第四話 学園都市
ども。コウです。
今回は結構進んだと思います。
本格的な戦闘も取り込んでいますが、変なところは勘弁してください。
そういうわけで、今回も楽しんでやってください。
アゲハが購入した刀は『紅葉』という銘で、有名な刀匠やら魔術師やらが丹精込めて創った逸品らしく、かなり値が張った。
それでもキラの懐は痛むことはなく、ついでにアゲハの普段着と戦闘用ローブを買うことにした。
それら二つはすぐ近くの魔道具店に売ってあり、どうせだからということでキラとリリィの新しい普段着も買った。
あとは不動産屋。
そうして三人がとりあえず宿へ戻ろうとしたところ――――
「きゃああああああああああ!!」
まだまだ、キラたちの不幸の連鎖は断ち切れていなかった。
「っ! いきますわよ!」
とはいえ、このトラブルはどうやら人の命がかかっている。それを、曲がったことが何より大嫌いなリリィが助けないわけがなく、いち早く悲鳴が聞こえたほうへと駆け出す。
キラも、アゲハを連れてリリィの後を追う。
――――ブォオオオオオオオオオオオオオ!!!
ミノタウロス。牛鬼とよばれる暴君の魔獣が咆哮した。
再生能力が魔獣でも随一と名高いミノタウロスには、速さで対抗するのが一番効率がいい。
だから指示する。
「リリィ! その子を!」
「わかりましたわ!」
魔法が得意ではないリリィだが、治癒魔法だけはキラと結婚した後に、必死で練習して会得したのだ。そのことをよく知っているキラは、倒れている女の子の元へリリィを向かわせる。
「アゲハ。あいつを焼きつくせるほどの炎を出せるようにしといて」
「わかった」
ミノタウロスを倒すためには、その体を塵一つ残さないように消し去ることのみ。
事実、それができる属性というのは炎属性か雷属性。そして最も効率がいいのが、炎属性。
今回は、キラがミノタウロスをかく乱してアゲハに背を向けさせ、そこへアゲハが一撃を加えるといった作戦だ。
「――――加速する――――」
そのままの身体能力でも、キラであればミノタウロスと対峙できるが、それでも万が一のために、肉体強化として基本中の基本の魔法をかける。
自らが持つ亜空間から、二本の刀『天破神斬』を取り出し、疾走する。
それでもすこぶる動体視力がいいミノタウロスは、その動きをとらえ、手に持っている棍棒で殴りつける。
真上から押しつぶすように来る棍棒を、キラは左手の『天破』で受け流す。
受け流され地面に突き刺さった棍棒から、駆け上がる。そして、クロスさせるように顔を切りつけ、ミノタウロスの背後に着地。
それだけにとどまらず、キラはまだ振り向かないうちに、ミノタウロスの脛を切る。
だが、そのうちどちらもがミノタウロスに致命傷を与えることなく、再生される。
それでもキラは、どんどんとスピードを上げ、ついにはミノタウロスの再生力をも上回った。
怒りのためか、ミノタウロスは完全にキラしか視界にないようで、そのほかの存在を忘れてアゲハに背を向けて吠える。
「アゲハ! 今!」
キラの合図とともに、アゲハはためた魔力を炎に乗せ、一気に放つ。
ミノタウロスの足元が高熱で真っ赤になり、そこから火柱が噴きあがる。
――ブオオオオォォォ……
豪華の炎に飲み込まれながら、ミノタウロスは灰へと化していった。
「ナイス、アゲハ」
やはりドラゴン。火力が半端ない。普通に火柱だったら、相手の動きを止める程度なのに。
「あれくらい、当たり前」
キラに褒められ頭を撫でられているのがうれしいのか、頬を少し染める。
二人は倒れていた女の子を手当てしたリリィの元へ向かう。
「怪我はどう?」
「幸い、こけて足をくじいただけなので、大したものではありませんでしたわ」
「よかった……ミノタウロスにやられたらシャレにならないからね」
ミノタウロスの攻撃は、人間の体なんか木端微塵にしてしまうぐらい強い。肉体強化をしていてもだ。
「ここ、どこ?」
無我夢中に三人は走ってきたから、この場所がどこか把握していない。
が、すぐにここがどこかわかった。
街の中では石畳で包まれている地面が、今いる場所は赤茶けた煉瓦に包まれている。このように独特な建物の作り方は一つしかない。
「学園、ですわね……グランバールでいえば、ヴァール学園ですか」
「ん? なんで学園内に、ってか都市内にミノタウロスがいるんだ?」
そこで、次の疑問が浮かびあがる。
普通、グランバールのような都市は、いや、小さな村でさえも結界が張られている。その結界は外からの魔獣の侵入を防ぐために、転移魔法の規制がかけられてある。
大きな都市ではなおさら強力なものだ。
「やっぱ、勇者の降臨と関係があるのかな?」
「でもあれ、弱かった」
「確かに、刺客にしては弱かったような気がしますわね……」
