8 レスティアの告白
「やったな、マルス!」
マルスが戻ってくると、俺は彼の健闘をたたえた。
「君のおかげだよ、レイヴンくん!」
おとなしい性格のマルスも珍しく興奮した様子だ。
俺たちはガッチリ握手を交わした。
いや、本当に嬉しい。
自分が勝った以上に嬉しい。
今後の俺の運命のことを考えると、単純に喜んでいられないのかもしれないけど――それでも、今だけはマルスの勝利を祝いたいし、喜びたい。
そんな気持ちだった。
学内トーナメントが終わると、その日の授業は終了だ。
「見てたわよ。麗しい友情だったわね」
俺が帰り支度をしていると、一人の女子生徒が話しかけてきた。
レスティアだ。
「あたし、ああいうのに弱いのよね。ブロマンスっていうの? ふふ、エモいよねぇ」
やけに嬉しそうだ。
けど、目が笑っていない。
何か俺に対して含みを持つような――妖しい視線だった。
「俺に何か用か?」
「ん? 用がないと話しかけちゃいけない?」
ふふん、と小悪魔じみた笑みに変わるレスティア。
「ただ、君とお話したかっただけよ」
「単に世間話をしたい、って風には見えないな」
「そうね。もうちょっと込み入った話があるの」
レスティアが俺に顔を近づける。
「実は君に恋の告白をしたくて」
「ふーん」
「あ、信じてない!」
「絶対本気じゃないのが丸わかりだからな……」
「バレてたかぁ……でも本気が一ミリも絡んでないわけじゃないからね。君って結構あたしの好み……ふふふ」
レスティアがますます小悪魔じみた笑顔になる。
一体どこまで本気なんだか。
――俺とレスティアは中庭に移動した。
ひと気がない場所だ。
というか、ここは以前に俺やマルスがローゼとバルカン姉弟に挑まれた場所だな。
高い樹木で囲まれていて、外からは見えにくい場所だ。
「で、話ってなんだよ?」
「実はあたし、前から君のこと」
「じー」
「あ、ごめん。このネタ引っ張り過ぎよね」
さすがにジト目になった俺に、レスティアが苦笑交じりに謝った。
「じゃあ、ちょっと真面目に話すけど――」
と、切れ長の瞳でじっと俺を見つめる。
澄んだ美しい瞳。
その奥に宿る妖しい輝きに、俺は一瞬魅入られた。
「君の魔力って明らかに普通じゃないよね? 人間の限界を超えている――いえ、超えすぎている」
「まあ、魔力量にはそれなりに自信がある」
俺は言った。
「人間の限界を超えすぎてる、なんて言われると、俺にはよく分からないけどな」
「だって高位魔族より上じゃない。しかもまだ成長期でしょ? 下手すると魔王を超えるんじゃない?」
「さすがにそれはないだろ」
俺は苦笑した。
実際、ゲーム内でのレイヴンの魔力は確かに桁違いではあるが、魔王の魔力というのは、それと比べても次元がまったく違う。
「それでも魔王以外の高位魔族はすでに超えてるんじゃないかな? あたしとしては絶対に手に入れたい人材なのよね」
「人材? 手に入れたい?」
「我が魔王軍の一員として」
またその冗談か。
「ん? 今度は冗談じゃないよ?」
言うなり、レスティアの全身が赤いオーラに包まれる。
「っ……!?」
俺は絶句した。
確かに――今回は冗談じゃない。
こいつ、まさか本当に――。
「魔王……!?」





