6 魔法師団長クーデリア
その日、俺は理事長室に呼び出されていた。
今は一限目の時間で、俺だけが授業から抜けてきたのだ。
「あの、なんでしょうか?」
「あなたに会いたいという方がいらっしゃるのよ」
理事長が言った。
五十がらみの貴族夫人……らしいが、どう見ても三十前後くらいにしか思えない。
いわゆる美魔女である。
「バーンズ王国第一魔法師団長クーデリア・コートニーだ。よろしく」
理事長の側に立っている軍服姿の女が名乗った。
ウェーブのかかった長い黒髪に眼鏡の美女だ。
彼女のことは知っている。
ゲーム内ではSSRで実装されている強キャラである。
王国の魔術師部隊である『魔法師団』の団長を務める最強レベルの魔術師であり、王国の第二王女でもある。
第二部の『魔王大戦』編ではメインキャラクターの一人として登場するが、第一部の『魔法学園編』では終盤まで登場しなかったはず……どういうことだろう。
「お前の評判は聞いている。レイヴン・ドラクセル」
クーデリアが俺を見据えた。
眼鏡の奥の瞳が異様にぎらついている。
強烈なプレッシャーが宿る視線に、反射的にのけぞりそうになった。
「計測不能になるほどの魔力を備え、魔法学園での学内トーナメントでも一年生にして決勝まで残っているそうだな。まさに有望株だ」
「それはどうも」
一礼する俺。
「実際、こうしてお前の魔力を感じ取ってみると、素晴らしい素質を持っているのが分かる。あるいは、この私以上か――」
クーデリアの視線がさらにギラつく。
「どうだろう? 学園の卒業を待たず、すぐにでも我が魔法師団に入る気はないか? お前ほどの者なら、好待遇を確約できるが?」
「魔法師団に……俺が?」
ゲームシナリオの展開とは違うな。
ゲームの場合、彼女が終盤に出てきて魔法師団にスカウトするのは俺じゃなくマルスだ。
そのころには学園内でのレイヴンとマルスの評価は完全に逆転しており、マルスこそが学園最強と呼ばれているのだ。
で、レイヴンは闇堕ちしていくわけだが……。
――なぜか、この世界では主人公に起こるべき『魔法師団への勧誘イベント』が俺に起きてしまった。
うーん……これはどう答えたらいいんだろう?
魔法師団に入ったら、死亡ルートの回避に近づくのか?
それとも魔法師団に入ることで死亡ルートに乗ってしまうのか?
ゲームシナリオと全く無関係というわけじゃなく、ある程度は沿ったうえで変わっているから、判断が難しい。
死亡ルートを回避するために――。
魔法師団に入るべきか、断るべきか。





