6話 貼る照明
お昼ご飯はパスタだった。たらこソース美味し。
どうして和食を提供する旅館でパスタを食べていたのだろう?
まぁ、いいや。
午前のうちに廊下と備品補充は終わったので、本館と別館を結ぶ通路の方を先にしようかな?
通路もそこまで距離があるわけではないので、そこまで時間をかけることなく終わりそうだが。
「2人は私といっしょに通路の掃除ね」
「あれやな」
「がんばろっ!」
「愛は引き続き、ゆめさんといっしょに部屋の掃除をしてもらいたいのだけど、大丈夫?」
「わかりました」
「終わり次第通路の方の掃除を手伝ってほしい。あと、みんな休憩したかったらいつでもしていいから、楽にね」
義務感で作業はしてほしくない。あくまでも『お手伝い』なのだから。
「お気遣い、ありがとうございます」
「当然でしょ」
「通路の掃除終わったら今日は終わりなの?」
「そうだね。他の部分は明日以降になってくるかな」
「明日から何すんの?」
るるの質問だ。
「大浴場の清掃かな、掃除関連終わったら、お母さんから仕事の具体的な内容について教えてもらうと思う」
食材の買い物なども行うことになるだろう。大変だな。
「いよいよですね」
「多分、料理を運んだり、食器の回収をするとかだけだから、そんなに杞憂しなくていいよ」
「そうなんだ、なら安心だね」
「じゃあ、清掃に取り掛かりますか」
「せやね」
「そうですね」
「うん!」
ーーーーーー
私達は、別館通路のほうにやってきた。
「暗いね」
りんにそう言われて、私は明かりのスイッチに手を伸ばす。
一応、通路には中庭に面した窓があって、少しの光はあるのだが、窓が北東向きなので、今の時間だと、あまり明るくない。
カチッ、カチッ
点かない。照明が切れているのかも。
今は技術の進歩によって、なにもないところから光が発しているように見える。照明は天井に『貼る』時代になったのだ。
無論、客室の照明は、吊り下げの糸引っ張ったらカチッってなるやつだ。名称は知らない。
「切れてるみたいやね」
「そうだね、倉庫の方に明かりがないか見てくる」
倉庫に入る。倉庫は住居のほうのリビングの隣りにあって、構造上、リビングを通らなければいけない。
貼る照明は無かった。どうやら予備はもう使ってしまったみたいだ。
「お母さん?照明無いんだけど買ってきたほうがいい?」
照明がなければ効率のよう掃除にはならないし、後々付け替えなければならない。
「そうねー、行ってきてくれるー?」
階段の奥から声が聞こえた。母は2階にいるようだ。2階には私の自室と母の寝室、ベランダがある。
「うん、他に買ってきてほしいのとか、無いー?」
「無いわー、お金は後で渡すからー、頼むわねー」
「2人はどうするー?」
「脱衣所の掃除を任せるわー、私が教えるからー、大丈夫よー」
助かる。報告だけしておこう。
「照明はなかったよ」
「暗いけど掃除するしか無いね」
「いや、お母さんが脱衣所の掃除を教えてくれるみたい」
「自分は照明買うてくるん?」
「うん、行ってる間頑張ってね」
「任せなさい!」
大丈夫そう。
では、北傘モールに繰り出しますか。
……一応、余所行きに着替えてから行こうかな…。
ーーーーーー
「午後もよろしくね、愛ちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
この2人は、別館4号室から掃除を始める。
「どう?疲れてない?へいき?」
「問題ありません」
「そう、じゃあ、始めよっか」
フフフ、とゆめが笑う
「どうかしましたか?」
「いや、なんだか職場体験みたいだなって」
自然な笑みを浮かべるゆめ。
「そうですね、似ているような気がします」
「愛ちゃんは、職場体験でどんなことをしたの?」
「私は、スパーマーケットに行って、品出し作業のお手伝いをしました」
「結構大変そうだよね」
「そうですね、アイスを保管しているところに入ったときは、とても寒かった記憶があります」
「あー、なんか冷凍室?的な」
「多分、そういうものです。アイス自体も冷たいですから」
「学べるところはあった?」
「そうですね、普段、よく目にする人たちが、どのようなことを考えて仕事をしているか、わかったような気がしました」
