第二十話 本選開始
ども、コウです。
……………………はい、では本編をお楽しみください。
『さあ! やってきました武術大会本選!』
――――ワァアアアアアアア!!!
拡張魔法で自らの声を大きくしている司会者が、設けられた司会席で机をバンバン叩きながら声を張り上げる。
それに合わせて盛り上がる会場。予選とはまるで雰囲気が違う。
『長々と話しても仕方がないので、早速試合開始と行きましょう!』
また沸き上る会場。皆の視線は、中央にある闘技場に注がれている。
『まずは! 弱冠十八にして既婚者であり、良き教師である、リリィ・フォルステイン!!』
おおぉぉ! と野太い声がわく中、紅の戦闘用ローブを着たリリィが入場する。
そのことに一層、声が張り上げられる。
『そして! 同じく十八だがパーカー家の次期当主! バルン・パーカー!』
こちらにはほとんど声が響かない。声を上げるのは、パーカー家の傘下の貴族の者のみ。
『では、両者が揃ったところで、試合、開始ぃ!!』
「やあ、センセー? やられる準備はできてますか?」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべるバルン。
「あなたこそ。帰るころにはべそかいているのではなくて?」
ふふふ、とこちらはものすごく怖い笑顔を浮かべながら、言い返すリリィ。
「ちっ……その減らず口、僕が閉じさせてあげるよ」
案外気が短いバルンは、腰からレイピアを引き抜く。
それに対してリリィは、微動だにしていない。が――――
そこにいたリリィは突如ぶれ、いなくなっていた。
「なっ……!」
「昨日、忠告したはずですわよ? そのようにノロマですと、死にますわよ、と」
いつの間にかバルンの背後に回っていたリリィは、これまたいつの間にか手にしていた紅の剣の腹で思いっきりたたく。
「ぐふぉっ……!」
情けない声を出しながら、何メートルもゴロゴロと転がるバルン。
転がっている際に、持っていたレイピアが手から離れる。
「まったく……戦闘の際に武器を手放すとは、貴方は本当に命がいらないのですね」
うぅ、とうめき声をあげながら立とうとしているバルンの目の前には、リリィが。
「まあいいですわ。喜びなさいな、わたくし自らが貴方に指導します」
さあ、早く剣をとりなさい。冷酷に告げるリリィの言葉をよそに、足をふらふらさせながらバルンは剣を取る。
「まず一つ。武器は絶対に離さないことですわ。……ほら、復唱なさい」
リリィは剣を教鞭のように振るいながら、バルンの前を行ったり来たりする。
わざとリリィが声を大きくしたからか、会場全体に聞こえていたらしくくすくすと笑う生徒や教師が出始めた。
決して、バルンを笑っているのではなく――一部はそうなのだが――ここでも緊張感のない行動をするリリィが面白いからだ。
しかし、バルンにはそうは思えないようで、
「なめるなあぁぁぁ!」
リリィに向かって突進していく。
素早く突き刺したレイピアは、リリィによって軽くあしらわれる。
そして、またバルンは衝撃によって剣を放してしまった。
「言ったそばからこれですわ……貴方には把握力というものがなくて?」
右手を押さえてうずくまるバルンに、ため息をつきながら言い放つリリィ。
「まあいいですわ。で、二つ目。相手から決して目をそらさないことですわ」
うずくまっていたバルンだが、きっ、と睨んだ後近くに落としていた剣をとり、懲りずに切りかかる。
それは先ほどのようにあしらわれるのではなく、悠々とかわされ、そして――――バルンの顔面に紅の切っ先が。
「っ!」
たまらず目をつむるのだが、頬を少し切り裂いただけであった。
「はあ……そろそろ終わりにしましょうか。キラもこの後控えていることですし」
またも息をつくリリィ。
