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17 さながら、物語の主人公のように

 悲しみが、マルスの心を支配していた。


 目の前で起きた出来事――セレンの喪失。


 あまりにも突然で、あまりにも理不尽な現実。


 受け入れられるはずもなかった。


「セレン、君は――僕のために」


 涙があふれ、視界がにじむ。


「ふん、何を泣いている? それこそがお前の弱さなのだぞ?」


 ディフォールの嘲笑うような声が遠くに聞こえる。


「僕は……」


 弱さ?


 そう、マルスはずっと自分の弱さを唾棄していた。


 弱い自分が嫌で嫌でたまらなかった。


 強いレイヴンに憧れ、彼のようになりたかったから。


 けれど――セレンが最後に残してくれた力は、こう言っているように思えた。


 弱くてもいい、と。


 弱い自分を受け入れ、そんな自分に寄り添って、強くなる。


 それがレイヴン・ドラクセルではなく、マルス・ボードウィンが歩む道なのだと。


「……!」


 そのとき、マルスの胸の奥が熱くなった。


 セレンが最後に遺してくれた力。


【エルシオンギア】。


 天使の聖なる術式が、彼の意志に応えるように脈打つ。


 こおおおおっ……。


 マルスの全身からまばゆい光があふれ出した。


 悲しみの中で、彼は無意識にその力を発動させていたのだ。


 光が収束し、その右手には一本の剣が現れていた。


 黄金に輝く刀身。


 神々しいまでのオーラを放つその剣の名は――。


「【エルシオンブレード】」


 マルスは厳かに告げた。


 神の名を冠するその剣を握った瞬間、全身に爆発的な力がみなぎる。


 今まで感じたことのない、圧倒的な力の奔流。


「これが――」


 マルスはつぶやいた。


 剣を見つめる彼の瞳には、涙の代わりに強い光が宿っていた。


「これが――君の遺してくれた力なんだね」



 セレンはもう、いない。


 彼女の笑顔も、声も、温もりも、もう感じることはできない。


 けれど、彼女が託してくれた力は……たしかに、マルスの中に生きている。


 この剣と共に。


 圧倒的な力の感覚が、マルスの中の劣等感を吹き飛ばしていく。


 今まで感じていた無力感、レイヴンに対する嫉妬、そんなものはもうない。


 あるのは、ただ――使命感。


「僕も、上を向くよ」


 マルスは顔を上げた。


 その視線は、目の前の敵――ディフォールを真っ直ぐに捉えている。


「この力で魔族を倒し、みんなを守る――僕はそのために魔術師を志したんだから」


 覚悟を決めた。


 運命を受け入れる。


 彼女の想いを背負って、戦う。


 さながら、物語の主人公のように――。

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忌み子として処刑された僕は、敵国で最強の黒騎士皇子に転生した。超絶の剣技とチート魔眼で無敵の存在になり、非道な祖国に復讐する。


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