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耳鳴り

私は毎晩、眠りにつく前に、ほんの数秒間、耳鳴りを聞くようになった。

最初はそれがただの疲れから来るものだと思った。

誰でも一度は耳が詰まったような感覚に襲われることがあるだろうから。

しかし、時間が経つにつれ、その音は私を取り巻くものとなり、無視できなくなっていった。


最初のうちは、小さな高い音だった。

まるで金属がこすれるような、微細なノイズ。

私が意識を集中させると、それがだんだんと大きくなり、何かを訴えるように耳元で鳴り響く。振り返っても誰もいない。


ある晩、私はその音に恐怖を感じるようになった。

音は単なる「耳鳴り」ではなく、どこかから「聞こえてくる」ような気がしてならなかった。私はベッドから飛び起き、周囲を見回した。

しかし、部屋は静まり返っている。

外からは風の音も、車の走る音も何も聞こえない。


音が再び聞こえた。

その時、私は気づいた。

音は「耳鳴り」ではなく、私の名前を呼ぶ声に似ていた。


「……ゆうこ……」


耳元で囁くようなその声に、私は背筋を凍らせた。

誰かが私を呼んでいる。だが、部屋には誰もいない。


「ゆうこ……」


今度はもっと近くから、その声が聞こえた。

私は冷汗をかきながらも、静かに耳を澄ませた。

部屋の中、どこにも誰もいないことは分かっている。

しかし、その声は明確に私を呼んでいた。


恐怖で体が震え、私はベッドの中に縮こまった。その瞬間、耳鳴りの音が突然変化した。今までの高音が、低い低音へと変わり、重たく、苦しい音になった。まるで何かが、私の耳に押し付けられているかのようだった。


「ゆうこ……」


その声は、今度ははっきりとした言葉として耳に届いた。私は耐えられなくなり、目を開けた。部屋は暗く、窓の外からは月の光が少しだけ差し込んでいるだけだった。しかし、そこに見慣れない影があった。


それは、私の寝室の隅に立っていた。黒い影で、ただ立っているだけ。

目を凝らすと、どこかに目が光っているのが分かった。私は恐怖に駆られ、声を出せなかった。


「ゆうこ……」


その影が、ゆっくりと私の方に歩み寄ってきた。

動けない。

身動きが取れない。まるで、私の体がその影に引き寄せられているようだった。


そして、影が私の前に立ち、囁いた。


「ずっと、待っていたよ。」


その声は、耳鳴りの音と一緒に、私の中に響き渡った。

私の目の前に現れたその影は、まるで私が今まで聞いていた音そのもので、私の身体の中に溶け込んでいくようだった。


その後、私は気づけば目を覚ました。

すべてが夢だったのだろうか?

しかし、部屋の中は暗く静かで、あの不気味な耳鳴りも、私を呼ぶ声も、消えていないような気がした。


翌日、私は耳鼻科を訪れた。

診断の結果、医師はただの「一過性の耳鳴り」であると言った。

しかし、私はそれがただの病気だとは思えなかった。

あの声、あの影は、確かに存在していた。


それからというもの、私は毎晩、あの耳鳴りを聞くことになった。

そして、徐々にその音が、夜の静けさの中で私を呼び続けるのだ。


あの影が再び訪れる日が、近づいている気がしてならなかった。

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