とっ、と一瞬で十メートルほど後ろへ下がり、口を開く。
「最後に、どれほど強い相手でも諦めないことですわね」
開始直後と同じようにリリィは消え、手に持つ紅の刀身はバルンの腹に埋まっていた。
「やっぱつえーな、リリィさん」
剣の腹で思いっきり腹をたたかれて気絶したバルンをよそに、レインは素直な感想を述べていた。
「あのバルンって先輩、結構強いからね……たぶん」
エミリアも同じようで、感嘆のため息をつく。自信なさげなのは、この試合を見てバルンの実力がわからなくなったからだろう。
「たしか、へっぽこってリリィ様に剣を習うんだったよね?」
日によってレインの呼び方が変わるミーナは、昨日パーティーが終わった後放されたことを思い出しながら聞く。
「……まあな。正直、ああみたくされたら、やだ」
バルンをこれでもかというぐらいまでぼっこ凹にするリリィを思い出し、レインはぞっと身を震わす。へっぽこ発言に突っ込まないのは、たんに慣れたからだ。
「でも、効果的」
アゲハも自分の存在感を示すかのように、レインの発言に反論する。
「確かにそうかもしれねえが……あれ見るとなあ……」
「ま、へっぽこ根性を治すにはいい機会かも」
「……私もそう思う」
「エミリア!?」
唯一の味方と思っていたエミリアの裏切りによって、悲痛な声を出すレイン。案外傷ついたようだ。
「ほら、レイン。次キラさんだよ」
レインを見事スルーし、エミリアは会場に目を向けた。
『さてさて、しょっぱなから圧倒的な戦いを見せてくれた第一回戦! 次はどんな戦いが見られるのでしょう、第二回戦です!』
一回戦では会場が荒れていないからか、整備もせずに第二回戦を開始させようとする。
『今度は結構見ごたえのある戦いが見られるかもしれません! 憎たらしくもリリィ先生の夫であり、計り知れない実力を持つ色男! キラ・フォルステイン!』
女性の黄色い悲鳴、そして男性の醜いブーイング。
その二つが渦巻く中で、にこにこと笑いながら出てくるキラ。
ある意味すごい。
『迎え撃つは! この学園最高学年にして、ギルドでも絶大な信頼を得ている、またまた色男! ランベルク・ジョーカー!』
こちらもキラに負けず劣らず、女性からの歓声がすごい。同時に野太い罵声。
キラとは対照的に、少し引きしまった顔つきで入場してくる。
『じゃ、試合開始!』
「おい」
「ん?」
ランベルクが動き出すわけでもなく、キラに話しかける。
怒気を含んだ声に気付きながらも、普段と変わらず聞き返すキラ。
「今すぐ降参しろ」
とんでもないことをいい放つ。
それに対して起こるわけでもなく、虫らキラは面白そうだとばかりに口を緩ませながら、
「へえ、なんで?」
聞き返す。
キラとしては全く引く気はない。リリィの前で恥はさらしたくないし、第一キラは負けず嫌いだ。
でも、一応聞く。礼儀として。
「ふん、決まっているだろう。貴様が俺より弱いからだ」
「それだけ?」
心底あきれた理由に、キラはそれを表情に出してしまう。
その顔を見たランベルクは、なぜか眉をひそめる。
そして、
「まさか……俺の二つ名を知らないのか?」
こんなことを言い出した。
二つ名は、文字通り二つ目の名前。ギルドで依頼を受け、高いランク――キング&クイーン(序列一位)の中――になると自動的につけられるものだ。
それを聞いて少し驚くキラ。
「知らないね。どんなの?」
「聖騎士。どうだ? これで降参する気になるだろう?」
意外な事実にまたもほんの少しだけ驚く。
聖騎士といえば、グランバールでもトップクラスの実力を持つ――と、噂で聞いたことがある。
「そりゃまた……ご大層なもんにあたったもんだ」
「そう言うということは、ひかない、でいいんだな?」
「まあね……って、僕は一応教師だよ? 敬ってほしいね」
