11 折れない主人公
「――【螺旋魔弾】」
マルスが得意の術を放った。
螺旋状に回転する【魔弾】は貫通力において、通常の【魔弾】をはるかにしのぐ。
ブライの【爆裂魔弾】に激突したマルスの【螺旋魔弾】はそのまま貫き、ブライに向かっていく。
「ちいっ、この俺の【魔弾】さえ貫けるのか!」
が、さすがに奴も帝王と呼ばれるだけのことはある。
「【リアクト】!」
反射魔法でマルスの【螺旋魔弾】を撃ち返した。
「くっ……!?」
マルスは驚いた顔をして大きく横っ飛びした。
一瞬前まで彼がいた地点を【螺旋魔弾】が貫き、爆砕した。
避けるのが少しでも遅れていたら、それで勝負は決まっていただろう。
「僕の魔法を反射した――」
「単純に防いでも貫かれる。なら、そのまま跳ね返せばいいのさ」
ブライが笑った。
「俺様は学園の帝王だぞ? 魔法戦闘の引き出しはお前の何倍も――いや何十倍も、何百倍もあるってことを忘れるな」
「……肝に銘じます」
マルスが表情を引き締めた。
「だけど、勝つのは僕だ」
おお強気だぞ、マルス!
俺は思わず熱くなった。
まさに主人公といった感じで、今のマルスは凛としている。
「ぬかせ! 俺様はこの学園の帝王だ! 頂点だ! 誰も俺様には――勝てねぇんだよ!」
ブライが魔力弾を放った。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
さらに十発、二十発……と続けざまに放つ。
圧倒的な魔力量に任せた力押し。
「【螺旋の盾】!」
マルスは【シールド】の応用魔法でこれを防ぐ。
けれど、
「防ぎきれると思うなよ! うらららららららららああああっ!」
ブライは怒涛の勢いで魔力弾を連発する。
その数は百を超えていた。
「やるな――」
俺はうなった。
やはり、ブライも帝王と呼ばれるだけあって実力者だ。
俺はそう見直した。
「らあああっ!」
そして、ブライがさらに連発した魔力弾が、ついにマルスの【螺旋の盾】を撃ち破った。
「うあああああっ……」
大きく吹き飛ばれたマルスは、試合場の端の辺りに落下し、全身を叩きつけられた。
ライフポイントが一気に減り、残り200ほどになる。
ブライの攻撃の威力を考えると、次にもう一度食らえば、おそらくマルスの負けだろう。
いや、そもそも今の攻撃で既に立ち上がれないかもしれない。
「まだ……だ……っ!」
だけど、そんな俺の予想を覆し、マルスはすぐに立ち上がる。
よろよろと、弱々しく。
それでも眼だけは闘志をぎらつかせて。
「なぜだ!? もう立ち上がる力なんて残されてねぇはずだろ!?」
「約束したからね……!」
マルスが不敵に笑う。
ボロボロの状態で、それでも笑う。
「友だちと、決勝で戦う――って」
「マルス……!」
俺は彼の戦いぶりを見守っていた。
見守ることしかできない。
あいつが俺にとって、いずれ『敵』になる可能性があるとか、あいつが成長しない方が俺の生存確率が上がるとか、そんなことすら忘れるくらいに、試合に魅入られていた。
そして、自然と願っていた。
勝ってほしい――と。
おそらく次の攻防で試合の決着がつく。
「勝てよ、マルス……!」
俺は熱をこめてつぶやいた。





