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第2章 「選別の儀式」

その朝、空はいつもより青かった。

町全体が、まるで祭りのように浮き立っていた。

通りにはリボンが飾られ、人々の目は希望で輝いている。

――今日は、十五歳になる子どもたちが、自分の「カード」を授かる日だ。


「なあ、緊張してきた……」


レオが拳をぎゅっと握っていた。

普段はふざけてばかりの彼の顔に、珍しく真剣な色が宿っている。


「……緊張してるの、あんたじゃなくてシアンでしょ」


ミナが小さく笑い、シアンの肩を軽く叩いた。


「だって、いっつも平気そうな顔してるけど……ほんとは心臓バクバクなんでしょ?」


「そんなこと……あるかよ」


シアンは笑って返したが、心臓は本当にうるさいくらい鳴っていた。



3人は城の大広間へ向かう石畳を歩いていく。

その先には、白い大理石の階段と、巨大な扉。

扉の上には、金色のトランプマークが刻まれている。

――ハート、ダイヤ、スペード、クラブ。

すべての運命はこの扉の先にある。




大広間は、石造りの天井が高く、光が床に反射してまぶしかった。

中央には、水晶玉が据えられた壇上。

その前に、王国の選別官が立っている。

黒いローブをまとい、金色の仮面をかぶったその姿は、まるで神官のようだ。


「これより――選別の儀を執り行う」


低く響く声が、広間に満ちた。

緊張した息が一斉にのどの奥に沈む。


名簿を持った補佐官が、ひとりずつ名前を呼ぶ。

呼ばれた子どもは壇上に上がり、水晶玉に手を置く。

その瞬間、水晶玉は光を放ち、どのスートに属するかを告げる――。




「レオ・ファルコン!」


「きた……!」


レオが深呼吸をして壇上へと進む。ざわめく広間。彼が水晶玉に手を置いた瞬間――白い光が広がり、赤い剣のマークが天井に浮かび上がった。


「――スペード!」


「やったぁああ!!」


レオが拳を突き上げると、後ろの仲間たちから拍手と歓声が起きた。

スペード。それは王国の剣士階級。

彼の夢が、いま現実になった。



「ミナ・クレイ!」


今度はミナが震える手を握りしめて壇上へと上がる。シアンは、喉がからからになるのを感じながら見守っていた。

彼女が水晶玉に触れた瞬間、やわらかな光が溢れた。

天井には――赤いハートの印が浮かぶ。


「――ハート!」


ミナは涙ぐみながら、両手で胸を押さえた。

人々から祝福の拍手が送られる。彼女の夢も、叶った。


「(次は……俺の番だ)」


「シアン・グレイ!」


名前を呼ばれた瞬間、空気が遠くなる。頭が真っ白になった。でも足は自然と前に出て、壇上の階段を上がっていく。


水晶玉が、目の前にあった。

透明なその表面は、自分の顔を映していた。


「(大丈夫だ。きっと、スペードになれる)」


震える手を、ゆっくりと玉の上に――


……置いた。



――沈黙。


他のときと違う。

光が――出ない。


「……え?」


シアンは思わず声を漏らした。

水晶玉は静かに、何の反応も示さなかった。


「……まさか」


誰かの囁き声が広間に走る。


「光が……出ない?」

「そんな……ニエンテ、なのか……?」


いやだ。

違う。

もう一度、強く手を押し当てる。

心の底から、祈る。


「(光れ……! 俺を――選べ!!)」


だが、玉は冷たいままだった。

冷たくて、まるで氷を握っているようだった。



「選別不能――ニエンテ」


選別官の声が広間に響いた。


その瞬間、時間が止まったようだった。

ざわめきが爆発する。

子どもたちの中には、口元を押さえて目を見開く者。

大人たちは顔を背け、兵士たちは淡々と視線を落とす。


「……うそ、でしょ……」


ミナの声が震えていた。

レオは固まったまま、何も言えない。


シアンは立ちすくんでいた。

喉の奥に何かがつかえて、息ができない。頭が真っ白で、耳鳴りがする。

足が勝手に壇上を降り、誰にも触れられないようにその場を去った。




外の空は、朝と同じように青かった。なのに、あの空は、今はひどく遠い。

町のざわめきも、祝福の鐘も、全部が背中を突き刺すように痛かった。


「……なんで、俺だけ……」


レオもミナも、もう自分と違う場所にいる。

スートを持つ者と、何も持たない者――

その境界は、たった一瞬で決まってしまった。




家の扉の前に立っても、ノックできなかった。

母の顔を見たら、きっと崩れてしまう。逃げるように裏道に走った。涙が頬を伝っているのに、止められなかった。



ーーーー


その夜、誰もいない路地裏。

冷たい風の中で、ひとり膝を抱えながら、シアンは呟いた。


「……俺は、何者にもなれないのか……?」


暗闇の向こうから、からん、と鈴のような音が響いた。

まるで、道化師が笑っているように。

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