空気を和ませるためだけにキラは言ってみる。
だが、またまたキラが驚くことをランベルクが言う。
「ふん……俺が年上だ。なぜ敬う必要がある。逆だろ?」
「……何歳?」
「二十」
「彼女は?」
「いない」
「……ぷぷ」
「笑うなあ!」
それがきっかけで、二人の戦いが始まった。
隙ない大振りを放つランベルクと、空間から取り出した刀を横に振りはらうキラ。
「その刀、魔剣のたぐいか?」
「だったら?」
問いかけてくるランベルクに、キラは不敵な笑みとともに返す。
「たたっきる!」
拮抗していた剣を、ランベルクは無理やりに振り払う。
キラは無理に対抗せず、少し後ろに飛ぶことでやり過ごす。
が、
「甘い!」
ランベルクはさらに踏み込み、キラの懐へと潜り、なぎ払う。
「っと、あっぶなあ……」
瞬時に右手首をひねって刃を地面のほうへ向け、受け止める。
仕留められなかったという舌打ちとともに、ランベルクはいったん後方へ。
「さっきのは決まったと思ったんだが……踏み込みが甘かったか」
自分の剣を見ながら、ブツブツつぶやくランベルク。
「君って、僕のこと完全になめてるよね? ってか、予選の時持ってた盾はどこ行ったの?」
その様子を見ながら、キラは肩に担いだ刀で肩を軽く叩き、若干怒気を含んで聞く。
「あれは対多数用のものだ。そして、俺はお前に勝つことしかできない」
言い終えたと同時に切りかかった。
「そう……じゃ、手加減なしね」
直前まで迫っていた剣を、キラは神速の勢いではじく。
瞬時にものすごい量の殺気が放たれ、それに気付いたランベルクは足に魔力をこめて飛びのこうとするが、
――――ぉおおん!!
キラの魔力によって吹き飛ばされる。
単に吹き飛ばされたのではなく、純粋な魔力によって傷も付けられたのだ。
「くっ……」
ランベルクは切りつけられた肩をかばいながら、キラのほうを向く。
体からは、見たこともない純度の魔力。体を伝い地面に落ちては、不純物を取り除こうとするスパーク音も聞こえる。
構える、が動けない。キラの殺気をその身で受けたから。無意識に体がこわばりすべての行為を拒絶している。
「来ないなら、こっちから行くよ」
消失。
ランベルクがどこに行ったのかと確認する暇もなく、キラが目の前に出現。
こわばっていた体は何とか動き、剣を胸まで引き寄せるが、無駄なあが気もそれまで。
斜めに放たれたキラの斬撃は、その剣もろとも切り裂いた。
ランベルクは目を見開く。かなりの魔力を持つ自分の魔剣が、いとも簡単におられたことに。
それも一瞬で、何の剣術か斬られた直後にランベルクの体は壁に埋まっていた。
『勝者、キラ・フォルステイン!』
「君のその傲慢と強さ……ちょっと危険だね」
意味深な言葉を残してキラは去っていった。
「巷で噂の聖騎士サマでも、やっぱ坊主にゃ敵わねえな」
元帥用に用意された観覧席にて、カカカと笑いながらヴァンはなんくせつけていた。
「ま、当たり前ですわね。比べるのも可哀そう(キラが)ですわ」
リリィも試合が終わったために、この観覧席で見ていた。
「ってか、キラ大元帥、規格外だな……魔剣折るなんて」
キラが行った非常識さにオーフェンはあきれる。
魔剣は、文字通り魔力を持つ剣。はるか昔に秘術で創られたものだ。
世界に数十本。意外に多いかもしれないが、実際に使える物となればそのうちの三割弱。
どれもこれもが規格外の強さを誇り、ランベルクの持っていた剣もそれと同等の力を持っていたように見えた。
その強度となれば、同じたぐいのものでも折るどころか傷をつけるのも難しいほど。
それを、キラはいともたやすくへし折ったのだ。
「キラ様の魔力ならば、可能です」
セレナの言うとおり、キラの魔力ならば不可能ではない。
