1 魔法学園に入学する
春――。
俺は魔法学園に入学することになった。
キサラやマチルダも一緒だ。
そして何よりも――。
「あいつと……ついに出会うんだな」
すでに緊張感マックスである。
さっきから心臓がバクバクいっている。
この世界がゲームの中なのか、ゲームそっくりの世界なのかは未だに分からないけれど、ともかく『エルシド』の主人公である【マルス・ボードウィン】。
俺と同い年で、ごく平凡な魔法の才能しか持たない少年。
俺のような貴族ではなく農村の生まれである。
才能がないため、学園に入っても当初は序列最下位。
けれど、そこから数々のイベントのたびに魔法の実力をグングン上げていき、やがては悪役であるレイヴン――つまり俺だ――を打ち破るほどの最強の魔術師へと成長していく。
まさに『努力の人』だ。
「いよいよ、今日からですね。レイヴン様」
俺の隣を歩いているのは、制服姿のキサラだ。
可憐な彼女を、道行く生徒たちがチラチラと見ている。
「今日からよろしくね、レイヴン、キサラ」
前方から、これまた制服姿のマチルダが歩いてきた。
こちらも絶世の美少女ぶりに周囲の生徒たちの目が釘付けだった。
俺はそんな二人の美少女を左右に侍らせた状態で歩いていく。
ちなみに俺自身も注目を浴びていた。
「あれが噂のレイヴン・ドラクセル……」
「あのドラクセル家の御曹司か……」
「百年に一人の天才……」
「魔法の腕じゃ、すでに宮廷魔術師すら問題にしないほどだっていうが……」
ざわざわ。
ざわざわ。
周囲の生徒たちが俺を見る目は、畏怖一色だった。
うーん……なんとなく悪役感があるような。
まあ、俺はあくまでも悪役だから仕方がないか。
ただ、ここから主人公に討伐される流れにならないよう、できるだけ学園内のイメージに気を遣いたいところだ。
とにかく俺が『悪役として主人公に殺される』という流れだけは絶対に阻止しなきゃいけない。
その主人公――マルスはどこにいるんだろう。
可能なら、早いうちに彼と友人になっておきたい。
敵ではなく友に――。
それが当面の目標だった。
俺たちは一階にある掲示板の前に移動した。
そこにクラス分けの名簿が張り出されるという話だ。
確かゲーム内では俺とマチルダは入試最上位の生徒が集められる『1年A組』に、主人公のマルスは入試最下位の『1年E組』に入るはずだ。
キサラに関しては、ゲームシナリオでは魔法学園に通っていないので、どこのクラスに入るのかは分からない。
と、
「やった、三人とも同じクラスですよ!」
キサラが喜んでいた。
「ふふ、楽しくなりそうね」
マチルダも笑顔だ。
俺もマチルダも、そしてキサラも『1年A組』に入っていた。
どうやらキサラも入試最上位の一人だったらしい。
それはまあ喜ばしいことなんだけど――。
「……? どうかしましたか、レイヴン様」
「あんまり嬉しそうじゃないわね」
キサラとマチルダが不思議そうに俺を見ている。
「――いや、二人と同じクラスで嬉しいよ」
俺は首を横に振りつつ、名簿を見つめていた。
――あいつも一緒か。
内心でつぶやく。
そう、名簿には『マルス・ボードウィン』の名前もあったのだ。
あいつは天才タイプじゃなく、本来の素質なら最下位の『E組』に入るはずだった。
少なくともゲームシナリオではそうだったんだけど――。
「ゲームと現実が……ズレてるのか」
「ふん、君がレイブン・ドラクセル? 入学試験で成績1位だそうね」
「へえ、お前がドラクセルか。強い魔力を感じるぜ――」
教室に入るなり、男女二人組が話しかけてきた。
「私と弟も入試の成績上位よ。成績は私が3位、彼が5位。ふふ、いいライバルになりそうね」
「ふん、お前なんてすぐに追い抜いてやるぜ」
いきなり対抗意識を燃やされている。
この二人のことは知っていた。
大富豪ホークアイ一族の双子姉弟だ。
姉のローゼは金髪碧眼の美少女で、弟のバルカンは銀髪碧眼の美少年だった。
二人とも魔術の実力は高く、第一部の学園編では主人公のライバルポジション、第二部の魔王討伐編では仲間になる。
まあ、不要な波風を立てる必要もないし、適当に仲良くしておこう。
「よろしく。レイヴン・ドラクセルだ。仲良くしよう」
俺はできるだけ爽やかに微笑んだ。
「さすがに成績1位だけあって風格があるわね。それに比べ、あそこにいる『成績最下位』さんは……ふふ、どうしてこのクラスにいるのかしら?」
「だよな。今からでもE組に行けばいいのによ。このクラスに弱者はいらねぇ」
二人は馬鹿にしたように窓際に座っている男子生徒を見た。
黒髪に線の細い印象の少年。
マルスだ。
ついに――このゲームの主人公とご対面か。
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