豚肉
美味しくいただいております。
ヒヨコにならない卵を持ち去ったり
飲み手のいない母乳をしぼりあげたり
のびっぱなしの毛を刈りとったりするのを
ニワトリも ウシも ヒツジも
見て見ぬふりまではできないんだろうけど
我が身を食べられてしまうよりはましだろと
まるで身代金を払いつづけるかのように
人間たちの求めに応じて
ヒヨコにならない卵を
飲み手のいない母乳を
のびっぱなしの毛を 差し出してきた
今となっては 逆に それを求められることが やんだら
つぎに求められるのは 我が身かもしれないって
むしろ この身代金を払えることに
歪んだ安堵 さえおぼえているだなんて!
だけど その気持ちはわからんでもない
卵やら 母乳やら 毛やらだなんて
身代金を求められもしないし
せびられたって払えもしないぼくたちブタには
日ごろから その身の安全を保証してくれるものなんて
なにひとつないからだ
まわりのおとなたちから
「人間はブタのことを好きだから大丈夫だよ」って
きかされて育ってきたし
そのことばに まったく嘘はないんだけど
だからこそ
卵やら 母乳やら 毛やらを
身代金として差し出せないぼくたちブタを
どうして人間は好きでいてくれるのか?
考えれば考えるほどに不安になる
イヌやネコは こんな気持ちをいだかないとしたら
いったいどんな神経してるのかって
疑っちゃうよね
人間はイヌやネコのことも大好きなはずだぞ!
かといって
人間からなにひとつ求められなくなったら
それはそれで
ぼくたちブタも路頭に迷うことだろう
なのにやっぱり
いざ求められるときがきたなら
いっかんのおわり
求められつつも まだそのときではない
そんなあいだだけが
ぼくたちブタの生きるべき時間なのだとしたら
それはあまりに 恣意たげられた残酷なものだって
ねえ きみもそう思わないかい?
ぶぅ
ごめんね。