13 主人公としての道2
「彼を誘惑するのはそこまでにしてもらいましょうか」
セレンが遮った。
「おいおい。私がやっているのは、あくまでも話し合いだよ?」
「彼の心が激しく揺れているのを感じます。私はそれを見過ごせません」
言って、セレンは右手を掲げた。
しゅううう……んっ。
光が収束すると、剣の形へと変わる。
光の剣となったそれを構え、セレンは言い放つ。
「私が彼を守ります。彼の、心を」
「セレン……」
マルスはハッと彼女を見つめた。
僕は――何を考えていたんだろう?
魔族の誘惑に乗ろうとしていたなんて。
冷静に考えれば、あり得ないことだ。
けれど、そのことに気づけないほどに――魔族の誘いに大きな魅力を感じてしまうほどに、マルスの気持ちは弱っていた。
自分とレイヴンの差をあらためて見せつけられて――もう何度目だろう――自分の矜持を保てなくなっていた。
何よりも、こんな弱い自分では彼の友としてふさわしくない、と考え始めていた。
「僕は……力が欲しいんだ」
マルスはポツリとつぶやく。
「そうでなければ、レイヴンくんの側にいる資格はない。こんな弱い僕は、彼は友だちだと認めてくれない――」
「力の大小と友情に何の関係があるのですか?」
セレンが諭した。
「それは……」
理屈ではそうかもしれない。
別に、友人同士の力量が対等でなければならない、という理屈はない。
「舐められないために。そして相手に認めてもらうために――力を求めるのは、おかしな話ではないだろう」
と、ディフォール。
いつの間にか、その手に黒い剣が握られている。
セレンに対抗してのものだろう。
「だからこそ私は彼に力を与えるという話をしている。
「私とは考え方が違うようですね」
セレンは剣を突きつけ、ディフォールをけん制しながら、
「それでも、あなたが力を求めるならば――」
と、マルスを見つめる。
「天軍の規律には反しますが、私があなたに教えます」
言って、彼女はマルスの肩に両手を置いた。
「神の力を得るための術式を」
【書籍版のお知らせ】
書籍版2巻が6/30発売予定です! こちらは完全書き下ろしになります。
広告下の画像クリックから通販の一覧ページに飛べますので、ぜひ!