「働く大人も大変なんだよね」
「そうですよね。私は、ゆめさんの助けになっていますか?」
「そりゃ、勿論。愛ちゃんが手伝ってくれてなかったら、もっと時間がかかってたと思うよ」
「嬉しいお言葉です。ありがとうございます」
「全然、愛ちゃんは優しい人だね」
ゆめはそう褒める。かつての自分を思い浮かべながら。
「愛ちゃんは学校好きだった?」
箒を愛に渡しながら。そう尋ねる。
「少なくとも、嫌いではなかったですよ。学校は楽しいものでした」
「学校、楽しいよね勉強はできなかったんだけど…。愛ちゃんは勉強できたの?」
「まぁ、それなりには」
「いいね、勉強できる人って。私なんか順位も結構下の方だったから、よく担任に怒られたなー」
「熱心な先生だったんですね」
「そうだね、みんなの学力を上げるために相当努力をする先生だったよ。愛ちゃんは好きな先生とかいた?」
「国語の先生とは、よく小説の話題で盛り上がりました」
「いいなー、私もそういう話してみたかった。愛ちゃん、読書家なんだっけ」
「はい、よくミステリー系を読みます」
「うわ、それっぽい、今度、おすすめあったら教えてね」
「はい、イチオシを紹介させていただきます」
会話をしながらも、着々と掃除を進めていった。
「トイレ掃除しとくから、次の部屋を先にお願い」
「わかりました」
愛は部屋を出て、すぐに次の部屋の掃除に取り掛かった。
ーーーーーー
「じゃあ、脱衣所、お願いね」
「「わかりました」」
2人が任されたのは、脱衣所の掃除。主にすることは2つ。
1つ目は、床と扉の掃除。床は箒ではいた後に、拭く。
2つ目は、椅子やロッカーの掃除。籐ベンチやスツールを拭いたり、ロッカー拭いたり。
「りんは、ゲームが好きなん?」
るるが問う。
「うん!アフター、家でも結構やってたんだよね」
「どんなゲームしてたん?」
「えっと、対戦系とかかな。るるちゃんは何かある?」
「FPSは結構やったわ」
「いいね、FPSって難しそー」
「上達するまでが大変やねん。2人は、そんなにゲームしてるとこ見ーへんよね」
「たしかに。フローもあんまり触ってないから、ソシャゲもほとんどしてないかもね」
フローとは、フローティングフォンの略称で、空に浮かんだスマホのようなものだ。一般的には、腕につけたバンドに触れて、透明な画面を呼び出して操作を行う。呼び出した本人にしか操作はできない。今では欠かせない情報器具の1つだ。
「結衣は絵描いとるし、愛は小説読んどるもんな」
「そうだね、充実した趣味だと思う」
「りんは結構触っとるやんね、何しとんの?」
「イン◯タばっかり、たまにY◯uTubeも見るかな」
「見始めちゃうと時間溶けてまうんよ」
「そうそう、こっち来てからは、そんなに見てないけど」
「アフターやっとる時間のほうが多いんちがう?」
「そうだね」
相槌を打つ。微笑む。
「ところで、……」
2人の会話は、結衣が戻って来るまで続いた。出会ってすぐの、ちょっとしたぎごちなさは、もうそこには無かった。
ーーーーーー
意外にも時間がかかってしまった。北傘モールのエディ◯ンで買い求めるつもりだったが、対応する規格のやつの枚数が足りなかったため、急遽、近くの別店舗に行く羽目になってしまった。
こんなときに限って。これでは、脱衣所の掃除が終わってしまうじゃない!
仕方ない。全部2人がするの、大変そうだなぁ。
なので、現在、大急ぎで戻っている最中なのである。
時刻は——午後1時50分。
フローの待受画面を横目に、走る。
ようやく駅前についた。ここからは近いぞ。
バスも通っているから、傘見市内の観光地に行く際には便利なのだ。傘見城とか、南傘見水族館とか。
いつかみんなで行ってみたいなぁ。
——着いた。母はリビングで、掃除をしていた。
「照明、買ってきたよ」
「ありがとう、つけてきてちょうだい」
「わかった」
通路に戻る。
愛とゆめさんももうそろそろ終わる頃ではないのだろうか。
私は照明を貼った後、ジャージに着替え、脱衣所に入った。
「結衣、おかえり」
「ちょうど、掃除終わったところやで」
長くなったので、ここまで!
人物紹介
柏原安美
3話にちょっとだけ出てきた人
愛の姉
自由奔放だが、仕事はできるらしい




