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こたつの中の影


冬の寒さが一層厳しくなる頃、佐藤家では、毎年のようにリビングにこたつを出した。


家族四人が揃うのも久しぶりだったが、父親の健一が仕事の都合で遅く帰る予定だったので、母親の美穂と、高校生の妹、結衣ゆいと、小学生のしょうが先にこたつに入って待っていた。


こたつの温もりが、外の寒さとは対照的に、心地よく家族を包み込んでいた。


結衣はスマホをいじり、翔は漫画を読みながら、時折母親と会話を交わしている。


しかし、誰も気づかなかった。


こたつの中から、微かな音が聞こえてきた。


「ん? 今、何か…」


結衣がふと顔を上げたが、特に変わったことはなかった。


母親の美穂も、翔も、何も気にせずにそのまま過ごしていた。


しかし、結衣は、どこか不自然な気配と少しの不安が漂い始めていた。


その晩、健一が帰ると、家族は食卓に集まり、久しぶりに和やかな食事の時間を持った。しかし、結衣の目はどこか遠くを見つめていた。


何度も、こたつの中から聞こえる音が頭に浮かぶのだった。


それは、まるで誰かがそこにいるかのような、わずかなかすかな音だった。


食事が終わり、健一がこたつに足を入れると、結衣は思わず言った。


「お父さん、こたつの中…なんか変だよ。」


健一は笑って答えた。「変って、どういうことだ?」


「いや、なんか…音がするんだよ。こたつの中から。」


美穂は少し困った顔をして、「そんなわけないでしょ。中に何も入っていないんだから。」


翔は無邪気に、「もしかして、こたつの中にお化けでもいるの?」と言って笑った。


しかし、その晩、結衣の不安はさらに強まった。


眠る前に、こたつの下に何かいる気配を感じたからだ。


目を閉じても、その気配は消えなかった。


深夜、結衣は耐えきれずにこたつを覗き込むことに決めた。


恐る恐るこたつの布団をめくると、そこにはただの空間が広がっているだけだった。しかし、ふとそのとき、何かが動いた気がした。


結衣はすぐに布団を戻し、部屋を出ようとしたその瞬間、こたつの中から、低い声が聞こえた。


「助けて…」


結衣は足がすくんだ。


声は、まるで誰かが、こたつの中に閉じ込められているように聞こえた。


急いでリビングに戻り、震える手で父親を揺り起こした。


「お父さん…こたつの中、なんかいる…!」


健一は眠そうに目を擦りながら言った。


「そんなことないだろう。ほら、寝なさい。」


しかし結衣はもう怖くて寝室に戻れなかった。


健一も仕方なくこたつを調べ始めた。


しかし、何も見つからなかった。


その夜、結衣は一睡もできなかった。こたつの中に何かがいる。


彼女は確信していた。それから何日かが過ぎたが、音は続いた。


毎晩、深夜にこたつの中から「助けて」という声が聞こえてくるのだ。


ある晩、結衣が再びこたつの中を覗いた時、ついにその「何か」が姿を現した。


暗闇の中、目を凝らすと、こたつの布団の下に、長い腕と白い顔がちらりと見えた。それは、確かに人のものではなかった。


結衣は叫んだが、その声はもう誰にも届かなかった。


その翌日、家族はこたつ布団とテーブルの間に何かあることに気づいた。


血のように赤い布切れが入っていた。


その時、家族は初めて、結衣の話を信じ始めた。


この布は何時、どこでこたつに入ったのか?


もしかしたら知らず知らずこたつに何か恐ろしいものを封じ込めていた?


その後、こたつからは音は聞こえず変なものを見ることはなくなった。


そして結衣は二度とこたつに入ることはなかった。

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