表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/427

抜け目

その村には、奇妙な言い伝えがあった。

「抜け目を犯すと、目に見えぬものが取り憑く」と。


俺、佐藤浩一はその言い伝えを半信半疑で聞いていた。

だが、ある夜、予期せぬ形でその言葉が現実のものとなった。


仕事で疲れ果て、久しぶりに実家に帰ると、母が言った。

「浩一、最近変だね。目が…ちょっと怖いよ」


何が怖いのか、最初はわからなかった。

けれど、鏡を見た瞬間、背筋が凍る思いがした。

目の奥が黒く、深く沈んでいるように感じた。


次の日、村の古老、村上さんに会った。

彼は昔からの村の伝承を語り継ぐ人物で、俺にとってもただの年老いた村人だと思っていた。しかし、あの夜、何かが違った。


村上さんは言った。

「浩一、お前は『抜け目』を犯したな。」


「抜け目?」と俺は聞き返す。

意味がわからなかった。


「抜け目とは、何か重要なものを見逃すことだ。お前がやったんだろう。あの道を通る前に、見逃したんだ。」


村上さんの言葉に困惑しながらも、俺は何も言わなかった。

だが、帰り道で思い出したことがあった。あの夜、村の道を歩いていたとき、ふと目をそらしたことがあった。それは、小さな川のほとりに立つ一人の男の姿を、俺は見たような気がした。でも、目を逸らした瞬間、その男は消えていたのだ。


その男が本当にいたのか、幻だったのか、それを考えているうちに、村の異常な空気に気づき始めた。


俺の目が、何かを見ていた。

でも、それが何かはわからない。時間が経つにつれて、俺の周りに奇怪な現象が起き始めた。時計が勝手に止まったり、壁にひびが入り、そこから冷気が漏れ出す。夜になると、視界の端に何かが動くのを感じた。


村の人々も、どこかおかしい。顔色が青白く、言葉が途切れがちだった。村の古老でさえも、何かに怯えているような気配を感じた。


「浩一、抜け目を犯したお前が見ているのは、もう『目に見えないもの』だ。」

村上さんが言った。


その言葉が、俺を深く恐れさせた。俺が見逃した何か――それは一体、何なのか?


そしてある晩、とうとうその「何か」が姿を現した。


目の前に現れたのは、最初に見かけたあの男だった。しかし、彼の姿はまるで人間とは思えないほど歪んでいた。顔は不自然に引きつり、目がなく、代わりに黒い穴が開いていた。その穴からは無数の小さな、うごめく影が飛び出していた。


その男は何も言わず、ただ俺をじっと見つめていた。


「君を取りに来た。」声はないが、頭の中で響いた。

その瞬間、俺の意識が引き裂かれるような感覚に襲われた。


気がついた時、俺はもうその村にいなかった。

だが、俺の目の中には黒い穴が開いている。


目を閉じても、その目は開き続けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