31 守るために
「人間ごときが――」
「魔獣を倒した程度でいい気になるなよ……」
現れたのは、いずれも黒い翼を生やした人型のシルエット。
十数体の魔族だ。
強大な魔力を放っているところを見ると、おそらく高位の魔族だろう。
以前に戦ったバームゲイルと同レベルくらいだろうか。
「お前たちの目的はなんだ」
俺は奴らを見据えた。
「知れたこと。人間界侵攻のための拠点づくりよ」
「魔獣を使って邪魔な人間どもをまず掃除しようとしていたところに、貴様らが現れたというわけだ」
「余計な手間を取らせるな、人間どもよ」
魔族たちは不快そうにうなる。
拠点……だと?
俺は眉根を寄せた。
つまり、奴らの本格的な侵攻は――そう遠くない未来に始まるということだろう。
この場所に拠点を作られると、王国主要都市への進軍が容易になるはず。
「阻止させてもらうぞ、魔族」
俺は魔力を高めた。
と、視界の端にエイルの姿が映る。
――やっぱり、駄目だ。
俺一人なら魔族が十数体いても問題なく戦える。
けれど、重傷を負ったエイルをかばいながら……となると話は変わってくる。
不注意で一発でも流れ弾がいけば、エイルが今度こそ致命傷を負うことだってあり得るんだ。
「どうする――」
一瞬で奴らを全滅させればいい、という考え方もある。
万が一を考慮して、まずエイルの安全を確保する、という考え方もある。
どっちが正解なのか――。
「マルス、ジャネット! ここは退くぞ!」
決まっている。
まず、仲間を守り、態勢を立て直す。
魔族退治はその後でも十分間に合うはずだ。
「退く、だと?」
「逃がすと思うか?」
魔族たちが左右に広がり、包囲陣形に移行する。
「させるか――」
俺は高めた魔力を一気に解放した。
「魔力ブースト!」
魔力を長大な剣の形に変換する。
刃渡りは十メートル近く。
「はあああああああああっ!」
それを水平に振り回し、数体の魔族を切り裂いた。
「マルス、ジャネット! エイルを頼む!」
「わ、分かった!」
「飛ぶわよ!」
マルスとジャネットが左右からエイルを抱え、飛行魔法で離脱する。
その間、俺は魔力剣を振り回し、魔族たちを牽制し続けた。
「こ、こいつ――」
「な、なんだ、この術式は……!?」
「まるで魔族のような力――」
戸惑いの様子を見せる高位魔族たち。
「じゃあな」
マルスたちが十分に距離を取ったことを見届け、俺も飛行魔法で一気にその場を離脱した。
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※補足
『どこまで続刊できるのか』については売り上げによるところもあり、最悪2巻打ち切りもありえます。なので、この作品に関しては2巻が最終巻になっても大丈夫なように、綺麗に区切りをつけました。
『打ち切られた場合、作品が中途半端なところで終わってしまう』という形にはならないので、そこは安心してお求めいただければと思います。
(3巻以降も続くようであれば、その展開も考えてあります)