第20話 ウワサの真相
<春出水桜子>
こんにちは!
蒼樹坂最後の良心───とか言われてます。恐縮です。
春出水、桜子と申します。
私、別に性格がいいとか正義感があるとかではないのですが。
気づいたら、アイドルグループ蒼樹坂の委員長というポジションに収まっていました。
そもそも委員長って何の?
疑問に思いますよね。私も思う。
クラス委員なのか風紀委員なのか美化委員なのか────はたまたそれら全てを統括しているのか。
私も答えは分からない。
でもとにかく委員長らしいんです。
そもそも、もう高校を卒業したのに、委員長なんて笑っちゃいますよね。
学生の制服風の衣装を着て、【委員長!!】の腕章をつけてるときなんて、ちょっと背徳感を感じる。
いいんですかー私もう19歳なんですがーって。
身長は150センチちょっとしかないけど、もう立派な成人なんですがーって。
……でもそこは、アイドルをやっているものの特権ということで許してください。
あと、実は私は小さい頃から芸能界で子役をやっていたので、あまり学校というものに通った記憶がありません。
なので、同年代の女の子たちや、年下の後輩たちに求められたり頼られたりする現状は悪い気がしないし、やりがいを感じています。
そういうわけで、私は委員長としての自分を受け入れて、日々過ごしているのです。
私はそういう立場もあって番組の司会をやることも多くあります。
円滑に番組を回すためには、メンバーのことを常に把握しなければなりません。
蒼樹坂に在籍する50人近くのアイドルは全員可愛いし愛おしい。
その中でも私、春出水桜子が思う今一番熱いのはそう────氷ヶ峰こおりさん。
私から見る氷ヶ峰こおりさんを少しご紹介しましょう。
ーーーーーー☆彡
本日は劇場の出番があるので、これから始まる公演に向けてリハーサルが行われていた。
蒼樹坂は自前の劇場を持っているので、自由に公演を組むことが出来ます。
定期的に客を入れて公演を行い、それをライブ配信し、収益化する。
また現地に来てくれた人には公演後ファンサービスを行う。
そういうサイクルの中で人気に火が付き、自然と蒼樹坂はメディアにも進出するアイドルグループとして成長していきました。
経営が苦しいときもあったそうですが、劇場を手放さなかったことが、今現在の躍進に繋がっていると言われています。
このステージが神聖視されてると言ってもいい。
そのおかげなのか、今は劇場に出れるメンバーをファン投票のランキング形式で選抜し、アイドル達は日々切磋琢磨を繰り返している。
選抜から落ちてしばらく劇場に立てないと宣告されたアイドルが号泣なんてのはよくある話です。
劇場に立ってファンの前でパフォーマンス出来ることは格好いい。
そういう価値観が蒼樹坂にはある。
私はこれが物凄く良いことだと思っていて、惰性で出演するアイドルはいないし、それだけファンのみなさまにエンターテイメントを提供できているという誇りがあります。
……あるんですが……。
現在、その緊張感あるリハ中なんですが……。
さきほど紹介するとお伝えした、氷ヶ峰こおりさんの様子がおかしい。
ステージ裏のモニターを見ながら思う。
「明らかに動きがよくありません」
私がそう呟くと、隣に立った男性が答える。
「やっぱり分かりますか。さすがです春出水さん」
「もう。桜子と呼んでください、と言いましたのに」
私のことを下の名前で呼んでくれない彼の名前は、犬飼竜太郎さん。
氷ヶ峰こおおりさんの専属マネージャー。
専属って良い響きですよね……。素敵……。
「……いえ流石にそれは。それより先日はどうもありがとうございました。俺は酔ってて記憶がないんですが、水とか買っていただいたみたいで……」
「全然です。あの日、楽しかったですね」
彼は今度始まる番組の決起集会のあと、お酒に酔って潰れていた。
私は介抱すると見せかけてただただ彼のお顔を拝見していただけなのですが、
なにやら恩義を感じてくれているようです。
実は顔を見るだけじゃなく、そっと頭を膝に乗せてみたりしたのは内緒。
はしたなくて、思い出すだけで顔が赤くなりそうになるのを感じる。
「楽しんでいただけたなら良かったです。氷ヶ峰とも仲良くなったみたいで」
「……はい、そうなんですよ。最近よくお話させてもらってます。それで、こおりさんから色々と聞いています」
「色々とは?」
「全部は話せませんが……犬飼さんがくるみさんとデートしたとの噂が」
「えっ……!?」
私も気になっていたが、まったく信じていなかった。
だって、犬飼さんとこおりさんは通じ合っているから。
そういうゴシップに疎いこおりさんにまで話が回るほどだったが、性質の悪いイタズラだと思っていた。
でも、この反応は事実なのですか……?
