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少女たちの宿暮らし  作者: お餅
宿暮らしの慣れ編
6/7

5話 いざ、掃除開始!

 4月。―寒さが消え、暖かさを身にまとい始める時期、そう言われる月。

 結局は社会人や学生の始まりの時期だと私は思うが。人々が目まぐるしく動く、そんな月。

 宿屋的には宿泊客が少なく、忙しない夏とはかけ離れたものだ。

 そこに待つのは、GWゴールデンウィーク。他の連休より遥かに客が多く、春を彩る行事の一つ。忙しくもなるが、金はたくさん入る。

 街全体の活気も上がり、観光都市である傘見に最大の果実をもたらす。街が潤い、店が潤う。京都もそんな感じではないのだろうか。

 GWゴールデンウィークになると毎年、多くの客足が見込め、主に国内からの観光客によって部屋が埋まる。人員を割かなければ対処できないため、私や、バイトのゆめさんもいつもより多く働いている。ゆめさんは去年から入ってもらったバイトさんで、若くてかわいい。仕事もそつなくこなせ、私の上位互換のような人だ。

 今年はゆめさんに加え、宿暮らしの3人もいるからよほどのことがない限り、いつもよりは楽だろう。そう思っている矢先…。


「今年は、別館も使いたいと思います!」

 と、母が。


 私はあまり乗り気ではないぞ。

 別館とは、私たちが暮らしている本館の中庭を介した隣りにある、廃れた建物のこと。昔は使っていたそうだが、父がいなくなってからは使わなくなっていた。

 まぁ、経営してるのは母なので、異論はないのだが…。


「掃除とか大変じゃんね」

「みんなにも手伝ってもらうのよ」


 なるほどね。だから今なのか。確かに、例年、部屋は満室なので別館の部屋も活用することで、以前よりも多くの宿泊客数を獲得することができるだろう。

 私は、母にGWゴールデンウィークの詳細や、掃除の内容についてのプリントをもらった。


 ーーーーーー


「ということで、別館を掃除したいと思います!」

「別館って?」

 りんが問う。

「隣にあるじゃん。廃墟。」

「あれ別館だったんですか?」

「まぁ、あの見た目だとね…。」

 無理はない。本館と別館では建物の構造や、壁の塗装が異なるので、統一感のない感じになっている。また、本館と別館を直接行き来するには、大浴場の通路を使う他にないので、つながりもあまり感じられない。大浴場の通路も、『従業員通路』と書かれた扉があるだけなので、わかりにくい部分もあるだろう。

「別館にも部屋があるっちゅうわけやな」

「そう。トイレ付き和室が6部屋ある。今年のGWゴールデンウィークはそこも使ってたくさん集客したいみたい」

「でも、そんなに時間がないんじゃ…」

 りんの言う通り、今日は4月17日でGWゴールデンウィークまでは2週間もない。

「そうだね。だから急ぎ目で準備を進めなきゃ」

「具体的にはどんなことをするんですか?」

「えっと…」

 私は、母からもらったプリントを見ながら説明する。

「まず、各部屋の掃除、トイレ、廊下の掃除。ティッシュとかトイペとか、備品の補充。照明の交換。本館と別館の連絡通路の掃除。大まかなところはこのくらいかな」

「することが多くて大変そうです…。 ところで、連絡通路って?」

「大浴場の近くに『従業員通路』って扉あったでしょ。あの先だよ」

「あれ、連絡通路やったんか」

「この前説明しようと思ってたけど忘れてたんだよね」

「早速今からするの?」

「午後からでもいいとは伝えられてるけど、紹介したい人がいるから今からやろっか。仙台は今度だね」

 紹介したい人とはもちろん、ゆめさんのことだ。

「仕方ないです。仕事を終えたら楽しみましょう」


 私達は、母に渡してもらったジャージに着替え、別館に移動する。


 ーーーーーー


 本館の前に立つ。時刻は10時過ぎ。


「こちらが別館です」

「やっぱり本館との調和性のなさが気になるねー」

「そういうのは思っても言わないものですよ」

 愛ちゃんも思ってるよね。それ。

「まぁずって使ってなかったからね。仕方ない」

「今からうちらがきれいにするねん」

「そうだね。大変かもだけど、みんな頑張ろ」

「頑張りましょう」

「頑張ろー」(りん)

「おー」(るる)

 やる気があるのはいいことです。嫌とか言われたらどうしようとか思ってたけど…。みんな優秀だからそれはないか。


「ゆめさーん。こっち来てもらってもいいー?」

「はーい。今行くー」

 可愛らしい声だ。今も掃除をしていたのだろう。奥から足音が近づいてくる。

 別館の扉から、ロングの髪を後ろでまとめて、エプロンを付けた女性—ゆめさん—が出てくる。

 いつもは下ろしてるけど、掃除中だから結んでたのかな?

