10 二度目の選択
マルスは一人、帰路についていた。
レイヴンが一緒に帰ろうと誘ってくれたが、断って一人で宿までの道を歩いている。
ちなみに学園は当面の間、休学扱いになり、明日からは本格的に魔法師団の訓練に参加する。
住居に関しては魔法師団の訓練場にほど近い宿が用意された。
レイヴンやブライも同じ宿である。
「はあ……やっていけるのかな、僕……」
暗い気持ちでため息しか出ない。
「なんだ? 随分と落ち込んでいるようだな、我が友よ」
前方から一人の少年が歩いてきた。
金髪碧眼の、絶世の美少年といっていいほどの美貌。
「君は――」
マルスはハッと身構える。
「ディフォール……!」
以前彼に接触してきた高位魔族だ。
「覚えていてくれたとは嬉しいよ」
彼が微笑む。
「以前にも一度誘ったな。私とお前は手を組むべきだ、と。そうすれば、お前は最強になれる」
「…………」
「あのレイヴン・ドラクセルをも超える最強の魔術師に、な」
「どうして魔族が僕と仲良くしたいんだ?」
マルスはディフォールをにらんだ。
「私は人間との争いを望んでいない。だが、魔族の中には人間と戦おうとする者も少なからずいる。だから彼らを封じるために力を求めている」
ディフォールが言った。
「私一人では足りないんだ。それに魔族同士の争いより、魔族と人間が手を組み、強硬派の魔族を抑え込んだ方がいい。そうなれば魔族と人間の間の絆も深まるだろう」
「僕に、その橋渡しをしろ……と?」
「ご名答だ。そして、それができるのは真に強き者だけ。すなわち――お前だ、マルス・ボードウィン」
「僕なんかよりレイヴンくんの方が――」
「素質だけなら、お前はレイヴンを凌ぐ」
ディフォールが手を差し出した。
「さあ、私の陣営に来い。こんな場所で才能を腐らせることはない。私ならお前が真の強さを手に入れる手助けができる」
「僕の、強さ……」
「私と来い、マルス」
ディフォールがさらに身を乗り出す。
マルスはゴクリと喉を鳴らした。
以前に誘われたとき、きっぱりと拒絶した。
けれど、今は――。
レイヴンへの劣等感は相変わらず消えず、今日の出来事でさらにそれは大きくなった。
そんな劣等感を覆すためには、ディフォールの手を取るべきなんだろうか?
マルスは逡巡しながら、ゆっくりと手を伸ばす――。
【書籍版のお知らせ】
書籍版2巻が6/30発売です! こちらは完全書き下ろしになります。
広告下の画像クリックから通販の一覧ページに飛べますので、ぜひ!