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指定席

ある夜、都会の外れにある古びた映画館。

上映中の映画は誰もが知る名作で、しかしこの映画館には、普通の映画館とは違う、奇妙な噂があった。

近隣の住人たちは口を揃えて言う。


「この映画館には、行ってはいけない席がある。」


それは、映画館の最前列の一角に存在する「指定席」と呼ばれる席だった。

この席に座った者は、必ずその後、姿を消すという。


佐藤玲子は、映画館のことなど全く気にせず、普通の金曜日の夜、仕事帰りに映画を観に行くことにした。忙しい日々の中で、久しぶりに映画を観ることにワクワクしていた。玲子はチケットを購入し、受付で案内された座席に向かう。


「こちらがお客様のお席です。」


受付のスタッフがチケットを渡しながら声をかけた。

受付の言った言葉に玲子は少し違和感を感じたが、すぐに気にせず席を探した。

映画館にはほとんど客がいなかった。

館内は暗く、静かな空気が漂っている。

その静けさに、少し不安を感じながらも、玲子はその席に腰を下ろした。


その席は、最前列の端にあった。

角度的に画面の中央には少しズレているが、玲子は特に気にしなかった。

少しでも映画を観られるなら、どこでもいいと思ったからだ。


映画が始まると、映像の世界に引き込まれていった。

心地よい暗闇とスクリーンの光に包まれ、周囲の雑音は完全に消えていった。

しかし、しばらくして、玲子は何か違和感を感じ始めた。


……ジジッ


突然映像にノイズが走るシーンがあった。

その瞬間、玲子は息を呑んだ。

さらにスクリーンに映る人物が、目の前の席に座っている自分をじっと見つめている。


「気のせいだろう…」と玲子は自分に言い聞かせるが、その不安は消えることなく、次第に強くなっていった。


映画が進むにつれて、その違和感はますます増していった。

映画の中で、登場人物たちがどんどん玲子のことを知っていくような場面が続き、そのたびに玲子の心拍数が速くなった。スクリーンの映像が妙に現実味を帯びてきたのだ。


そして、とうとう恐ろしい瞬間が訪れた。映画の登場人物が、スクリーンから飛び出し、映画館の中を歩き出した。その人物は、最前列の端に座っている玲子の前に立ち、じっと彼女を見下ろしていた。まるで映画のキャラクターが現実の世界に現れたかのように、息を呑むほどリアルだった。


玲子は、恐怖で体が固まった。彼女は目を逸らすことができなかった。その人物が口を開く。


「座ってはいけなかった。」


その声は、映画の音楽にかき消されることなく、玲子の耳に直接響いた。

彼女の背筋を冷たい恐怖が走り、動けなくなった。


その瞬間、周囲の空気が一変した。暗闇が濃くなり、映画館全体が異常な静けさに包まれた。玲子は、もはや映画を観ているのではなく、現実の中でその人物と向き合っているのだと感じた。


突然、映画館の明かりが点灯し、スクリーンが暗くなった。玲子は思わず目を閉じて、そして開けると、目の前には何もなかった。

しかし、座席の背もたれには、確かに「指定席」と書かれた名札が残っていた。


玲子は震えながらその場を立ち上がり、慌てて映画館を後にした。

外の空気を吸い込むと、ようやく少し落ち着いた。

しかし、あの席が気になるが、頭をブンブンと振りあの恐怖を消し去る。

私は、もう座らないし誰にも座られることがないように願った。



翌日、映画館は慌ただしかった。

スタッフの報告では、昨日の上映から1名がまだ出てきていないという、当然、館内は捜索済み。スタッフたちの心の中は”またか,,,”と思う者が多数

報告したスタッフも誰かわかっていないのである。

その席には、今も「指定席」の名札がしっかりと置かれていたという。


その映画館に足を運ぶ者がいる限り、「指定席」の噂は消えることなく続いていくのだった。

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