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第21話 男一人暮らしの部屋に、アイドル三人

 <犬飼竜太郎>


 俺は今、二人のアイドルから詰め寄られていた。


 立夏(りっか)さんとの打ち合わせが終わり、氷ヶ峰(ひょうがみね)を迎えに行こうと思っていたところだった。


「……えーと、どういうことですか?」


 困惑した顔で答える。

 話の内容がよく入ってこなかった。

 目の前には蒼樹坂(あおきざか)の委員長ポジション────春出水(はるでみず)桜子さくらこさん。

 そして、少し後ろに睨むような目の氷ヶ峰(ひょうがみね)こおり。


「犬飼さんは、こおりさんに水着グラビアをやって欲しいんですよね」


「やって欲しいというか……」


 春出水(はるでみず)さんに責められているような恰好だ。

 さっきからなぜか出合い頭にグラビアの話をされている。

 何が言いたいんだろう。


「そろそろやった方が良いと言われたと、こおりさんは言っています」


 何で氷ヶ峰(ひょうがみね)が喋らないのか分からないが、背後霊のように春出水さんの後ろから俺の様子を窺っている。


 氷ヶ峰(ひょうがみね)の方が10㎝ほど春出水(はるでみず)さんより背が高いので、まったく隠れられてない。


「たしかにやったら人気は取れると思うと言いましたが……」


「言ったんですね!!!」


「は、はい」


 すると春出水さんが120%スマイルみたいな顔になった。

 普段から笑顔が多い人だが、その出力が一気に上がった気がした。


「言質とりましたー」


 え、なにこわい。可愛いのにこわい。なんだこれ。

 無邪気な顔でこわいことを言う春出水さんをただ見つめる。


「えっと…………言質を取られると俺はどうなるんですか?」


「はい。では、責任を取って、こおりさんの水着グラビアのリハーサルに付き合ってください」


「へ?」


「犬飼さん、リハーサルの大切さは分かりますよね。まず第一にリハーサルを行うことで本番に向けた準備が整います。練習を重ねることにより、自分自身のスキルやパフォーマンスが向上し、本番でのミスを最小限に抑えることが出来ます。さらに、リハーサルを通じて不明点や改善点を発見し、それを修正する機会を得られます。どうですか?」


 え? なにその早口。リハーサルが何だって?


「……え、えーと」


「また、リハーサルはスタッフ含めチーム全体の連携を深めるためにも非常に重要です。共に練習を重ねることで、コミュニケーションが円滑になり、協力して一つの目標に向かう力が強まります。これにより、全体のパフォーマンスも向上し、より良い結果を生み出すことができます。分かりますか?」


 こわいこわいこわい。台本でもあるのかってくらい滑らかに喋る。


「いや、あの」


「さらに、リハーサルを行うことで、本番の状況に慣れることができます。例えば、舞台や会場の雰囲気、本番の流れなどを事前に体験することで、当日の緊張を和らげる効果があります。このように、リハーサルは心の準備にも大いに役立ちます。総じて申し上げますと、リハーサルは成功への鍵と言っても過言ではありません。十分な準備と練習を重ねることで、自信を持って本番に臨むことができ、最高のパフォーマンスを発揮することが可能となります。したがって、リハーサルを軽視することなく、しっかりと取り組むことが大事です。聞いてますか?」


 あ、頭が動かない。お経を聞いてるみたいだ。

 なんか似たような内容を繰り返してないか。


「き、聞いてます。えーと、つまり?」


「つまり、リハーサルは……?」


 はいどうぞ、といった風に小柄な春出水(はるでみず)さんに手の平を斜めに向けられる。

 なんか見た目は可愛らしいけど、何だこの状況。


「……大事?」


 とりあえずフワッと答える。


「そうです! よくできました。了承して頂けたということで。では、明日の夕方、お願いしますね。集合場所は追って連絡します」


 やべぇ。なんか知らん間に予定を取り付けられた。


 こういう流れをコントロールされてる状況はよくない。

 反撃、反撃しなくては。負けるな俺。

 今どうなってる?


 ……結局俺は氷ヶ峰(ひょうがみね)の水着を見るってことか!? なんで!?


「待て。待ってください。もちろん春出水(はるでみず)さんも一緒に着てくれますよね?」


「へ?」


「なぁ氷ヶ峰(ひょうがみね)さん。一人は嫌だよな?」


「うん。桜子も一緒」


 氷ヶ峰(ひょうがみね)が即答する。あれ、織り込み済みか?


「へぇええええええ!?」


 さっきまで余裕の振る舞いだった春出水(はるでみず)さんが目を見開く。


 当たり前に氷ヶ峰(ひょうがみね)の独断っぽいな。

 こいつが思い通りになると思うなよ。


 とりあえず、なんとか一矢報いた。

 氷ヶ峰(ひょうがみね)と二人きりは回避した。

 だけど、このあとどうしよう。

 そもそもグラビアのリハなんて聞いたことがない。

 まずどこでやるんだ。場所は。


 ……まさか俺の部屋じゃないだろうな。


 スタジオ借りるよな?