「こちら、去年からアルバイトで仕事をしてもらってるゆめさん!」

「笹川ゆめです。よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします!!」」

 3人は礼をする。礼儀正しい子っていいよね。

「ゆめさんは主に土日とかの忙しい日に来てもらってて、主に部屋の掃除とか、夕食を部屋に届けたりしてる」

「あとは、お風呂の掃除とか、備品補充とか、買い出しとかもしてるよ。まぁ要するに雑用係だね。皆さんよろしくお願いします」

「そんなことないよー。ゆめさんのおかげで去年はなんとかなったし」

「去年の夏は大変だったね…」

 そうそう。大変だった。お母さんが熱中症で倒れたりー…。って本題本題。

「昔の話はいいから役割分担決めようか」

「私は引き続き部屋の掃除をするから、誰か一人サポートして欲しいな」

「じゃあ、あたし部屋の掃除します。ゆめさん、よろしくお願いします」

「りんとるるは、廊下の掃除を頼むね。きれいになったらゆめさんに見てもらってね」

「わかったー」

「承知や」

「わたしは備品補充するから、なんかわかんないことあったら私でも、ゆめさんでも気軽に聞いてね。まぁ別館のことは二人ともよく知らないけどね」

 問題が発生したら、逐次母に相談しよう。部屋の構造とかはあんまり変わらないから、大丈夫だとは思うけど。


「じゃあ、各自、掃除開始!」


 ーーーーーー


「この部屋から順に掃除してくよ」

「はい!」

 部屋を掃除するのはゆめと愛だ。

「掃き、押入れと机拭き、トイレと、扉付近の掃除かな」

「わかりました」

 素直に応じるのは愛だ。早速箒を持って畳の上を掃き始めている。

「愛ちゃんは、どうしてここに?」

 ゆめが問う。彼女は押入れを拭いている。

「私は愛知県から来たんですけど、あまり遠い場所に行った経験がなくて、他の地域の生活を見てみたいなって思ったからです。もちろん、興味も強かったです」

「真面目だねー、愛知かー、行ったこと無いな」

「ゆめさんは、どうしてここで働いていらっしゃるんですか?」

「私?もともとこの辺に住んでたんだけど、東京とか大阪とか、北海道とか、色んなところで仕事してたんだよね。でも結局傘見が一番いいなって思って戻ってきたの。それで、子供の頃にもあったこの宿で働きたいなって」

 ゆめは振り返って答えた。

「そうなんですか。転々としていたんですね」

「そうそう」

 ゴンッ 鈍い音が響く。

「あっ、いたー」

 頭を抑えるゆめ。

「大丈夫ですか!?」

 駆け寄る愛。

「だいじょぶだいじょぶ、あ、掃き掃除終わった?」

「はい。塵取りってありますか?」

「あぁ、ちょっと取ってくるね。押入れのから拭きしてくれると助かる」

「わかりました」

 愛は布巾を手に取り、窓の外を見つめた。


 ーーーーーー


 えっと、備品って倉庫にあったよね?

 うーん覚えてない。最近倉庫入ってないからなー。

「結衣、これ持ってって」

 母は廊下に置いてあるかごを指す。

「わかったー。ってこれ備品じゃん」

「探すの大変だろうと思って準備しといたわー。不足あったら教えてー」

「ありがとー」

 すごく助かる。あっちに持ってかなきゃ。

 六部屋分の備品だから結構重いな。運動してないのもありそう。

 ガラガラガラ (別館の扉を開ける音)

 古い扉だから、音も違うね。風情ある感じ。

 2人もちゃんと掃除してくれてるみたいだ。なんか話してるけど、後で聞いてみようかな。

 1号室の方から備品を入れていこう。因みに、6部屋ある別館は、本館の方の手前側から1号室で、逆側の一番奥の部屋が6号室になっている。

 ティッシュ、トイレットペーパー、電球、ゴミ箱、ゴミ袋、これだけかな?

 なんだ、すぐ終わりそうじゃん。

 1~3号室は楽しいね。大きな窓から中庭を覗ける。中庭とは言うが、実際は池とツツジの低木のある、小さな庭園だ。構造上中庭になってるだけ。道路に面してはいるが、垣根で覆われているので歩道からはめないようになっている。

 4~6号室は窓がない。実際にはあるのだが、天井に小さな窓が一つ。別館を建てる際に隣の家から、窓をつけないでほしいと要望があり、天井の窓だけになってしまったそうだ。夏の直射日光ヤバそうだね。

