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3 未来を変えるための第一歩


 かつて――人間界と魔王軍の間に激しい戦いがあった。


 数十年に及ぶ戦いは魔王大戦と呼ばれている。


 その戦いの果てに当時の勇者が魔王や側近を討ち、人間と魔族の間に停戦協定が結ばれた。


 以来、100年以上の間、人間と魔族の間には戦争が起きていない。


 とはいえ、下級魔族が人間を襲う事例はいくらでもあるし、魔族全体が隙あらば人間界を手に入れようとしているのは確かだ。


 というか、『エルシド』のゲームシナリオでも中盤以降は新生魔王軍と主人公たちとの戦いである。


「……どうかしたの、レイヴン?」


 マチルダが眉をひそめた。


「難しい顔しちゃって」

「いや、魔族にはいちおう気を配っておくよ。停戦協定があるとはいえ、かつては人間と魔族は敵対してたわけだからな。マチルダも気を付けて」

「ん。あたしはもう家に戻るし、平気よ」


 マチルダが言った。


「じゃあ、そろそろ行かなきゃね。キサラもまた会おうね」

「はい、ぜひ」


 キサラが嬉しそうに微笑む。


 俺は二人を見ながら、頭の中で一つの考えを練っていた。


 俺が――バームゲイルを倒してしまえば。


 いや、なんとしても倒すんだ。




 マチルダが帰った後、俺は自室で考え込んでいた。


 現状、人間界と魔界には停戦協定が結ばれている。


 だから、表立って魔族を殺したら、大問題になる。


 いわゆる外交問題だ。


 だから、単純にバームゲイルを討てばいいわけじゃない。


 殺害の証拠事態を残さない――。


 ちなみに、バームゲイルはゲーム内では多くの人間を虐殺した極悪な奴だ。


 だから遠慮なく倒せる。


「……という考えでいいのかな?」


 でも、今の時点でバームゲイルは何もしてないわけだよな?


 うーん……どうしたものか。


 俺は考えが揺らぐのを感じていた。


「レイヴン様、よろしいでしょうか?」

「いいぞ」


 部屋がノックされ、キサラが入ってくる。


「どうした?」

「いえ、先ほどのレイヴン様、なんだか思い詰めていたような……」


 キサラが俺を見つめる。


「心配になったので、つい」

「様子を見に来てくれたのか」


 俺は苦笑した。


「大丈夫だよ、キサラ」

「……本当ですか?」


 キサラはなおも俺を見つめている。


 なんだか内心を見透かされている気がして、俺は視線をそらしてしまった。


「ほら、今の……嘘をつくときのレイヴン様の癖です」

「えっ」

「こちらからジッと見つめると視線を逸らすんです、レイヴン様って」

「そ、そうなのか」

「伊達に何年もあなたのお世話係をしてませんよ」


 キサラが微笑んだ。


 うーん、かなわないなぁ。


 俺は内心で苦笑しつつ、


「ちょっと、その……考えたいことがあっただけだ。心配するな」


 彼女に微笑を返した。


「私でお役に立てることはありますか、レイヴン様?」


 キサラがたずねる。


「もし、あなたが何かの理由で心を痛めているとしたら……私は、それを取り除くための力になりたいです」

「キサラ――」

「私はただのメイドですが、ずっとあなたの側にお仕えして、いつもあなたを案じております」


 優しい笑顔だった。


 ああ、前世で俺にこんな笑顔を向けてくれる人はいなかったな。


 だから――彼女の心遣いに胸が熱くなった。


「いや、こればっかりは俺一人で解決しなきゃいけない」

「……そう、ですか」

「ただ、君がそうやって声をかけてくれると俺の気持ちも軽くなるよ。ありがとう、キサラ」


 俺は彼女の肩に手を置いた。


「レイヴン様……」


 キサラはうっとりしたように目を細める。


「覚えておいてくださいね。私は――キサラは、どんなことがあってもレイヴン様の味方です。あなたの側におります」

「ありがとう、キサラ」




 ――そして俺は決断した。


 まずはバームゲイルに会いに行く。


 そのうえで今後の対応を決めるんだ。


 俺の、破滅の未来を変えるために。

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忌み子として処刑された僕は、敵国で最強の黒騎士皇子に転生した。超絶の剣技とチート魔眼で無敵の存在になり、非道な祖国に復讐する。


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