魔剣を折る方法、というのもおかしな気がするが、それが持っている魔力以上かつ純粋なものでたちきるしかない。
生きるために自分なりに考えた結果、キラが求めたのが純粋な魔力だったから、先ほどのようなことを可能にしたのだ。
「ま、魔法が苦手という時点で、キラに挑む資格は皆無ですわね」
リリィは、事前にランベルクのことを調べていた。
剣術は大したものだが、魔法はそうでもない。その時点で勝負は決まっていたのだ。――どっちにしろキラが負けるのはあり得ないのだが。
独自の剣術で超一流まで上り詰めたキラだが、純粋な魔力しか使わない魔法もとんでもないものなのだ。
しかも、少なくともあと二つ、奥の手がある。
勝てるわけがない。
「うぅ……あの人の代理……きつっ」
「ほんっっっとうに、光栄に思いなさい。最強の代わりになっているのですから」
「リリィ様の言うとおりです。本来なら空席だったのですから」
「はんっ。強引に割り込んできたてめえが悪ぃ」
なぜか話がどんどんそれていき、最終的にはオーフェンがいじめられるのであった。
「圧倒的な勝利、お見事っす……キラ大元帥」
退場したキラが向かった先、控室にはレックスがいた。
へらへらしてつかみどころのない彼は、笑いながら激励してくる。いつもと変わらない様子に、苦笑しながらも礼を返すキラ。
「んで? なにが引っ掛かるんすか?」
レックスは意外と鋭い。感情の動きを即座に読み取り、場合によっては聞かれたくないこともサクサク聞いてくる。
「……あの魔剣、変だった」
ごまかしは効かないのでやめ、キラは脳裏にランベルクが持っていた魔剣を描いていた。
「以前、違う魔剣を壊したことがあるんだ。あれと同じくらいの魔力をもつものを」
まだまだキラが未熟だったころ、狂った武人によって扱われていた魔剣を壊したことがある。
その時のと今の。まるで違う壊れ方だった。
「だけど、その時は被害がすごかった。村一つ、消滅したよ」
普通に考えたら当たり前のことである。
魔力が爆弾だとすれば、それを納めている剣は魔力に火がつかないようにする袋。そして、空気を炎とするなら、剣が壊れてしまえば魔力が大爆発してしまうのは必須。
あの魔剣が持っている魔力量ならば、村はおろか町さえも消滅させるかもしれない。
「それが起きなかった。考えられるのは、あの魔剣が本当に魔力を持っていないってことなんだけど――」
「ま、それはあり得ないっすね。俺も、あの魔力ビンビン感じたっすもん」
ますますわけがわからなくなる。
なのだが、一つだけ解決策がある。
「で、お願いがあるんだけど。これをエマに渡してくれるかな? 見返りは僕にできることなら何でもいいって言っておいて」
キラがレックスに渡したのは、紫色をした手のひらサイズの球。
「これは……さっきの残留魔力の?」
残留魔力とは、魔法を使って霧散し、数秒間その場にとどまっている魔力のこと。残留思念とよく似ている。
壊した時点で何かおかしいと感じたキラは、こっそりと手のひらに集めていたのだ。
「うん。その魔力を解析すれば、何か分かるかもしれない」
「りょーかいっす。んじゃ、今から届けてくるんで。……エマに何言われても知らないっすからね?」
妙に現実味のある言葉にキラは苦笑で返す。
そうしてレックスは控室から出ていった。
「グノーシスの可能性が高い、かな……どっちにしろ、ずいぶん先のことだろうけど」
そうつぶやいて、愛しのリリィの元へ向かっていった。
ども。
少し短かったでしょうかね?
んじゃ、かくこともないんで次回予告を。
第三回戦アゲハVSレナ、第四回戦エミリアVSローザ、第五回戦ミーナVSマリア。
この三つの試合と、もしかしたら+αがあるかも。
では、三人娘と女の戦い、楽しみにしてください。
それでは、これからもよろしくお願いします。




