9 マルスの苦闘
「マルス――」
心配だった。
「な、なあ、最初は上手くいかないことだってあるかもしれないけど、でもお前なら大丈夫だよ。きっと――」
「『僕なら大丈夫』? そう言いきれる根拠はなんだい?」
マルスが俺をじっとりした目で見ていた。
いつごろからだろうか。
こいつが、俺をこんなふうに見るようになったのは。
最初は違ったはずだ。
最近までは違ったはずだ。
けれど、本当に……いつの間にか。
マルスが俺を見る目に、暗い情念のようなものを感じずにはいられなくなった。
その情念の底にあるものはなんだ、マルス?
「おいおい、ちょっと上手くいかないからって、いじけてんのかよ」
ブライが割って入ってきた。
「俺だってさっきは負けたが、このままじゃ終わらねぇ。帝王の力を見せてやるぜ」
「はは、それでこそブライだよな」
「お前にだって勝つからな、レイヴン」
「そうはいかないけど……お互い頑張ろうな」
俺はブライにニヤリとした。
「ふん、当たり前だ」
「……僕も」
マルスはようやく顔を上げた。
「まだ、終わってない」
※
「どうして、僕は……こんな……」
訓練が終わり、マルスは一人でうなだれていた。
まったくいいところがなかった。
レイヴンは魔法師団の猛者を相手に全勝。
ブライも最初は連敗したものの徐々に力を発揮し、途中からは勝ったり負けたりを繰り返すほどに順応していた。
対するマルスは――全敗だ。
もう少しやれるという自信はあった。
レイヴンには敵わないかもしれないが、少なくともブライには学内トーナメントで勝利しているのだ。
にもかかわらず、この結果は……少なからずマルスを落胆させた。
自分に失望せざるを得なかった。
「僕は……でも、こんなはずはない……」
高位魔族から、そして天使から。
マルスは誘われたのだ。
自分の元へ来ないか、と。
自分は、選ばれた存在なのだ。
そう思いたかった。
そう思って、酔いしれたかった。
レイヴンなんかより、自分こそが本当の最強なのだ――と。
そう思えたら、どんなによかっただろう。
けれど、彼と一緒にいると否が応でも現実を思い知らされる。
自分は凡人で、彼は天才。
現実を突きつけられるのが、苦しい――。
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