「あ、あの!」
三人であーだこーだと討論していると、女の子の声が遮ってきた。
正直、可愛かった。淡い水色でセミショートの髪に、くりくりとした同色の瞳。
しかも、もじもじと小動物のような行動をしているので反射的にキラは抱きしめてしまいそうになるが、自重。
が、
「……かわいいですわ!」
「ふえっ!?」
同類であるリリィは我慢できなかったらしく、ぎゅっ、とばかりにその女の子を抱きしめる。
「このくりくりとしたおめめに、この小動物のようなあわて方! さらにはペチャパイで小柄! 完璧ですわ!」
「うぅ~……ペチャパイじゃないですぅ……これから育つんですぅ」
もみくちゃにされているためか、女の子は反論するも声に力が入っていない。
「ほらほらリリィ。困っているからやめてあげたら?」
この時、女の子に嫉妬していたというのはキラだけの秘密だ。
「ミーナさぁん! 大丈夫ですか!」
キラが、アゲハで我慢して、とリリィの興奮をなだめた時、新たな声が加わった。
「どこか怪我はないですか!?」
背中に何かの紋章が描かれた白いローブを着た女性が、ぺたぺたと女の子――ミーナの体をあちこち触りながら聞いている。
「シ、シーナ先生……私は大丈夫ですから。この人たちに助けてもらったんです」
「えっ? あなたたちが?」
シーナはミーナから視線を外し、アゲハ、リリィ、そしてキラの順に移していく。……キラのところで頬を染めたのはご愛嬌だろう。むっとしたリリィがいることも。
「そう、ですか……決めました! みなさん、私についてきてくれますか?」
キラが丁重に断ろうとしたが、答えを言わせることなくミーナを促して歩いて行った。
勝手に帰るわけにはいかないキラたちも、シーナについて行った。
ヴァール学園といえば、世界でも指折りの学園だ。
その理由として、まずは世界にも名をはせるほどの魔術師を輩出していることがあげられる。特に高等部に入学してからは、筆記の勉強はほとんどなく、八割方が戦闘訓練などの実技訓練になるのだ。筆記のほうもやろうと思えば受けることができる。
そして次に設備。王国騎士団の訓練場顔負けの設備だ。防音はもちろん、修復魔法や防壁魔法など、いろいろなところで訓練以外に魔力を使わないようにしてある。しかも、敷地面積はグランバールの五分の一ほど広さで、買うものも普通の店に出ているものとほぼ変わず、一生生活できるほど。そのかわり、全寮制だが。
最後に、学園行事である武術大会。それに出て優勝すれば、王国騎士団の推薦枠がもらえ、その次にある学園同士での戦いの『学園武術大会』に出場することができる。さらにこれに優勝すれば、卒業後の騎士団入団が決定する。
主にこのようなことがあるから、この学園は人気で、初・中・高等部の総生徒数は三千人にまで登るのだ。
「今回は、本当にありがとうございました。おかげで、うちの生徒も学園も救われました」
今キラたちがいるのはお城のような建物の一番てっぺんの部屋、校長室。
そして今の状況は、キラ、リリィ、アゲハの三人に、二十代後半ぐらいの女性に頭を下げられている。ミーナとシーナはその少し下がった位置で深々と頭を下げている。
「いえいえ。当然のことをしたまでですわ」
「そうですよ。あのまま放置しておけば、被害は拡大しましたし」
「当然」
三者三様答える。事実、三人にとってそれほど苦ではない。ミノタウロスより強い魔獣なんて、世界中にごまんといる。
キラとリリィ、そして王者ドラゴンであるアゲハにとって、それは百も承知のことで、たとえ勝てる見込みがなくとも戦っていた。あり得ない話であるが。
「ですから、あなた方に何かお礼をしたいのですけど……」
「僕たちは見返りを求めているわけではないので……」
「ありがたいですけど、丁重にお断りさせていただきますわ」
考えることは同じようで、キラが言おうとした言葉を、リリィが引き継いで言う。
校長は心底残念そうな顔をして、「わかりました……」とつぶやいた。
そして、キラたちが去ろうとしたその時。
「家」
キラが手を引いて連れて行こうとしたアゲハは、ぽつりとつぶやいた。
「はい?」
「家、ほしい」
キラもリリィも予想外で、校長はかなり無茶なお願いをされたにもかかわらずかなり嬉しそうだ。
「ちょっ、アゲハ! 変なこと言っちゃ……」
「でも、家高い。だからもらったほうがいい」
「いいですよ」
校長がにこやかに言い放つ。その言葉にキラとリリィは返すことができず、校長は続けざまに、
「しかし条件があります。あなたたちがこの学園の教師となるのです」
これこそ二人は驚いた。
教員免許というものは、あってもなくてもいいようなものだが、それでも国から認められているという証拠になる。むろん、そんなものを二人が持っているはずがない。
