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異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?  作者: 早野 茂
第1章 異世界召喚と「前借(まえがり)スキル」、そして140億ルーメの感情負債

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第11話 前借亭(まえがりてい)、開業す――偶然の出会いが風を運ぶ

 リベリスの空は、やわらかな青に染まっていた。

 町は笑いに包まれている――はずだった。

 だが、カケルのウィンドウには冷たい数字が光っている。

《現在負債:約147億219万ルーメ》

《昨日の返済:0 (利息未反映)》

「……やっぱり減らないな」

「町の人たちは笑ってるのに」

「世界を回すには、もう一段深い感情が必要だってことだろ」

「じゃあ、どうやって?」

「……人を人に戻すんだよ」

 カケルは呟き、視線を町の中心へ向けた。

 広場の端――ギルドの外で、英雄グレンがぼんやりとベンチに座っていた。

 人々が通るたびに、誰もが彼を称える。だが、彼の笑みはどこかぎこちない。

「英雄ってのも、案外孤独な職業らしい」

「……では、その人を“偶然”で助けると?」

「そのつもりだ。――場所も、用意する」



 数時間後。

 ギルド裏の空き倉庫の前で、カケルが腕を組んでいた。

「ここを店にする」

「え、いきなり!?」

「金は問題ない。金銀財宝は腐るほど有る。

けど、感情は稼げない。

倉庫はギルドの仲介で購入した。

空いていたので喜ばれた。

ついでに飲食店の許可もギルドから得た。

近くに食事ができる店ができると、これも喜ばれた」

「私が知らない間に!」

「とにかく、人が“関われる場”を作るんだ」

 カケルは掌をかざした。

 光が走り、古びた壁が新しく変わっていく。

 木の香りと共に、暖かな風が流れ込んだ。

 看板が自動で浮かび上がる。

 ――《純喫茶“前借亭まえがりてい” こども無料の日・笑顔割引あり》

 ルシアナが口を開けたまま固まる。

「……なんですか、その慈善事業っぽい喫茶店!?」

「金の循環じゃなくて、感情の循環を回す店だ」

「え、税務申告とかどうするんですか?」

「そこは“偶然控除”で」

「そんな控除項目ないです!」

 ミュコが「ぷに♪」と鳴いてカウンターに飛び乗る。

 カケルは笑い、カップを並べた。

「よし、営業開始。目標は一日十万ルーメ返済」

「経営目標の単位おかしくないです!?」


 ◇


 夕方、店の扉が静かに開いた。

 入ってきたのは、グレンだった。

 鎧を外し、町の青年の顔に戻った姿。

「……ここ、新しくできた店ですか?」

「いらっしゃい。初来店、特別価格“勇気割”で無料だ」

「いや、それもう商売じゃ……」

「いいんだよ。金は回しても感情は増えない」

 カウンターに座ったグレンにルシアナが微笑んでカップを差し出す。

「どうぞ。“感情安定ブレンド”です」

「名前が怖いな……」

 グレンは苦笑しつつ一口飲み、ふっと肩の力を抜いた。

「……うまい」

「だろ? スライム抽出フィルター式だ。知らんけど」

「やめてくれ、それ以上説明しないで」

 ちょうどそのとき、ギルド制服姿のノエルが休憩中に通りかかった。

「あれ、グレンさん?」

「ノエルさん……!」

 彼が慌てて立ち上がり、コーヒーをこぼしそうになる。

「こんなところで会うなんて、偶然ですね」

「え、あ、はい。ちょっと……喉が渇いて」

「こんなお店ができるなんて。

直ぐに寄っちゃいました。

カケルさん、私もブレンド一杯」

ノエルはグレンから一つ席を開けてカウンターに座る。

「了解。(恋愛フラグ増量で)」

「(なに混ぜようとしてるんですか!?)」

 ルシアナがツッコミを入れる横で、二人はぎこちなく笑い合う。

 ほんの一瞬、グレンの顔から“英雄”の仮面が消えた。

 ――その瞬間、ウィンドウが光を放つ。

《感情発生:恋の予感110,000 ルーメ》

 ルシアナが思わず声を上げた。

「すごい……今の一瞬で11万ルーメ……!」

「やっぱりな。恋の力は経済を動かす」

「いや、経済ニュースみたいに言わないでください!」

 ノエルは照れくさそうに笑い、グレンは頭をかいた。

「えっと……また来てもいいですか?」

「もちろん。次は“笑顔割”で」

 グレンが店を出る。

「ギルドの裏にこんな素敵なお店が出来てうれしいです。

 また来ますね」

 とノエルも暫く後に店を出ていく。

 ルシアナがふと、カケルを見上げる。

「……あなた、ほんとに“偶然”を操ってますね」

「操ってるんじゃない。拾ってるだけだ」

「拾ってる?」

「落ちてる感情を、少し動かすだけ」

 ミュコがカウンターで“ぷに♪”と鳴いた。

 店内の灯が暖かくともり、窓越しに通りの笑い声が流れ込む。

 カケルは湯気越しにその光景を眺め、静かに言った。

「――これで、少しは“人間の町”に戻す準備が出来たな」

「ええ。たぶん今日の笑顔は、本物です」

 夕暮れの風が看板を揺らす。

 木の文字が柔らかく光り、まるで囁いているようだった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

物語が少しでも気に入っていただけたら、

ぜひブクマで応援いただけると嬉しいです。

更新の励みになります。


次の話は、苦労続きのルシアナに、少し良いことが起こります。

お楽しみに

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― 新着の感想 ―
町の危機を回避するだけでなく、日常生活での人々の感情をもう一掘り、取り戻す事が必要なんですね。なんだか深い。 まず、てはじめに、グレンさんの恋愛成就!うまくいけば、出会いの場?デートスポットになり得る…
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