求む!夫を上手に操る方法(ただし操縦レバーは寝言のみとする)
※なろうラジオ大賞投稿作品のため、1000字の超短編です。
夜中に目が覚めると、寝室に誰かが立っていた。
ギョッとしたけれどすぐに夫だとわかった。驚かせないで頂戴。お手洗いに行ったの? 早くベッドに入ったら?
まどろむ私の前で夫はウロウロしていた。大きな長方形の箱を抱えて。
なんなの、その箱?
箱は綺麗に包装されている。
そういえば明日は冬の祝祭、愛する人に贈り物をする日だ。思わず瞬いた。まさか私へのサプライズプレゼント?
政略結婚で、夫婦になって初めての祝祭。夫が内緒でプレゼントを用意してくれているなんて思わなかった。学者肌で、魔術以外は不器用な人だと思っていたのに。
夫は箱を抱えてあっちへウロウロ、こっちへウロウロ。置く場所に困っているらしい。
寝室にあるのはベッドとサイドテーブル、それに細身の椅子が二脚だけだ。箱を置くには小さすぎる。でも床に置くのは躊躇われる。夫の悩みが後ろ姿から伝わってくる。
私は心の中で念を送った。椅子よ、椅子を離して置くの、両端に置けば大丈夫!
不意に夫は閃いたようだった。こちらに近づいてきたので慌てて目を閉じる。ベッドが重みで沈んだ。なぜか私の隣に箱がある。
ばか!あなたはどこで寝るのよ。目が覚めて、あなたが隣にいてくれなくちゃ意味がないじゃない。
私は寝返りを打つふりをして箱へ近づいた。
夫が慌てて箱を持ち上げる。やったわ。
私は寝言の振りでいった。
「いいわ、素敵よ……」
怪しげな寝言になってしまったけれど、これはヒントよ。起きていることがバレないように捻ったの。
いいわのいと、素敵のすで、いす! いすよ!
夫はなぜか箱を落としそうになっていた。慌てた様子で箱を抱え直し、大きく深呼吸している。
なんなの、その反応。
私はさらなるヒントを送った。
「ふた……、ふた」
「素敵な……蓋!?」
二つの椅子!
「すい、すいすい……」
「素敵な蓋がすいすい……、泳ぐ!?」
泳がないわよ!
「蓋が欲しかったのか? 私が魔術で蓋を泳がせることを期待していた……?」
どんな魔術なの、それは?
まずい、このままでは夜が明けてしまう。
わたしのヒントがポンコツだったことは認めるわ。でもあなたの反応もとんちきすぎるでしょう。
ポンコツな私ととんちきな夫、二人の力を合わせてもポンちきにしかならない。
仕方ないわ。
「いす……はなして」
あっと夫は椅子へ向いた。
二つの椅子を離して箱を置く。
箱はようやく安住の地を手に入れたのだ。
夫と私の安堵の息がシンクロする。
そして夫は振り返り、目が合った。
メリークリスマス!