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5 主人公と天使

 放課後――。


「ふう……」


 魔法修練室に入り、一人で訓練をしながらマルスは大きく息をついた。


 今日の授業は、攻撃魔法の訓練だった。


 前半は魔法理論の学習で、後半が実地。


 各生徒が攻撃魔法を撃ち、その威力を計測する。


 ――という内容だったのだが、群を抜いていたのはやはりレイヴンだった。


 他の生徒を圧倒する数値で、マルスは驚きを通り越してショックを受けてしまった。


「攻撃力にここまで差があったのか……」


 もちろんレイヴンの方が自分より魔術師として数段上だろうという認識はあったが、実際に数字を見せられるとショックの度合いが違う。


 実際に計測された数値はレイヴンが『20000』を超えていたのに対し、マルスは『5000』ほど。


 といっても、通常は『2000』を超えれば優秀ということなので、マルスの数字の時点で十分に及第点だ。


 ただ、レイヴンがすごすぎるだけ――。


「その『すごすぎる』人が決勝戦の相手なんだよね……」


 マルスはまたため息をついた。


 正直、彼との対戦が決まったときは、勝とうという決意や闘志に満ちていた。 


 準決勝であの学園の帝王ブライ・ザックを倒したことで、決勝でレイヴンに勝つことも可能ではないかという目論見もあった。


 そういった希望が、今日の授業で一気に崩された感じがある。


 数字というものは、いつでも客観的で、公平だ。


 自分の攻撃力はレイヴンに大きく劣る――その事実を残酷なまでに示している。


「僕……本当に勝てるのかなぁ」

「お悩みですか、勇者」


 訓練室の扉が開き、一人の女子生徒が入ってきた。


 白い髪に赤い瞳の美しい少女――編入生のセレンだ。


 淑やかに一礼し、マルスの元まで歩み寄る。


(あれ? なんか授業のときと雰囲気が違う……?)


 戸惑いつつ、マルスはセレンにたずねた。


「勇者、って?」

「もちろん、あなたのことを言っているのです。マルス・ボードウィン様」


 セレンの背からバサリと音を立てて、何かが広がった。


 白い翼――。


「き、君は……!?」

「『敵』は想定以上の力をつけています。対抗するため、あなたもより強くならなければいけません」

「敵……?」

「いずれ知るでしょう。運命の導きのままに――」


 セレンが微笑む。


「その運命も、今はまだ揺らいでいます。敵となるか、味方となるか……ですが、どちらにせよあなたは力を磨かなければなりません」

「強くなれ、ということですか」

「左様です。あなたこそこの世界の運命を担う存在。マルス・ボードウィン、神の意志を受け、真の勇者となるのです」

「勇者――」


 その言葉をつぶやく。


 勇者とは、人類史上でただ一人、魔王を討った戦士の尊称である。


 その力は空前絶後、数百体の高位魔族すら瞬時に打ち倒したという。


「僕は……ただの落ちこぼれです」

「それは魔法学園に入学したころの話でしょう?」


 彼女が言った。


「今のあなたは、既に学園上位の力を身に付けているはずですよ?」

「それでも――彼には敵わない」


 マルスが唇をかみしめた。


「彼と僕では、明確な力の差がある……」


 その言葉を口にすることで、あらためて悔しさがこみ上げる。


 そう、悔しいのだ。


 もちろんレイヴンのことは友人だし、親しみを感じている。


 敬意も持っている。


 だが、同時に彼に勝てないことが悔しい。


 彼に並び立つことができない自分が悔しい。


「もし僕が本当に『勇者』と呼ばれるような存在なら……レイヴンくんより強くなれますか?」


 マルスが彼女を見つめる。


「僕は彼を超える力を手に入れたい」

「彼を敵とみなしているのですね」

「敵ではありません。彼は――友人です」


 マルスが告げる。


「だからこそ、僕は彼に見下されたくない。対等の存在として僕を見てほしい。けれど今の僕では不足です。だから――」


 勝ちたい。

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忌み子として処刑された僕は、敵国で最強の黒騎士皇子に転生した。超絶の剣技とチート魔眼で無敵の存在になり、非道な祖国に復讐する。


― 新着の感想 ―
[一言] マルスを誑かしたらレイブン超キレそう。セレス君、ふぁつ言にふぁ気をつけたまえ()
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