9話 提供
7時前、半分以上の客は、すでにチェックアウトを済ませ、部屋で休んでいる。
「じゃあ、別館の方から料理を運んでいくよ。結衣は本館からよろしく」
「わかった」
「はい!」
運ぶのは、私とりんと、ゆめさん。母は厨房から離れられないし、まだ盛り付けていないところもあるから、るるも残る。
定食は、小さなキッチンワゴンに乗せて運ぶ。
コン、コン、コンと、1号室の戸を叩く。
「夕食をお持ちしました」
「今開けるよ」
「どうぞ、『仙台牛鍋の和食御膳』です。お鍋に火を点けますね」
ちゃっかまーん。無事、ロウに火を点けられた。
「火を消したいときは、こちらの蓋をご利用ください。8時頃に、食器を回収しに参りますが、よろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
「それでは、ごゆっくり」
次は2号室だな。手際よく行こう。
ーーーーーー
「いい?りんちゃん、練習通りにやるんだよ?」
「はい!」
「でも、緊張してそうだから、1回目は私が言うわね」
「わかりますか…。ありがとうございます」
図星。優花にはよくわかるようだ。
(始めて仕事をさせたときの結衣に似ているわ)
コン、コン、コン、と、戸を叩く。結衣よりも短いテンポで。
「夕食をお持ちしました」
「開けますね」
「やっとご飯食べれる……」
「もうちょっと早い時間にすればよかったね」
女子が2人、大学生らしい。
「『仙台牛鍋の和食御膳』です。火をお点けいたしますね」
カチッと音を鳴らして、鍋に、光があたる。
「仙台牛鍋には、名物の仙台牛、お米は、名取市の『だて正夢』、そちらのお刺身にはメバチマグロを使用しております」
「美味しそー」
「お鍋の火を消したいときは、こちらの蓋を、ロウに被せてください」
「「どうぞ、ごゆるりと」」
そう言って部屋を出る。
「次はあなたの番よ」
「が、頑張ります」
「緊張しなくてもいいわ。私がフォローするから」
コン、コン、コンと、戸を叩く。少し強い叩き方だ。
「開けるわ」
「夕食をお持ちしました」
中に入っていくのは、りん1人だ。
「待っていたわ」
「『仙台牛鍋の和食御膳』です」
「火を点けますね」
手が震えているが、2回押して点火した。
「火を消したいときは、蓋をご利用ください」
「では、ごゆるりと」
「ありがとう」
戸を閉める。
「終わりました……。」
「頑張ったね」
ーーーーーー
「どう?」
夕食の提供は終わったので戻ってきていた。
「順調です」
「愛はほんとに上手いから、私いなくても大丈夫だね」
「そんなことありませんよ。結衣さんがいてくれたほうが安心できます」
「後、一組だから待っていようか」




