3 女性陣がバチバチ
「ふう、遅刻するかと思っちゃった」
レスティアは額の汗をぬぐい、手近の席に座る。
「君の教室はここじゃないだろ……っていうか、そこ俺の席」
「あ、ひっどーい! 会いに来たら駄目なの!?」
思わずツッコんだ俺に、レスティアがショックを受けたような顔をした。
ウルウルした目で俺を見つめる。
まずい、泣かせた――?
「い、いや、いいけど」
予想外のレスティアの態度に、俺はちょっと動揺してしまった。
と、
「あ、今焦った? ねえ焦った?」
レスティアはすぐにケロッとした顔になった。
今のショックを受けたような顔は演技か……。
「あいかわらずレイヴンくんはチョロいなぁ……変わってなくて安心♪」
笑いながら、レスティアが俺に顔を近づける。
「ち、ちょっと、レイヴン様に何するんですか!?」
キサラが悲鳴を上げた。
「レイヴンが困ってるでしょ。離れなさいよ」
と、マチルダが怒ったように言った。
「あらあら、ヤキモチ焼かせちゃった? あ、ひょっとして、あたしがレイヴンくんにキスでもすると思った? そこまで大胆じゃないよ~」
レスティアがクスクス笑う。
いや、そこまでやりかねないほど大胆だと思うぞ、君は……。
俺は内心でつぶやいた。
「ちょっと話があるから、レイヴンくんを借りるね?」
レスティアはマチルダとキサラを見回した。
「許可おーけー?」
「う……そ、それは……私はレイヴン様のメイドにすぎませんし、口出しする権利は……」
「じゃあ、そっちの君。おーけー?」
「レイヴンはあたしの婚約者よ。手を出したら許さないからね」
マチルダがすごい顔でレスティアをにらんだ。
「大丈夫よ。健全な話をするだけだから」
レスティアはそんなマチルダの視線を真っ向から受け止め、微笑む。
「今日は、ね」
「ち、ちょっと、どういう意味よ!」
「ふふ、レイヴンくんって結構あたしのタイプなのよね~」
レスティアが冗談めかして言った。
「……目が笑ってない」
「ま、ライバルってことでよろしくね」
レスティアは笑いながら俺の手を引いた。
「行こ、レイヴンくん」
「あ、ああ……」
うなずき、俺はキサラとマチルダに手を振った。
「じゃあ、また……」
俺とレスティアは階段の踊り場までやって来た。
ここは校舎の端にあり、普段から生徒がほとんど通らない。
「なんだよ、話って」
「ねえ、知ってる?」
レスティアが微笑みながら切り出した。
「夏休み明けに編入してくる生徒がいるんだって」
「転校生ってことか?」
「そ。何やらいわくつきって感じ。お互い目を付けられないようにしないとね」
「えっ」
「ただ物じゃない気配が伝わってくるんだよねー。こう、ビンビンと」
レスティアが悪戯っぽく笑った。
「何者なんだ、そいつ」
「さあね」
レスティアがなおも笑みを浮かべ、
「警戒しておきたいから、君もぜひ我が魔王軍に。一緒に転校生を撃退しようよ」
「サラッと勧誘するな」
「けち」
「ケチじゃない」
俺は苦笑して、
「それに転校生を敵って決めつけてる感じだな。同じ魔法学園の生徒だろ?」
「んー……少なくともあたしにとっては『敵』になりそう」
レスティアが小さく眉を寄せた。
「どういう意味だ?」
「ふふ、女のカンよ」
言って、レスティアは背を向けた。
「ま、お互い気を付けましょ。今のところ、あたしが言いたいのはそれだけ」
「レスティア……?」
「あたしも――そして、君だって『世界の敵』なんだよ、レイヴンくん」
最後の言葉はいつもの冗談めかしたものではなく。
真剣な響きを帯びたものだった。
きっと――俺に対する警告だ。
「誰が来るっていうんだ……」
俺は顔をしかめる。
嫌な予感が止まなかった。