「ミノタウロスを倒す、しかも無傷で倒すことを考えれば、あなたたちは相当な力の持ち主だということ。なら、この国、いえ、世界のために貢献してくれるとうれしいのです。なにぶん、最近教師の質というものが落ちてきましてね。実技試験ではなく、筆記試験で合格した人たちが多いので、実戦経験がある人というのがすこぶる少ないのです」
それなりの、というか正当な理由だった。
この学園は教師も寮生活だ。家というならかなりいいところだろう。お金はかからないし、寮の部屋はいい部屋だと評判だし。
いろいろと思考を重ねたうえで、
「そちらがいいのでしたら……」
「もちろん、大歓迎です」
話がまとまりそうになったところで、アゲハが再び口を開いた。
「学校行きたい」
「いいですよ」
「すっごく軽いですね。校長」
「いえ、そういうわけじゃないんですよ。ミノタウロスを仕留めた火柱はアゲハちゃんでしょう? なら、こちらに断る理由はありません」
つまりは、あれだけの火力が出せるのだから、この学園に来ても問題はない、ということだ。
アゲハの感情の表し方は表情ではなく、行動に出る。今がそうで、うれしいときは必ずキラの手を握るのだ。
「ではまず必要なものですね。この学園には決まった制服というのは、上に羽織る形のローブしかないのです。だから、アゲハちゃんには今から渡す学園内の地図に指定されてある場所で、寸法を測ってもらってください。杖はなくてもいいですが、あったほうがいいですね。武器は……その腰に差してある刀ですか? 持ち込み禁止なんですけど、まあいいでしょう。アゲハちゃんが人に危害を加えるとは思わないですしね。それで……あの、お二人のお名前は?」
まずはアゲハがすることについて説明する。そして、キラとリリィのことを言おうとしていたのだが、名前がわからなかったのか聞いてくる。
「僕はキラです。こっちがリリィ。……なんでアゲハの名前を?」
「さっきいってたでしょう?」
「ああ、なるほど」
「それで説明の続きですけど、キラさんとリリィさんには私がスカウトしたということにします。実際そうなんですけどね。お二人には一つのクラスを担任、副担任という形でまかせます。基本的に教師には決まった服装とかいうものはないので私服でいいのですが、パーティなどの催し物のときは正装で来てください。お二人は武器を亜空間にしまっているようですが、別にどちらでも構いません。教師としての威厳を保ちたいのであれば、持っていたほうがいいと思います。あとは……ないですね。あっ、これに個人情報を」
長い説明を終えて渡してきたのは一枚のきれいな紙。羊皮紙が流用しているこの世界では、紙というものは使われていない。使われているとしたら、このような契約書のような場合のみ。
ちなみに、ギルドではそのまま個人情報を載せたカードを創るため、使われていない。
渡された羽ペンで、キラは書き始める。リリィとアゲハの分もだ。
「これでいいですか?」
「はい。……まだ十八歳だったんですね。もう二十歳ぐらいかと思いました。……家名が同じということは従兄妹とかそういった関係ですか?」
書いた記録について、何かいろいろと思うところがあるのだろうか、ブツブツとつぶやく。
そのなかで、『フォルステイン』が同じだったせいか、少し勘違いをして聞いてくる校長。
「ふふっ。実はですね、私たちは――」
「夫婦なんです」
「そうなんです――って、人が一番言いたいセリフをとらないでください!」
リリィは豊かな胸を張って自慢げにこたえようとしたが、一番のセリフをキラにとられた。悔しさからか、リリィはポコポコとキラの胸板をたたき出す。
そんなリリィに、癒されるキラ。
「まあまあ。お若いのに……でも、幸せそうで何よりです。あ、また忘れるところでした。このカードを持っていってください」
夫婦漫才を繰り出すキラとリリィに、校長は懐から金色のカードをそれぞれ三人に渡した。
「これは?」
「ゴールデンカードです。この学園の敷地内なら、なんでもタダですから」
「そ、そんな大層なもの、受け取れませんわ」
「人の好意は受け取るものですよ?」
とんでもないものを手にしたキラとリリィはあわてて返そうとする。が、有無を言わさぬ顔と言葉によって、突き返された。
「それでは、改めて。ようこそ、ヴァール学園へ」
その言葉とともにキラたちの学園生活が始まった。
ちなみに、シーナとミーナは自分たちが空気だと感じ、そそくさと退室していた。
校長の名前、忘れてました。えっと、まあ次話ぐらいに出したいと思うので。期待している人は少ないと思いますが。
では、これからもよろしくお願いします。