 2号室を終えて通路に出ると、ゆめさんが塵取りを持ってこっちに来ていた。

「あれ?塵取りって掃除用具入れになかったの?」

 廊下の奥のロッカーを見る。所々錆びていて、開けにくそうだ。

「うん、入ってると思ったんだけど…。これってここにしまってもいい?」

「あー…。一応あっちから新しいやつもってくるね」

 とりあえず新品を入れておけば大丈夫だろう。持ってきたやつをここにおいてしまうとややこしくなってしまう。

「わかった。あっ、ここは私しておくから、反対側、進めてって」

「ありがと、これが一式ね」

 感謝。私はゆめさんに、備品の一式を渡した。

「じゃあ、後でね」

「うん!」

 ゆめさんは3号室に戻っていった。塵取り入れておくの忘れそー。


 ーーーーーー


「ゆめさん、箒ってロッカーにあるやつでええの?」

「うん、掃き掃除終わったら、モップ掛けしてね。よろしく」

 ゆめと愛が3号室に入っていく。

 るるとりんは箒を持ち、掃除を始める。木の廊下だ。

「ゆめさん、優しそうな人やったなぁ」

「そうだね、仲良くできそう」

 サッサッ、と箒の掃く音。

「なぁ、りんはなんでここにこようと思ったん?」

「聞きたい?私ね、小学生の頃に神奈川に住んでたんだけど、その後、母の職の都合で静岡に引っ越すことになったの。でも、そこではあんまり馴染めなくて、母とも険悪になっちゃって」

 滑らかな木の床には、りんの顔が映る。

「だから、小学校を卒業したら別の場所で一人で暮らしたいなって思ってて、そのときに結衣ちゃんの投稿を見つけたの。これは行くしか無いなって」

 りんは顔を見上げる。

「なんか、聞いてごめん」

 もの悲しそうな表情を浮かべるるる。

「いいの。私自身の気持ちの整理はちゃんと出来てるから。」

 首を横に振る。

「るるちゃんはなんでこようと思ったの?」

「うちは好奇心や。大層な理由は持ってへん」

「いいじゃん、好奇心も大きな理由の一つだよ」

 親指を立てるりん。

「ありがと。あっ、話してたら終わってたやん」

 箒の音が止む。

「ちりとりなかったんだっけ」

 りんがロッカーを覗き、確認する。

「やっぱりないね、結衣ちゃんに聞こうか」

 その時、4号室の扉が開く。

「ちょうどよかった、結衣、塵取りってあらへん?」

「塵取り?ゆめさんが持ってるはずだよ」

「わかったー」

「じゃあ、後でね。終わったらお昼にしよう」

「うん!頑張って!」

 結衣は5号室に入っていった。

 コンコンコン、と扉をノックする。

「どうしたの?」

「塵取り貸してくれませんか?」

「わかった、ちょっとまっててね」

 扉が閉まる。と思ったら、すぐにまた開く。

「はいこれ、終わったら結衣に渡しておいてほしい」

「わかりました」

 再び扉は閉まる。

「じゃあ、るるちゃんゴミ集めてー」

 るるは、塵取りにゴミを集める。

「これで終わりやな。自分、ゴミ捨ててきてくれへん? 先にモップ掛けやっとくわ」

「わかった」

 りんは本館へと向かい、るるはモップを手に取った。


 ーーーーーー


「愛ちゃん、この部屋はもうトイレ掃除だけだから、先に4号室の掃き掃除しといてくれない?私、トイレ掃除しとくから」

「あっ、わかりました」

 愛は、箒を持って、部屋を出る。

「愛、終わったん?」

 モップを持ったるるが尋ねた。

「はい、只今。りんさんはどちらに?」

「本館にゴミ捨てに行ったで」

「残念…、ゴミ袋、ゆめさんが持ってました」

「そうなん!? 聞いてから行ったら良かったやん」

 驚いた表情を浮かべるるる。

「まぁ、しゃーないわ」

「私はこれで」

 2号室に愛が入っていく。


 ーーーーーー


 よしっ、次で最後だ!

 終わったら休憩にしよう、1時間ちょっとくらい経ってるし。

 2人の進行具合はどうだろう?

「モップは終わりかけ?」

「せやな、もうちょっとで終わるところや」

「じゃあモップ終わったら、本館戻っといてね」

「終わり?」

「お昼までまだ時間あるけど、早めに終わっとこうと思って、午後は1時くらいからしようと思ってる」

「わかった」

「愛にも伝えといて欲しい、じゃあね」

「頑張って!」

 これでよし。最後の部屋はすぐ終わらせよう。


 ーーーーーー


「終わったー」

「愛が一番大変だったんじゃない?」

「そんなことないです、ゆめさんに頼り切りでしたし…」

 少女たちは掃除を終え、部屋に戻ってきていた。

「午後も頑張ろっか」

お久しぶりです。

人物紹介

佐藤優花さとうゆうか

結衣の母親。

夫は行方不明。

料理が得意。

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