「嘘。本当なのですか?」
居心地悪そうな顔の犬飼さんが、言う。
「誰にも言わないでくださいね?」
「誰にも言いません。蒼樹坂の最後の良心────桜子を信じてください」
少し背の高い犬飼さんを真剣な顔で見つめる。
前も思ったけどまつ毛長い犬飼さん。
「うっ……眩しすぎる……」
「早く言ってください」
変な反応をする犬飼さんに強めに詰めると、観念したように話し始める。
「……実は、猫屋敷さんに彼氏になってと言われたんですよ」
「……え?」
どうして……?
彼氏になって……ですって……!!??
「そして俺は舞い上がってしまって……デートに誘ってしまったんです」
「あの女…………こおりさんの犬飼さんを……………!!」
あの尊い二人に邪魔が……。
怒りに震える私は、泣きそうになる。
「ただ、その。恥ずかしい話、猫屋敷さんなりのドッキリというか冗談だったみたいで……」
え……。
そう言って疲れたように笑う犬飼さんをぽかんと見る。
「そんな……ドッキリで告白するなんて正気じゃない……」
「実は俺、彼女ができたことなくて……勘違いしちゃいました。恥ずかしいんで内緒にしてくださいね」
そっか……。
安心した気持ちと同時に、本当にこおりさんと付き合ってないんだという残念な気持ちがあった。
そしてもうひとつ、自分の中に新たな気持ちが生まれそうな気がしたけど、蓋をした。
蓋をするのは得意だ。
「はい! 必ず誰にも言いません!」
ーーーーーー☆彡
「犬飼さんはくるみさんに騙されたんです!!!!」
「騙された……?」
私は公演終了後、こおりさんと二人で楽屋で話していた。
「はい。なので犬飼さんとくるみさんのデートは大丈夫です。あの二人が良い感じだったわけではないみたいです」
「そう」
そっけなく見えるこおりさんだけど、徐々に頬が緩んでいくのが分かった。
なんだかあったかい気持ちになる。
ただ、この調子だと、いつ犬飼さんがどこの馬の骨に取られるか分からない。
「こおりさん。私には本心を話して欲しいのですが……いいですか?」
「うん」
「犬飼さんのこと、好きなんですよね?」
「うん」
「付き合いたいですよね?」
「……うーん」
あ、そこで渋るんだ。
この人は、顔も美人系で大人っぽいのに。
身体もダイナマイトバーディなのに。
子どもですか……?
「じゃあくるみさんと犬飼さんが付き合ったらどうですか?」
「嫌。絶対に無理」
子どもだ……。
思わずいらないことまで聞いてしまう。
「じゃあ私、桜子と犬飼さんが付き合ったらどうですか?」
そっぽ向いてたこおりさんの顔が、グルンとこちらに向く。こわい。
「…………好きなの? 竜太郎のこと」
「ないですないです。冗談ですごめんなさい」
あぶない。ここまで上げた好感度が一気に消え去るところだった。
「うーん。じゃあ犬飼さんがこおりさんのこと大好きになったらどうですか?」
もう大好きだと私は思ってるんだけど。
でもくるみさんに誘惑されるぐらいだから、盤石ではない。
「……いい。嬉しい」
ほころんだ表情が可愛い。
雪原に咲いた一凛の花だ。美しい。思わずため息が出る。
「じゃあ、がっちり心を掴まないといけませんね」
「がっちり……」
「犬飼さんってどういう人なんですか? 異性のどこが好きとか、教えてください」
「……うーん」
「こおりさんと犬飼さんがフォーエバーになるために知りたいんです」
断じて私が気になるわけではありません。
「…………犬飼くんはね、とにかくえっち」
「あー……、まぁ男性はそういうものですよね」
「むっつりってやつだと思う。犬飼くんは変態」
ふむ。じゃあそんなのいくらでもやりようはあると思った。
それに、ちょうどいいことを思いついた。
「こおりさん、チャンスです。来週から何月ですか?」
「……? 7月だけどそれがどうしたの?」
蒼樹坂は、高校を卒業したアイドルから希望者はグラビア活動が出来る。
当たり前だが人類の半分は男性なので、グラビアをやれば人気は上がる。
こおりさんと私は去年はパスしたものの、今年から解禁予定だった。
「今年の夏、こおりさんも私もグラビアやりますよね」
「そうね。犬飼くんもやった方がいいって言ってたわ」
「世間に見せる前に、彼に見せてあげませんか?」
「……何を?」
「私たちの水着姿を」
日頃疲れてる犬飼さんを癒す。
そしてがっちり心を掴む。
それはかなり良いことのように思えた。
次回、水着回
学マスをやっていて思いついたわけではありません。
名前呼び間違え何か所かありました。すみません。




