8 魔王の精神魔法
レスティアの周囲にほとばしる無数の黒い稲妻――それらが彼女の胸の前に収束していく。
「さあ、行くよ。【マインドグラスパー】!」
稲妻は黒い球体に変化し、俺に向かってきた。
「【シールド】!」
俺は防御結界を張る。
とはいえ、これは物理や魔法の『攻撃』には効果があるけど、精神支配系の魔法は防ぐことができない。
黒球は【シールド】をあっさり通り抜け、俺を直撃した。
ばちばちばちぃっ!
同時にほとばしる稲妻。
「くっ、うう……」
「ふふふ、あたしのしもべにしてあげるね」
レスティアがニヤリと笑った。
ドス黒い何かが俺の内部に侵入してくる感覚があった。
俺が、俺じゃない何かに書き換わっていくような強烈な不快感。
「こんなもの――」
俺は意志を強く持った。
「こんなもので……っ!」
俺を支配することなんてできない……!
そう、意志を強く持った。
ばしゅんっ……!
すると、俺の体に侵入しようとしていた稲妻がすべて吹き飛び、空中で消し飛んだ。
「精神力で、跳ね返された……!?」
レスティアが驚いたような顔をする。
「あたしの本気の精神魔法が――」
「君、精神的には油断が大きくて、甘い性質だと思っていたけど――この二か月ほどで何があったのよ……!?」
「ただ向かい合っただけだ。自分の力に。心に。そして才能に」
俺は淡々と告げた。
「……へえ」
レスティアの顔から笑みが消える。
来る――!
さっきの一撃は『本気』と言いつつも、心のどこかに余裕があったんだろう。
雰囲気や態度で、なんとなくそれが分かる。
だから、次こそは『本当の本気』が来る……っ!
「こいつを凌ぐことができたら、俺はもう君に操られることはない」
「ふん、試してみなさい」
レスティアが口角を吊り上げて笑う。
不敵な笑みだった。
そう、魔王そのものの攻撃的な笑み――。
「はあっ!」
そして、レスティアが一撃を放つ。
黒い稲妻が収束し、黒い球体になり、さらに――剣のような形に変化する。
「【真・マインドグラスパー】!」
レスティアの呪言と共に黒い剣が一直線に向かってくる。
「【シールド】――」
俺は防御結界を張り直した。
「【精神特効】!」
結界全体が青白い輝きを放つ。
こいつは、精神世界で本物のレイヴンと戦った後、修行を続けて身に付けた形態だ。
物理や魔法攻撃を防ぐための【シールド】にありったけの『意志の力』を注ぎこみ、精神魔法をも防げる魔法へと進化させる――。
黒い剣が、俺の【精神特効シールド】に激突した。
――そして、すさまじい閃光がはじけ散る。
しばらくの後、閃光が晴れ、爆音が止み、静寂が訪れる。
「ふうっ……」
その静寂の中で、俺は大きく息をついた。
彼女が放った黒い剣は――。
粉々に、砕け散っていた。
「精神魔法の強さ比べは……俺の勝ちだ」





