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お分かりいただけただろうか? 2


 圭祐と乙希は、電車に乗りこんだ。

 目的をもってどこかへ行くというよりは、あの怪異から距離を取るための行為。

「ふぅ、なんとかなったね」

 電車の横向きのソファに座りながら、乙希は大きく息を吐いてから言った。


 なんとなくだが、圭祐も理解していた。

 あの怪異は、動物の死体に反応するのだ。

 だから、乙希の持つビニール袋の中には、スーパーで購入したと思われる、魚や肉が入っていた。

「雛原さん、あいつが何だか分かったんですか?」


 乙希はちらりと圭祐のほうを見て、視線を床に降ろしてから言った。

「うん。友達の霊能力者に相談したら、たぶんだけど分かった」

「あいつはなんなんだ!? なんで俺を…、俺の家族を!! くそぉ!」

「…あいつはオクリヌシ。目黒くんを襲う理由については、後で言うけど──」

「なんでですか!?」

 理不尽だと思った。自分が襲われる理由。

圭祐はそれを一番に知りたいのだ。

「…私を信じて。理由を黙っているのは、目黒くんを助けるのに必要だから。無事に逃げおおせたら、必ず理由を教えるから」

 乙希が小さく肩で息をしながら答える。

 まだ整っていない呼吸が桜色の口から洩れていた。

 全力で走ってきた証拠。

 乙希が本気で、自分を助けようとしている証だ。

 

 圭祐は少し冷静になった。

 乙希は、交換条件があるとはいえ、命の危険を冒してまで自分を助けようとしてくれている。

 ここで自分の我がままを通すのは、愚かなことだ。

「わかりました。信じます」

「ありがと」

「それで、あいつはどうやればいいんですか? 魚や肉で注意は引けるようですけど…」

「正解。基本はこれで時間を稼ぐの。7日間逃げ伸びれば、もう二度と、あいつは現れない」

「な、7日って…」


 そのときだ。

 電車の中が異様な空気に包まれた。

 風呂場で感じた、あの素肌で恐怖を感じているかのような感覚。

 不気味な気配があたりを包み込む。


 チカチカと電車の蛍光灯が点滅した。

 ふっと、灯が消え、周囲が真っ暗になる。

 次に灯がついたとき、電車の中にそいつは立っていた。


「おかえりなさ、いませ~」


「テラーフィールド!? もしかして来た!? 距離は関係ないの!?」

 立ち上がった乙希は、ビニール袋から肉の塊を出して、床に投げつけた。

「うおっ! 何やっての?」

 近くにいた乗客が驚いた声をあげた。

 当然だ。

 怪異が見えていない彼らにとって、乙希は電車のなかでいきなり肉を投げつけた変人でしかない。

「こんなにちいさく~、バラバラ~、ひどぉい~」

 

 怪異が肉に近づいていく。

 そうしてしばらく声をかけたあと、口を縦に伸ばした。

(なんだ?)

 圭祐はそれを見た。

 床に落ちた肉から、黒い靄のようなモノが湧き出てきて、吸い込まれるようにして、怪異の口の中に消えていったのだ。

「おかえりなさ、いませ~」


「くっ!」

 乙希は憎らしげな声を漏らして、次に魚を投げつけた。

「おいおい! だからなんだよ!?」

 ほかの乗客が騒ぎはじめた。

 けれども止めるわけにはいかない。

 逃げ道のない電車の中。

 ビニール袋から死体を取りだして投げるも、次第にじり貧になっていく。

「何をされているんですか?」

 

 誰かが呼んだのだろう、駅員がやってきた。

「ここは電車の中ですよ。片づけてください」

「あなたに霊感はありますか?」

 乙希の科白に駅員は面食らった表情になった。

「この電車の中に悪い霊がいます。生贄を捧げないと、あなたたちもタダじゃすまないわよ!!」

 乙希の剣幕に、駅員も乗客も、戸惑ったように顔を見合わせる。


「わかりましたから。片づけてください」

そんな科白を言う時点で、駅員には何も伝わっていなかった。

「おかえり~」


 魚からも黒い靄を吸い上げた怪異が、再び迫ってくる。

 乙希は再び魚を投げつけた。

「おい、こら!」

 駅員が声を荒げると同時に、電車が駅に到着した。

 乙希と圭祐は、急いで電車を後にする。駅員が何か叫んでいたが、気にする余裕はなかった。


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

何卒、よろしくお願いいたします。

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