13 これが主人公の力
「な、なんだと……お前、これほどの魔力を……いつの間に!?」
ブライが動揺した。
いや、正直言って俺も驚いている。
マルスの魔力の桁がいきなり跳ね上がったのだ。
もちろん正確な数値は測定しないと分からないけど、おそらく――文字通り『桁違い』の魔力。
突然の成長……いや覚醒か。
まさに主人公の特権というやつだろう。
「すごい……!」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
試合開始前、ブライとマルスの魔力量には明確な差があった。
いくらマルスが成長を続けているとはいえ、さすがに帝王の壁は厚い――そう思えた。
けれど、マルスは試合中にさえ成長を続けた。
そして、ついに――たどり着いたんだ。
「すごいよ、お前は」
驚きと、敬意。
俺の心に湧き上がるのは、その二つの感情だった。
「さあ、そろそろ決着をつけようか!」
高らかに叫んだマルスが膨大な魔力をまとい、ブライに突進していく。
これがこの試合で最後の激突になりそうだった。
「勝者――マルス・ボードウィン!」
教官が宣告する。
まさに劇的な大逆転勝利だった。
あと一撃受ければライフが0になるという崖っぷちから、マルスは怒涛の猛反撃を見せた。
今までなら反撃しても、魔力量で勝るブライに押し返されていただろう。
けれど、土壇場でまさに『主人公』のように覚醒したマルスは、ブライに負けないだけの魔力量を備えていた。
それは一時的な魔力の上昇現象であって、ずっと続くものではないかもしれない。
ただ、一時的ではあっても、マルスはブライと互角に渡り合った。
いや、互角以上だった。
効果範囲の広いブライの爆裂系魔法をことごとく回避し、カウンターの魔弾を撃ちこむ。
その繰り返しでジワジワとブライのライフを削っていき、そして最後に渾身の逆転の一撃を叩きこんだ。
「この俺が……学内トーナメントで負けた……」
敗れたブライは呆然とうずくまっている。
「はあ、はあ、はあ……」
勝ったマルスは息も絶え絶えだった。
「すごいな――」
俺は身震いするような感動を覚える。
前世でスポーツ中継を見て興奮したり感動することはあったけど、ここまで気持ちを揺さぶられたのは初めてだった。
やっぱり身近な人間の試合となれば、全然違う。
しかも試合の中でマルスがどんどん成長していく様を見ていくと、不思議な爽快感と感動を同時に覚えた。
俺は観客席から通路に降りる。
ちょうど引き上げてくるマルスと会った。
「勝ったよ、レイヴンくん」
マルスが微笑んだ。
「やっと戦えるな、お前と」
俺はにっこりと笑った。
嬉しさと期待と興奮と――。
いよいよ決勝戦は一か月後だ。





