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デザインの罠

ファッションデザイナーの田中麻美は、東京の一流ブランド「ルミナ」に所属する若手で、才能と美貌を兼ね備えた女性だった。

彼女の作り出す服は、どれも洗練され、洗練された美しさと革新性を兼ね備えており、業界内ではすでに注目の的となっていた。


ある日、麻美は一通の奇妙な依頼を受け取った。それは、匿名の顧客からのもので、デザインを依頼する代わりに、指定された場所で一度だけ会ってほしい、という内容だった。顧客の名前も連絡先も、何も書かれていなかったが、報酬が破格であることに心が動かされた麻美は、少しの迷いもなくその依頼を受けることに決めた。


指定されたのは、都心から少し離れた古びた邸宅だった。黒い門の前で、麻美は一瞬、足を止めた。だが、そこには誰もいないように見えた。周囲は深い静けさに包まれており、不気味なほどだった。


麻美がインターフォンを押すと、すぐに扉が開かれ、白い手袋をした女性が迎え入れてくれた。彼女は無表情で、麻美を邸宅の中へと案内した。


「お待ちしていました。こちらでお待ちください。」


女性が指し示す先には、広いリビングが広がっていた。真っ白な壁に、無機質な家具が整然と配置され、まるで時間が止まったような空間だった。


麻美はその場に座らされ、しばらく待たされた。その間、部屋の隅にある巨大な鏡が不気味に輝いているのが気になった。しかし、特に深く考えることなく、麻美は目の前に差し出された紅茶を飲んだ。


紅茶を口にした瞬間、異様な味が広がった。麻美は喉をかきむしるようにして吐き出し、目の前の女性に問いかけた。


「この紅茶、何か入っているの?」


女性は冷たい微笑みを浮かべて言った。


「ただの紅茶です。気にされることはありません。」


麻美は不安を感じ始め、何か不穏な空気を感じ取ったが、どうしても依頼を受けたからには話を進めなければならないと思った。


「それで、私に依頼された内容は…?」


女性は麻美をじっと見つめた後、静かに口を開いた。


「あなたには特別なデザインをお願いしたいのです。あなたの才能を試したい。」


その言葉に麻美は身震いした。依頼内容は、何も教えられていなかった。


「でも、どうして私なのか…?」


女性は微笑んだ。少しずつ、顔色が変わっていくのを麻美は見逃さなかった。


「あなたのデザインには、深い意味があると思っています。それを引き出してほしい。」


女性は手を差し出すと、麻美の手に薄い紙切れを握らせた。その紙には、奇妙な模様が描かれていた。それは、麻美が今まで見たこともない、まるで呪文のような図形だった。


「これが、あなたに求められているデザインです。」


麻美はその紙を持ち帰り、自分のアトリエでデザインを練り始めた。しかし、その夜から奇妙なことが起こり始めた。


最初は小さなことだった。夜中、アトリエの壁に奇妙な影が映るようになった。麻美は振り返っても何も見えなかったが、目の端にちらりと何かが動いているのを感じた。次に、机の上に置いていた鉛筆が勝手に転がり、床に落ちる音が聞こえた。彼女はそのたびに目を閉じて深呼吸し、無理に気にしないようにしていた。


しかし、その不安な気配は次第に強くなり、デザインの作業にも支障をきたすようになった。夜、眠れぬままアトリエに向かうと、机の上に無数の赤い線が引かれていることに気づいた。まるで誰かが麻美の描いたデザインに手を加えているかのようだった。


だが、最も恐ろしいのは、鏡の中に映る自分の姿だった。最初は鏡に映った自分がわずかに歪んでいるだけだと思っていたが、次第にその歪みが人の顔に変わり、誰かがその鏡の中でじっと麻美を見つめているように感じた。


「お前を見ている。」


麻美はその声を耳にしたとき、初めて恐怖を感じた。振り返っても、誰もいない。ただ、鏡の中の自分だけが、冷たい微笑みを浮かべていた。


その後も、奇妙な現象は続いた。

目の前に現れる奇怪な影、深夜の時間に聞こえる足音、そして、デザインが進んでいくごとに次第に不気味な模様が浮かび上がってきた。麻美はそのデザインが、何か恐ろしいものを引き寄せていることを感じていた。


一夜、麻美はついに耐えきれず、デザインを完成させることに決めた。

その瞬間、アトリエの照明が一斉に消え、暗闇に包まれた。

デザインの上に手をかざしたとき、まるで手に吸い寄せられるかのような感覚がした。気づけば、麻美は再び鏡の前に立っていた。


「これで終わりだ。」


麻美は震えながらその言葉を呟いた。鏡に映った自分は、ただの映像ではなかった。鏡の中から、無数の手が伸びてきて、麻美を引き寄せようとした。


そのとき、背後から冷たい声が聞こえた。


「あなたが描いたものは、もはや戻れないものです。」


振り返ると、女性が静かに立っていた。

彼女の顔は、見る者を恐怖で凍りつかせるほど、無表情で冷たかった。


「私が求めたのは、あなたの『魂』です。あなたのデザインは、この世界を超えて命を奪う力を持っている。」


麻美は必死に後ろへと倒れ込んだが、その瞬間、鏡の中から伸びた手が彼女の体を捉え、引き寄せられるように鏡の中に引き込まれた。


そして、その夜、麻美の姿はアトリエから消え、ただ彼女が最後に描いたデザインだけが、鏡の中に永遠に残された。


「デザインの罠」は、いまだに誰にも解かれていない。

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