28 任務開始
「だいたいマルスくんは、もっと自信持ちなよ。この私に勝ったんだからさ」
ジャネットがマルスの背中をバンと叩いた。
「一応、私って名門の魔法騎士一族の出身だよ? 一族の中には魔法師団長を務めた人間だっているし、私だって将来有望の幹部候補なんだからさ。k自分で言うのもなんだけど」
「ジャネットさん……」
マルスが彼女を見つめる。
「むしろ、私の方が自信なくしちゃう場面よ。あんたって平民出身でしょ? 家族に魔術師がいるわけでもないんだっけ?」
「はい、両親も祖父母も、他の親族にも魔術師はいないそうです」
と、マルス。
「じゃあ、昔から受け継いできた魔法の素養があるってわけでもないじゃない。そんなあんたに、私はあっさり負けたんだからね……もうちょっと自信持ってくれないと、私としても立つ瀬がないわけよ」
ジャネットが悪戯っぽく笑う。
その笑顔には、どこか温かみがあった。
まあ、彼女なりにマルスを勇気づけようとしてくれているんだろう。
「……お気遣いありがとうございます」
マルスは礼を言った。
「僕、がんばります」
こうやって周りの支えも、マルスの力に変わっていく。
それはこいつの人徳のなせる業なんだろう。
なんとなく――支えたり、協力したくなるんだよな、マルスのことは。
もちろん、俺だってそうだ。
俺とマルス、ジャネット、エイルの四人は王国東部辺境の森にやって来た。
「調査開始だ。俺がリーダーを、ジャネットがサブリーダーを務める。いいな」
と、全員に確認するように告げるエイル。
「了解」
俺とマルスはうなずいた。
「ただし戦闘になったとき、状況に応じて君が前に出ろ、レイヴン」
エイルが言った。
「君の戦闘力は、この中で群を抜いている。実戦経験の少なさに一抹の不安はあるものの……やはり、能力の高さは折り紙付きだからな」
「分かった。そのときは任せてくれ」
俺はうなずいた。
さあ、任務開始だ。
俺たちは森の中を進んでいく。
「ジャネット、魔力反応はどうだ?」
「んー……こっちの魔導機器には反応なし。私の【探知】でも同じ」
エイルの問いにジャネットが答えた。
彼女が得意としている魔法は分身系統だが、他にも【探知】系統も得意としている。
いちおう、魔力の反応を探知する魔導機器が俺たち四人に配布されてるんだけど、それとは別にジャネットは独自に【探知】を行っていた。
しょせん、機械は機械だ。
それだけでは上手く存在を探れないイレギュラーな存在も、数多く存在する。
そういう時に頼りになるのは、結局は生身の人間の【探知】魔法なのだ。
「よし、じゃあもう少し進むぞ――」
エイルが言ったそのとき、
ぎおおおおおおおおおおおおおっ……!
突然、背後から雄たけびが響いた。
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(3巻以降も続くようであれば、その展開も考えてあります)