 ────────────────────





「おじゃましまーす!」

「……おじゃまします」

「やっほー! 竜太郎くん元気してるー?」


 ……そのまさか、俺の部屋だった。

 扉を半開きにして、来訪者を見る。


 春出水(はるでみず)桜子(さくらこ)

 氷ヶ峰(ひょうがみね)こおり。

 そして、()()()()()()がいた。


 まぁ上二人は事前に話があったが……。


「なぜ、猫屋敷(ねこやしき)さんまでいるのでしょうか」


「……何で敬語なのー? くるみって呼んでたのに……。いや、面白そうなことしてるなーと思ってさ。それに、水着で撮ったことあるのってこの中だと私だけだし? 協力してあげよう……的な?」


 口調は軽いが、なんか俺の目をまっすぐ見てこないな。


 いつもの演技じみたゆるくてふわふわなテンションも微妙に調子が出てない気がする。


 そういえばあの水族館デート以来だなと思った。


「気づいたら尾けられていて撒けなかったんですよ……」


 春出水(はるでみず)さんが小声で何か言ってるがちゃんと聞き取れなかった。


「犬飼くん、そろそろ中に入れて」


 氷ヶ峰(ひょうがみね)がそう言いながら入ってきた。


 こいつもまだ俺を微妙に避けてるのか顔を見てこない。


 そのまま全員通す。

 まぁ、ここまできて追い返すのもなんだし、水着、水着か。

 水着見れるのか……と正直もろもろの面倒より期待が上回り始めていた。



「へー、男性の一人暮らしってこんな感じなんですね」

「意外と綺麗にしてるじゃんっ」

「私は何度も来たことある。何度も」


 春出水(はるでみず)さんと猫屋敷(ねこやしき)さんが興味津々にきょろきょろしている。

 氷ヶ峰はなんのマウントなんだそれ。

 俺の部屋に来たことありますでドヤ顔できる理屈を教えてくれ。


「狭い部屋ですみません」


 いや、本当に八帖のスペースに、シングルのローベットと壁に取り付けたテレビがあるだけの部屋だ。

 カーペットは敷いてるし一応座椅子はあるが、一人分しかない。

 あとはクッションがいくつかあるだけ。

 一応できる範囲で掃除はしたが、どうだろう。


 人間が四人もいていい空間ではない気がしてきた。

 というか、なんかみんないい匂いがしてぼーっとしてきた。


 非日常感がすごい。


「私はこのベッドで寝たことがある。何度も」

「……私も寝てみたい!」


 ベッドに滑り込む氷ヶ峰(ひょうがみね)と、便乗しようとする猫屋敷(ねこやしき)さん。


「やめてください」


 俺の言葉を無視して二人で布団にすっぽり入り、こちらを見てくる。


「狭いね」「狭い」「枕がいまいち」「わかる」


「おい寝るな! 文句言うな!」


 えーと、春出水(はるでみず)さんは……。


「ベッドの下が存在しないローベッドの場合、えっちな本の隠し場所はどこになるのでしょうか。やはり現代では現物ではなくデータ……」


 あごに手を当て変なことを考え出している。

 蒼樹坂(あおきざか)最後の良心がえっちな本とか言うな。


「詮索すな! パソコン開こうとするな!」


 その後も好き勝手やりだすアイドル三人組につっこみ続けること十分。

 俺は疲れていた。


「はぁ……はぁ……満足しましたか」


 なんか、この三人も変なテンションになっているように感じる。

 これまであまり絡みがなかったのに、番組という共通点のおかげだろうか。

 なにか連帯感のようなものが生まれてる気がした。


 まぁ、仲良くなるなら良いことか。前向きに考えよう。


「あーたのし。竜太郎くん反応おもしろーい。……ていうか何しに来たんだっけ」

「いけません! 犬飼さんを癒す予定が、なぜか疲労が溜まっています!」

「そろそろ水着に着替えたい。そのために来たんだし」


 と、いうことで俺はリビング(部屋は一つしかないのだが)を追い出された。

 三人はこれ以上悪さはしないという約束で。


 廊下に座り込み、ひと心地つく。

 撮影練習として春出水さんが借りてきたカメラの操作を確かめようとした。


 すると、部屋の中からなにやら、きゃっきゃする声が聞こえてくる。

「ヤバい」とか「みえすぎ」とか「おっきい」とか。



 ……………………。

 

 かすかに布の擦れる音や、ボタンを外したりする音が聞こえる。




 アイドルのマネージャーとしてあるまじきことだが……仕方ない。

 認める。童貞には刺激が強すぎる。




 正直言って俺は今、猛烈に興奮し始めていた。










 

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