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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第17話 月の名の姫、町の心を照らす

 翌日のリベリス中央広場は、早くも人で埋め尽くされていた。

 三百ほどの町民が、紋章旗を見上げながらざわついている。

「人、多いな……」

「そりゃ、新領主代理のお披露目だからね」

 ルシアナは腕を組んだまま、カケルを横目でにらむ。

(まさか昨日の“ミリア”が領主代理なんて……信じられないんだけど)

 カケルは涼しげにコーヒーを飲んでいた。

「まぁ、働きたいって言ったから採用しただけだ」

「採用理由が軽すぎるの!!」

 ミュコが「ぴぴゅ〜」と湯気を吐いて宥める。

 やがて王都の紋章を掲げた馬車がゆっくりと止まり、

 先触れの兵が声を張り上げた。

「臨時領主代理、セリーネ・アルヴェール様、ご到着――!」

 広場に緊張が走る。

 扉が開くと、昨日“ミリア”として働いていた女性が、

 今日は別人のように凛として立っていた。

 白銀の髪は風に揺れ、深い青の瞳は強く澄んでいる。

 威圧ではなく、堂々とした気品。

「……ギャップがえぐいな」

「昨日のあなたの採用判断のせいで私の脳がバグるのよ……!」

 セリーネは護衛を静かに下がらせ、ひとりで壇上に進んだ。

 静寂の中、彼女は口を開いた。

「――初めまして。王都より派遣されました、

 領主代理、セリーネ・アルヴェールです」

 澄んだ声が広場を包み、人々は自然と耳を傾ける。

「まずは、前任者の虚偽報告と不正行為によって、

 この町に危険と混乱をもたらしたことを謝罪します。

 王都はすでに、彼の罪を正式に断罪いたしました」

 あちこちで安堵の息が漏れる。

 そこでセリーネの視線がふと動き、

 冒険者ギルドの一団の前に立つ青年へと止まった。

「そして──」

 少し声が柔らかくなった。

「この町を守った“勇気”にも、私は敬意を示さねばなりません。

 グレン・アルファード」

 名指しされたグレンは肩をびくっと震わせ、姿勢を正した。

「あなたが聖剣を掲げ、邪竜を退けたことは、

 王都にも届いています。

 その行いは、誇りであり、希望です」

 グレンの目が大きく開き、ノエルが胸に手を当てて涙をこらえる。

「あなたがいなければ守れなかった命が、確かにあります。

 心から、ありがとう」

 広場の片隅から拍手が起こり、やがて波のように広がった。

 セリーネは軽く頷くと、言葉を続けた。

「昨日、私は町を歩きました」

 ざわめきが走る。

「その中で、私が見たのは……“町の心”でした」

 ルシアナが息を詰め、カケルはわずかに目を細めた。

「お腹を空かせた子にパンを分ける子どもたち。

 泣く仲間にそっと寄り添う幼い手。

 誰かの“過去の罪”ではなく、

 “目の前の空腹”を見つめる町のやさしさ」

 広場の空気が静かに震えた。

「私は確信しました。

 この町には、守るべき“心”があります」

 そして強く、まっすぐと言い切った。

「だから私はまず──

 “子どもたちの居場所”を作ります」

 フィンが涙をこらえきれず口元を押さえた。

「夜が怖くない場所。

 明日を奪われない場所。

 勉強ができて、眠れて、笑える場所。

 大人の都合で未来を奪わせないために」

 セリーネは視線を広場全体へ。

「そして──

 私は“上から命じる者”ではなく、

 あなた方と“隣で歩く者”でありたいのです」

 昨日、前借亭でこぼした“あの言葉”が、公の場で形になった。

「明日のリベリスは、王都ではなく“あなた方”とともに作ります。

 どうか、力を貸してください」

 静寂ののち、ぽつりと聞こえた拍手。

 もうひとつ。

 それは勢いを増し、広場全体の大きな拍手になった。

 子どもたちも、小さな手で懸命に叩いていた。

《感情発生:希望・共感1,500,000 ルーメ》


「……すごいな」

 カケルが腕を組んで呟く。

「ほんとよ……昨日あんな控えめだったのに……」

 ルシアナは目を丸くしながら、しかしどこか誇らしげだ。

「働きたいなら、また来てくれればいいけど」

「いやそこは距離感持ちなさいよ!!」

 ミュコが「ぴゅ〜♪」と湯気を吹き、

 ふたりのやり取りに湯気の輪を浮かべた。

 壇上を降りるセリーネは、

 ほんの一瞬だけ前借亭の方へ視線を向け、

 柔らかく微笑んだ。

 その視線を受けたカケルは、

「……まぁ、悪くないな」

 と小さく呟いた。

 リベリスの空気が、確かに変わり始めていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

物語が少しでも気に入っていただけたら、

ぜひブクマで応援いただけると嬉しいです。

更新の励みになります。


次の話は、フィン達孤児の新たな生活に繋がっていく話です。

お楽しみに。


※現在、平和的な日常回が続きますが、水面下では新たな敵とのバトルを準備中です。

年末に向けて、その動きの中で第1章が終わり、

来年より新たな敵との闘いに向けた第2章が始まります。

楽しんで頂けましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
「町の心を照らす」というタイトルがすごくいい。 そして住民は、臨時領主代理の元、自分達の町作りに励んでいく=希望が見えるし、数値も納得。 グレンが讃えられた時のノエルも、グッとくる。その時のグレンに対…
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