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第17章 「塔への影」

王都の夜は、異様なほど静かだった。

スートの地区には宵闇が降り、街灯の明かりが石畳に長い影を落としている。

けれど、誰も外には出ていなかった。


ーー王が動いた夜の街は、民たちにとって“触れてはいけない時間”だった。


その王都を、闇に紛れて進む一団があった。

シアン、ジョーカー、リア、そして森を生き延びたニエンテの仲間たち。

彼らの目の先には、王国の心臓――白い塔がそびえ立っていた。


「……でっけぇな」


仲間の一人が息を呑む。

城壁を越えてもなお聳えるその塔は、月の光を浴びて青白く輝いている。

その存在感は、まさにこの国そのものの象徴だった。



「こっから先は一歩間違えりゃ即死だ」


ジョーカーが帽子のつばを下げ、声を潜める。


「塔にはスートの精鋭と、ジャックが常駐してる。

真正面から行けば、数分と持たねぇ」


リアが眉をひそめた。


「それでも、行くんだね」


ジョーカーはにやりと笑った。


「当たり前だ。ーー正面から、行かなきゃいいだけの話さ」


そう言って、地面を軽く叩く。

カチリと音がし、苔むした石板がゆっくりと開いた。現れたのは暗い地下通路。

冷たい空気が吹き上がり、夜風と混ざり合う。


「……地下通路?」


「王国の連中ですら知らねぇ“余白”だ。

盤面の下にある、誰も見えない“裏道”だよ」



シアンは、塔を見上げた。その高さは圧倒的だった。けれど、恐怖よりも胸にあるのはーー静かな怒りだった。


「(ここが……。今度こそ……)」


森での敗北の記憶。仲間たちの叫び。悔しい思い。

あの夜、燃え落ちる森の向こうに立っていた“王の姿”が頭をよぎる。


ーー絶対に、あの仮面を砕く。


「……行こう」


シアンの声は低く、だがはっきりとした力を帯びていた。その言葉に、仲間たちが一斉に頷く。


ーーーー


地下通路は、酷く冷たかった。

石でできた壁には苔が生え、どこからか水の滴る音が響いている。

狭い通路を進むたび、靴底が湿った音を立てた。


「ここ、ほんとに王城の地下なの?」


リアが小さく声を溢した。


「信じられない……こんな道、誰も聞いたことない」


「そりゃそうさ」


ジョーカーが軽い声で返す。


「スートの連中に“見える”のは盤面の上だけ。

下にある“余白”なんて、気づくことすらできねぇ」


「……おまえ、ほんとに何者なんだよ」


「道化師だよ。王様にとって、いちばん目障りな“例外”さ」


ジョーカーはそう言ってニヤリと笑った。



やがて、通路の先にぼんやりと明かりが見えてきた。塔の真下へとつながる階段だった。

石造りの壁には古びた紋章が刻まれ、長い年月を経てひび割れている。

リアが息を呑む。


「本当に塔の中に……?」


ジョーカーが指を口に当てた。


「静かに。ここから先は、敵の巣のど真ん中だ」


上方からは、わずかに兵士の声と金属の擦れる音が聞こえる。

夜中でも警備は厳重だった。


階段の踊り場で、一行はいったん立ち止まった。

ジョーカーが地図代わりのカードを取り出し、手のひらの上で光らせる。


「塔は三層構造だ。一階は衛兵とジャックの警備、二階はスートの“制御中枢”、三階が……心臓部」


「水晶……」


シアンが呟く。

あの青白い脈動が脳裏に蘇る。この世界の“運命”を決める場所。


「俺たちの目的は“奪う”ことじゃねぇ。“壊す”ことだ」


ジョーカーが言い切る。


「もし心臓をぶっ壊せりゃ、この国のルールは崩壊する。スートの秩序も、選別も、全部な」


リアが深く息を吸った。


「……本当にやるんだね」

「やらなきゃ、何も変わらない」


シアンの声は静かだった。


「俺たちは、もう“消される”だけの存在じゃない」


ジョーカーがニヤリと笑う。


「その言葉、嫌いじゃないぜ。ーー主役っぽくなったな、シアン」


リアも笑う。

不安は消えない。恐怖もある。

けれど今、誰の目にも“迷い”はなかった。



「配置につけ。作戦開始はあと三分」


ジョーカーが合図すると、仲間たちはそれぞれの持ち場へ散っていった。

リアは後方支援、ニエンテたちは上階への陽動。

そしてシアンとジョーカーは、塔の心臓部を目指す。


「(ここを壊せば……この世界は、変わる)」


剣を握る手が、自然と強くなった。



「……ジョーカー」


「なんだい?」


「もし俺があいつを倒したら、この国はどうなる?」


ジョーカーは少しの間黙り、それから薄く笑った。


「さあな。きっと“混沌”になるだろうな」


「混沌……?」


「いいか、シアン。

“壊す”ってのは、整った未来を用意することじゃない。誰も知らない未来を“開く”ことだ」


シアンは静かに頷いた。

その答えが、今の自分には十分だった。


鐘の音が、夜の王都に鳴り響いた。

深夜零時。

それは王国の守護の鐘――だが今夜、それは反逆者たちの合図になる。

ジョーカーが帽子を深くかぶる。


「……さぁ、舞台の幕が上がる」


塔の地下から、静かに、しかし確実にーー

“外側”の反逆が始まろうとしていた。


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