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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第18話 月の姫と、ちいさな買い物

 昼の《前借亭》は、焼きたてパンと香草の匂いで満ちていた。

 ミュコの「ぴゅい♪」という鼻歌のような鳴き声が、店の奥に陽気に響いている。

 その扉がためらいなく開いた。

「こんにちは。今日は“ミリア”として来ました」

 上品だが飾り気のない服装の女性――

 その正体は“月の名の姫”セリーネ・アルヴェール。

「ミリアさん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「ミリアとして、ご相談に来ました」

 湯気の立つお茶を受け取ると、

 ミリアはカウンター越しにふたりへ向き直った。

「――あなた方の店の隣に、孤児院を建てることにしました」

「えっ」

「孤児院?」

 ルシアナとカケルが同時に声をあげる。

「例の盗人の親方に囲われていた子どもたちです。

 あの子たちは、本当は危険な存在ではありません。

 ただ、守られないまま閉じ込められていただけの、普通の子どもたちです」

 ミリアは静かに続ける。

「建設が終わるまでは……子どもたちは冒険者ギルドで預かります。

 寝泊まりは安全にできますが――

 日中は、この《前借亭》で過ごさせたいのです。」

「うちで?」

「はい。理由は二つあります。

 一つ、子どもたちに“町の人は怖くない”と知ってほしい。

 二つ、町の人にも“普通の子どもたちだ”と実際に触れて感じてほしい。

 あなた方の店には人が集まります。

 ここなら自然に触れ合いが生まれ、誤解が消えます」

 ルシアナはうなずいた。

「確かに……うちなら距離が近いし、すぐ顔見知りになれそうね」

「そして……もう一つ。

 この店で、子どもたちに“働く経験”を作ってあげたいのです。

 誰かの役に立てるという感覚は、自信になります」

 ミリアがほんの少しだけ頼るような目で見つめてくると、

 カケルは、考えるより早く口が動いていた。

「よし。

 じゃあ、うちの“スタッフ”として手伝ってもらおう。

 昼の混む時間、皿運びや水汲みならできるだろうし。

 もちろん賃金も払うよ。助かるしね」

「本当ですか? ありがとうございます」

「……勝手に決めて」

「ルシアナ、嫌だった?」

「べつに。悪くないけど……なんか……」

「ぴゅ……(嫉妬……?)」

「違うって言ってるでしょ!」


 ◇


 その足で冒険者ギルドへ向かうと、

 保護された子どもたちが布団の上に小さく固まっていた。

 その中に、少し年上の少年――フィンがいた。

「こんにちは。買い物に行きますよ」

 ミリアが穏やかに声をかけると、

 フィンは控えめに手を挙げた。

「……あの、ミリアさん。

 ぼくら……迷惑じゃないですか?」

「迷惑なんてことはありません。

 あなたたちは町の子どもです」

 その言葉に、フィンは胸をなでおろすように息をついた。

 そして小さな子の肩にそっと手を置き、庇うように前へ出る。

「……じゃあ、みんなで行きます。

 小さい子、途中で疲れちゃうかもしれないので……

 ぼくがこの子達の様子を見ながら」

「いい子ねぇ……」とルシアナが小さくつぶやく。

「じゃ、荷物持ちはカケルさんにお願いします」

「はいはい。……って、なんで俺なんだ?」

「自然ではありませんか?」

「……なんか気に食わない」

「ぴゅ……(険悪……?)」


 ◇


 街へ出ると、子どもたちは怯えながらも興味深そうに周囲を見回した。

 服屋では、店員がサイズを測る。

 フィンはそっと幼い子の背中を押す。

「この子、先に測ってあげてください。

 ぼくはあとでいいので」

「もちろんよ」

 と店員が笑うと、フィンは少し照れた。

「みんな……新しい服、楽しみにしてたので……」

 新しい服を鏡の前で見た子どもたちの目は輝いた。

「これ……ぼくの?」

「そう。似合ってるよ」

「へへ……」

 ルシアナが女の子の髪に丁寧にリボンを結ぶと、

 女の子は耳まで赤くなって何度も鏡を見た。

《感情発生:喜び10,000 ルーメ》

「とても可愛いですよ」

 ミリアが微笑むと、

 ルシアナの眉がぴくっと跳ねた。

(……なんかムカつく……なんで?)


 ◇


 靴屋に寄り、文具を買い、寝間着まで揃えたころ――

 すれ違う町の人達が子どもたちに気づき始めた。

「あの子たち……」

「ギルドで保護されたっていう……?」

 子どもたちは肩を縮めて後ずさる。

 その背を、フィンがさっと庇うように前に出る。

「こんにちは……。

 あの、小さい子……まだ怖がってるだけで……」

 町民の女性は驚き、そして微笑んだ。

「ええ、分かってるわ。

 みんな、よくがんばったのね」

 フィンはほっとし、子どもたちへ

「大丈夫だよ」と小声で囁いた。

《感情発生:安堵50,000 ルーメ》


 ◇


 前借亭に戻ると、温かいパンの匂いが子どもたちを迎えた。

「明日から、ここで少しずつ手伝ってもらうからね」

「……できるかな」

「大丈夫。俺も最初、皿割ったし」

「それ言う?」

「ぴゅい!」

 すると、フィンが控えめに手を挙げた。

「……あの、本当に……ぼくらが、手伝っていいんですか?

 不器用なところもあって……邪魔にならないか、心配で……」

 カケルは優しく笑った。

「フィン、むしろ期待してる。

 みんなの役に立とうとするその気持ちが、もう立派な“仕事”だよ」

 フィンは少し驚き、そしてほんのり笑った。

「……はい。

 ぼく、ちゃんとみんなの役に立てるようにします」

 ミュコが「ぴゅい♪」と鳴き、

 子どもたちの心がゆっくりほぐれていく。

《感情発生:決意30,000 ルーメ》



 ミリアは店の窓から外を見た。

 夕日が落ちていく隣の空き地――

 そこに、孤児院が建つ予定だ。

「ここなら……子どもたちは変われます。

 この町の人たちとも、自然に繋がれるはず」

「ただの喫茶店だよ?」

「いいえ。

 あなた方の店は――人の心がほどける場所です」

 ルシアナは少しだけ照れ、ミリアは穏やかに微笑む。

「では明日も、“ミリア”として来ますね」

「え? 来るの?」

「もちろんです」

「……また来るんだ……」

「ぴゅい(これは続くやつだ)」

 空き地の上に落ちる夕日が、

 新しい未来の影を、静かに照らしていた。

次の話は、フィンとボビンに起こる変化の話。

新コンビ誕生です。

お楽しみに。


※現在、平和的な日常回が続きますが、水面下では新たな敵とのバトルを準備中です。

そして、本日から再び毎日&複数投稿いたします。

本日は、20話まで投稿しますよ。

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― 新着の感想 ―
さり気なくカケルに荷物持ちを依頼するミリアさん、お上手&素敵。フィン達の心が癒されて、環境が整うのはすごく嬉しい。これからフィンが頑張って活躍するんだなぁ〜って、期待が持てる。 そして、ミリアさんの「…
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