第11話 それぞれの思惑
<犬飼竜太郎>
ここは事務所の応接スペース。
俺は同じマネージャー業務をしている、ある先輩に相談を持ち掛けていた。
ある先輩とは、俺と違って複数のアイドルを担当し、今日もかなりの業務をこなした上でケロッとしている体育会出身の頼もしい人────(第一話からコピペ)────つまり、高橋さんである。
その頼れる先輩、高橋さんと向き合う。
「竜太郎、俺はお前が辞めずに続けてくれてることが嬉しい」
「高橋さん……」
相変わらず優しい……。
高橋さんのアメフト仕込みの分厚い胸板────(これまた第一話よりコピペ!)────に飛び込みそうになる。
「おい、だからそのうるうるした目を止めろ。それで、相談って何だ」
あぶないあぶない。
思わず抱かれたいモードに入るところだった。
偉大な先輩の前だ。集中しろ。
「では単刀直入に言います。猫屋敷くるみのスケジュールをしばらくいただけませんか。週一で20時から、webの生配信番組を想定しています」
「ふむ。猫屋敷か……あいつは難しいぞ」
そう、猫屋敷くるみは扱いが難しい。
まず現状不動の蒼樹坂人気第一位という称号に加え、グループアイドル所属なのに、ソロ志向が強かった。
元々はシンガーソングライター希望だったという話もある。
性格は俺が調べた限りでも中々の我の強さで、実際スタッフやマネージャーをつけられては気に食わない相手を個人的な理由で飛ばしたりしている。
しかし抑えるべきところは抑えるといったタイプの人間で、上からの評価はすこぶる良い。
ボヤ騒ぎ程度の問題は起こすが、立ち回りと人気が相まって不問にされてきた。
ここしばらくは対人関係の達者な高橋さんが担当していて上手くいってるらしいが、それもいつまで続くか分からない。
フッ……まぁそうは言っても……扱いの難しさはウチのには遠く及ばないだろうがな!
……はぁ。まぁいい。張り合っても虚しいだけだ。
それにアイドルなんてものはある程度我が強くないとやっていけない。
俺が蒼樹坂でそれを感じさせないと思ったのは春出水桜子という子くらいだ。
あの子は優しい。優しすぎる。俺もああいう子を担当したかった。
とにかく、前髪が短くなって見やすくなった目に力を入れて答える。
「はい、難しいのは覚悟の上です」
「氷ヶ峰と組ませるのか?」
「もちろんそうです。俺の担当は氷ヶ峰だけですから」
高橋さんが何度か頷いて、腕を組む。
「そうか……分かった。お前のことだ。すでに猫屋敷を口説き落とす準備は出来てるんだろう」
「いえ……まぁ、実はそうです」
「お前が派手なことをやっても許されるのは、こういう筋をきちんと通すからだと思う」
さすが高橋さん。全てお見通しか。
まぁ派手なことをやってるのは氷ヶ峰で俺ではないのだが。
「結果的に蒼樹坂全体の利益になると思います。お願いします」
「……よし、じゃあ俺も腹を割って話そう」
「……?」
ん? 雰囲気変わったな。
何か問題でもあるのか。
肉体と裏腹に柔いイメージの高橋さんが、剛のオーラを発するのが分かった。
そして高橋さんが組んでる腕の、二頭筋がパンプアップしたように感じた。
─────────デカい。
「実は俺からも頼みがある。その番組に、霧島凛空も加えてくれないか?」
……霧島?
