21 マルスの戦い1
マルスが俺の手を握り返す。
その手は力強かった。
「ありがとう、レイヴンくん」
マルスが微笑んだ。
「僕、がんばるよ」
吹っ切れたような、決意に満ちた笑顔だった。
「見てて。いつか絶対、君に追いついてみせるから」
「ああ、お互いがんばろう」
俺は嬉しくなった。
いつものマルスに戻ったことが。
いや、いつものマルスよりも、もっと強く、前向きになったように見える。
そして、友だちと切磋琢磨できることが。
この関係が、俺にとっては宝物なんだ。
と、
「へえ、目が変わったわね」
一人の女魔術師が歩み寄ってきた。
赤毛のポニーテールが勝ち気そうな美貌によく似合う。
初日に俺と模擬戦をやった序列七位のジャネット・ナージャだ。
「面白いじゃない。おねーさんがちょっと揉んであげようかしら?」
顔は笑っているものの、彼女の目は闘志にあふれていた。
マルスに向けた視線は、獲物を見つけた獣を思わせた。
「はい。よろしくお願いします」
マルスはその視線を真っ向から受け止め、まったくひるまない。
少し前までのこいつなら、きっとおどおどしていただろう。
だけど、今のマルスは違う。
堂々と、序列七位の挑戦を受けて立っている。
本当に――変わったんだ。
いや、違うな。
これがマルスの本質なんだろう。
どんなに強い相手だろうと、ひるまず立ち向かっていく。
心の奥底に秘めた、燃えるような闘志。
それこそが、こいつが『主人公』たる所以なんだ――。
マルスとジャネットの模擬戦が始まった。
場所は魔法師団の訓練場の一つだ。
「いくわよ、ルーキーくん」
ジャネットが叫ぶと同時に、その姿が七つに分かれた。
俺との戦いでも使った、得意の分身魔法か。
さらに、
「【ミラージュボルト】!」
七人のジャネットから同時に雷撃が放たれる。
どれが本物でどれが幻影かを見極めるのは困難だ。
だが、マルスは冷静だった。
「【エルシオンブレード】!」
マルスの右手に黄金の剣が出現する。
「なんだ、あれは――?」
マルスの基本戦術は【螺旋魔弾】だけど、この術式は初めて目にするものだった。
しかも、その名前――。
「エルシオンブレード……か」
この世界の元となったゲームである【エルシオンブレードファンタジー】を想起させる名前。
主人公であるマルスにふさわしい術かもしれない。
黄金の剣から閃光がほとばしり、七つの雷撃がまとめて霧散した。
「なっ……!?」
ジャネットが驚愕の声を上げる。
マルスは止まらない。
エルシオンブレードを構えたまま、一気にジャネット本体へと肉薄する。
これは――マルスの新しい戦闘スタイル!?
魔弾による遠距離戦ではなく、近接戦闘を仕掛けるとは――。
「くっ……」
ジャネットは慌てて防御魔法を展開しようとするが、間に合わない。
マルスの剣が、彼女の喉元でぴたりと止まった。
「……そこまで!」
審判役を務めていた団員が、試合終了を告げる。
マルスの、見事な勝利だった。
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