荷物が……!」

 店の前を通りかかった荷馬車がバランスを崩し、

 積荷が通りに落ちかけた。

 次の瞬間、フィンの体が跳ねた。

 ――シュッ。

 足元の樽を蹴って跳び上がり、空中で麻袋を抱え込む。

 そのまま回転し、着地の反動を殺してふわりと降り立つ。

 通りの人々がどよめいた。

「今の、見たか!?」「まるで羽根みたいだ!」

 ルシアナが目を見張る。

「すごい……反応速度が常人の域じゃない」

 カケルは腕を組み、口元をゆるめた。

「動きの速いやつは、たいてい“逃げる経験”がある。

 けど、いずれ“守るため”にその速さを使いたくなる」

 荷物を積み直して戻ってきたフィンは、

 照れくさそうに頭を掻いた。

「……勝手に、体が動いて」

「いい動きだった」

 その声の主は、入口の影から現れた大柄な男――ボビンだった。

 大きな荷を背負い、腰には何の武器も帯びていない。

「今の動き……重心が完璧だ。

 勢いを殺して、地面の傾きに合わせて降りた」

 フィンが目を丸くする。

「わかるんですか?」

「俺も荷物運びだからな。物が落ちる時の重さの流れは、

 何となく分かるんだ」

 ルシアナがふっと笑う。

「ボビンさん、いい観察眼してますね」

「まぁ、荷物を壊したら給料がなくなるだけで……」

 ボビンは少し恥ずかしそうに笑った。

「俺はただ、運んでるだけだから」

 その言葉に、フィンが小さく首を振った。

「でも、今の言い方……“守ってる”ように聞こえました」

「守ってる?」

「荷物だって、誰かの大切なものですよね。

 それを壊さないように運ぶのって、立派な“守る”ことじゃないですか」

 ボビンは一瞬、言葉を失った。

 これまで誰かに“守ってる”と言われたことなど一度もない。

 力を見せびらかすでもなく、ただ働くために体を動かしてきた。

 だが、フィンの真っすぐな瞳を見て、胸の奥で何かが灯った。

「……守る、か」

「はい。俺も……誰かを守れる人になりたい。

 弟たちを守れるくらい、強くなりたいんです。

 その第一歩として、冒険者に登録したい」

《感情発生:強い意志600,000 ルーメ》

 カケルがカウンター越しに見守る。

「ほらな、ルシアナ。才能の見つかる偶然って、悪くないだろ」

「……今度ばかりは認めます」

 ボビンはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「フィン。お前の話を聞いてたら、俺も……なんか守りたくなった」

「え?」

「俺も登録してみるよ。冒険者として。

 荷物を運ぶだけじゃなく、誰かを支える仕事をしてみたい」

 フィンの顔がぱっと明るくなった。

「じゃあ、一緒に! ボビンさんと俺で!」

「……そうだな。二人で行くか」

 ルシアナが微笑む。

「守りたいコンビ、結成ね」

「“不死身の荷運び”と“駆ける羽根”、か」

 カケルが笑う。

「名前は悪くない。響きもいい」


 ◇


 夕方のギルド。

 冒険者たちの喧噪の中で、ボビンとフィンが受付に並んだ。

 ノエルが笑顔で迎える。

「ボビンさんにフィン君……登録希望ですか?」

「はい!」

「俺も、一緒に」

 ノエルが少し驚いたようにボビンを見る。

「ついに登録を?」

「ええ。……子どもに教えられました。

 守るってのは、力を使う理由なんだって」

 ノエルは微笑みながら書類を差し出した。

「いいですね。そういう理由で始める人は、きっと強くなれます」

 ペンを握る二人の手が、並んで動く。

 ノエルが微笑む。

「これで冒険者登録がされたわ」

 《感情発生:期待50,000 ルーメ》


 ◇


 夕暮れの《前借亭》。

 カケルとルシアナがカウンター越しにウィンドウを見つめていた。

「二人の登録、ちゃんと感情ルーメに反映されてます」

「“守りたい”って気持ちは、強いエネルギーだからな」

「偶然じゃないですよ、これは」

「そうだな。……これは、意志だ」

 ミュコがカウンターの上で“ぷにゅ♪”と鳴き、

 新しい小麦の香りをふわりと広げた。

 カケルは笑みを浮かべながら、ゆっくりと呟く。

「守りたい、か。

 ……いい言葉だな」

 ルシアナはその横顔を見つめて微笑んだ。

「ええ、あなたもきっと、誰かを守るためにここに来たんですよ」

「ま、偶然そうなっただけだ」

「はいはい、偶然偶然」

 窓の外で、夕陽がリベリスの町を金色に染めていった。

 その光の中を、フィンとボビン――

 “守りたいコンビ”が並んで歩いていく。

 小さな影と大きな影が重なり、

 やがて同じ方向へと伸びていった。

次の話は、久しぶりにカケルのチートな話です。

お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
生きるためとはいえ、窃盗をしていたフィン。そのため、町の人達から汚物を見るような視線を受けていたが、じっと耐えていた。本当はフィン自身守られるべき存在なのに…。そんなことよりも、自分が嫌われても構わな…
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