「え? あの有名な作曲家ですか?」
|SUN LIGHT UPという男性アイドルグループの専属トラックメイカーだ。
俺でも知ってる。めちゃくちゃ売れてるから。
「ああ。俺も詳しい事情は知らないが、どうやら蒼樹坂のアイドルに興味があるらしい」
「へぇ、良いじゃないですか。ちなみにどこからの頼みで?」
「社長」
「わーお」
俺の頭の中で色々なモノが組み上げられていく。
新進気鋭の作曲家か……確か若くて見た目も良くてトークもいけるんだよな……。
いくらでも番組作りに生かせそうな素材だと思った。
それにしても蒼樹坂に興味があるのか。恋々坂にも曲提供するとか聞いたが、意外にミーハーなのか。
「……いいのか?」
「いや全然良いでしょ。むしろ有難いです」
「……そうか」
なぜか歯切れの悪い高橋さんを見て不思議に思う。
あ、それと一つ聞いておかないと。
「で、ちなみに霧島は誰推しなんですか? その子にも交渉して出演者に入れないと……」
俺は二年経っても他のアイドルとの繋がりがあまりない。
取っ掛かりがある子なら良いんだが……。
「はぁ……。お前は賢いのに彼女のことになると致命的な察しの悪さを発揮することがあるなぁ」
「へ? どういうことですか」
聞き返しながら、自分でああそうか、と合点がいく。
そりゃそうか。アホか俺は。
「霧島のお目当ては氷ヶ峰こおりだよ」
このタイミングでその話を持ってくるってことは、そういうことだ。
────────────────────
<猫屋敷くるみ>
夜、私は、自宅の防音室でギターをかき鳴らしていた。
日頃のストレスを発散するように飛び跳ねながら。
前のマネージャーに指を痛めるから程々にしろと言われたことを思い出す。
────うるさいうるさいうるさい!!
そんなに細くてたおやかな指が良いのか! この! この!
「……アアアアあああ!!」
シャウトを決め、目を閉じ、続く音を奏でる。
私にとって、この瞬間だけが、生きてると感じられる時間だった。
しばらく心ゆくまで演奏し歌ったあと、ひと心地つく。
「……ふぅ。これくらいにしといてやる」
自分でこめかみを触り、ゆっくり解していく。
さっきまでの真剣な顔から、徐々にほんわかしたアイドルの顔に戻っていくのがわかる。
よし、もう一仕事がんばりますか。
SNSを開き、次々とファンに反応を返していく。
私は、ほとんど考えなくても、相手の求める言葉が分かった。
いつも思う、皮肉なものだと。
他の心から純粋なアイドルをやってファンのことを考えてる子たちよりも、私の方が上手くやれる。
人なんて単純で、簡単に操れる。
虚しい手ごたえを感じながら思う。
ふとソファに投げ捨てたギターを見る。
───私は、アーティストになりたかった。
とにかく有名になってお金を稼ぎたくてアイドルになったけど、この仕事を始めてすぐ分かった。
金なんてある程度稼いだら意味がない。
私は自分の曲と自分の歌詞で誰かを感動させたい欲求があるんだって。
思い立ってギターを買って作詞作曲演奏の練習を始めたけれど、中々上手くいかなかった。
今も毎日努力しているけど、才能が無くて心が折れそうになる。
私は可愛いだけの存在なのか。
なんで片手間でやってるアイドル業は適当にやっても結果が出るんだ。
ネガティブな感情が顔を出そうとする。
その瞬間、それを防いでくれるかの如く、スマホに通知が来た。
相手の名は────犬飼竜太郎。
文面をサッと読み、すぐに通話をかける。
「やっほー! 竜太郎くん!」
「うお、夜も遅いのでLINEにしたのですが……って竜太郎……!?」
相手の動揺が伝わる。ふふふ。
「竜太郎くんとは同盟を結んだ仲だからねぇ。私のこともくるみちゃんって呼んで欲しいなっ」
「……いえ、猫屋敷さん。それで、番組の件どうですか?」
「もーつれないなー。あ、番組? オッケーに決まってるじゃん。竜太郎くんには何でも協力するって」
犬のように氷ヶ峰こおりのためなら何でもするという評判の彼。
二人は高校生時代からの仲で、ただならぬ絆があるみたいだけど、そんなもの、私は信じていなかった。
人なんて単純で、簡単に操れる。
私は、顔がニヤけるのを押さえられなかった。
今一番熱いお遊びは、これだ。
────犬飼竜太郎を氷ヶ峰こおりから奪い取る。
なぜか、想像するだけで身体がゾクゾクするのを止められなかった。
繰り返しますが
NTRないです




