デスゲーム 最終日 (残り8名)
「──痛っ!」
梅宮愛(小学生の母)が身をかがめるようにして、骨折の激痛に耐えている。
「あ、大丈夫ですか?」
たまたま隣にいた亜里斗(眼鏡)は、思わず声をかけた。
「ええ…。大丈夫です」
まぁ、そう答えるしかないだろうなぁ、と亜里斗は思った。
何かの記事で「大丈夫ですか?」と訊いては意味がないと書いてあった。そう質問しても、「大丈夫です」としか回答してくれないからだ。
確かにそのとおりだとは思ったが、咄嗟にそれ以外の言葉を思いつくのは、なかなか難しかった。
しおりちゃん日記を龍脈封印してから、1日が経っていた。
いざという時のため、事前に龍脈の場所に穴を掘っていたから、しおりちゃん日記の封印は、亜里斗と真壁浩人のふたりで行うことができた。
阿久根未来も手伝うと言ってくれたが、命乞いをする山下朋子の姿を見ていられずに、早々に校舎の奥へと引っ込んだ。
しおりちゃん日記の封印が完了した亜里斗たちは、山下朋子が乗っていた車で、生存者の確認を行った。呪蓋が消え、ゲームがクリアされたことは、おそらく全員が気づいているはずだ。
最初に、梅宮清明(小学生)と佐土原麻衣(小学生)のふたりを発見した。
彼らの証言から、如月葉月(霊媒師)と篠田武光(金髪)が山のほうへ消えたこと、奥の方にある平屋で山下朋子に襲われたことを教えてくれた。
生存者がいるとすれば、平屋のほうだろう。
急いで平屋へ車を進ませる。ほぼ一本道だったので、清明たちも道を覚えていた。
平屋は凄惨な現場と化していた。
無念の表情を刻んだままの、たくさんの生首が転がっている。
生存者はいないだろう、そう思ったときだった。
「う、うう…」
壊れた納屋から、人の声が聞こえた。
梅宮愛が、血を流して倒れていた。だが、まだ息はあった。
愛を乗せて帰る途中で、意識を取り戻した彼女から、車に轢かれて怪我をした事実を聞かされた。
後ろが半分腐った木の壁だったから、命が助かったのだろう。
死んだと思われたのか、単に気づかれなかったのか不明だが、彼女はしおりちゃん日記の呪いで殺されることはなかった。
校舎に帰る途中で、道路を歩いている葉月と篠田を発見した。
全部で8人。それが、あの惨劇を生き延びた全員だった。
愛の折れた腕に応急処置を施し、その日は言葉少なく過ごした。
正直、連日の徹夜続きで体のリズムが狂っていた。
うとうとと浅い眠りが続き、次に気が付いたときは、お昼を過ぎていた。
カップラーメンで腹を満たし、何かをするわけでなく、廃校の教室にみんな集まっていた。
最終日ということもあり、呪蓋の影響で霊障は濃くなり、ふとした瞬間に霊の姿を見たり、窓ガラスを見ると、一面に手形がついていたり、トイレに行くと誰も居ないはずの個室から、ぶつぶつと喋る声が聞こえたりした。
正直、生きた心地がしない。
早く時間が過ぎてくれることを祈っていた。
そして夕食にもカップラーメンを食べ、呪蓋の向こう側で、西の空が朱く染まりはじめた頃、唐突に梅宮清明が、「話がある」と言って立ち上がった。
「時計を見せて」
愛は清明に言われるまま、腕時計を見せた。
「今は夜の八時です」
「あ? ああ。…そうだが、それがどうした?」
篠田武光が少し苛立ったように尋ねた。
「あと、5時間で7日目が終わります」
亜里斗はぽかんとした気持ちで聞いていた。
確かに彼の言うことはそのとおりで、子供なりに感慨深いことがあったのだろう。
しかし、大人たちに向かって、演説のように言うのは違和感ありまくりだった。
「たぶん皆さんは欲しい才能があって、ここに居ると思います」
「清明…?」
さすがに違和感を覚えたのか、愛が訝しげな表情で、息子の名前を呼んだ。
「だけど、才能がもらえるのは、7名だけです」
刹那、緊迫した空気が漂った。
どうして子供がそんなことを言うのだろう、という違和感がある。
だが、それ以上に、切羽詰まった問題に気づく。
今生き残っているのは8人。
誰かひとりは才能がもらえないのだ。
問題はふたつあった。
ひとつは、その一人をどうやって決めるかという問題。
ひとつは、もしも才能をもらえなかった場合、その人物はどうなるのか?
ヒガン髑髏の試練が、そのままお帰りできるような、生易しいものではないことは、充分に理解していた。
最悪の想像が過ぎる。
「だったら言い出しっぺのてめえが抜けな! 子供に才能の価値なんて分かんねえだろ」
葉月が吐き捨てるように言う。
「子供になんてことを言うんですか!?」
愛がヒステリックに抗議した。
けれども葉月は、手を振って相手にしないパフォーマンスをする。
「僕からもふたつほど、いいですか?」
手を挙げたのは、真壁だ。
「清明くんは、どうして7名だと思うんですか? オカメンの人たちの話だと、生き残った者全員に才能がもらえる、だったはず」
「…ふたつめは?」
清明は答える代わりに、次の質問を要求した。
真壁は一瞬口元を浮かべ、次に睨むような視線で問う。
「君は…誰です?」
清明が小さく笑う。
それはとても、子供の笑い方には見えなかった。
「──清明!!??」
愛が悲鳴のような声をあげる。
刹那、呪蓋が降りた。
「はぁあああああ!? おまえ、まさか!!」
篠田が飛びかからんばかりに吠えた。
「うそでしょ!?」
阿久津未来も悲鳴をあげる。
「清明!!」
「動くな!!」
息子に駆け寄ろうとした愛を、真壁の怒声が制した。
愛が救いを求めるように、真壁に視線を送る。
「もう、呪蓋の中です。迂闊な行動はしないほうがいい」
「うう…、清明…。お願い! 清明を返して!!」
愛が涙ながらに懇願する。
「ええ、返しますよ」
誰もが、呆気にとられた。
確かに返してくれと頼んだ。だが、OKが出るとは思っていなかった。
愛が目をぱちくりとさせる。
「清明くんの体と精神は責任をもってお返しします」
「え? どういうこと!?」
未来も目をぱちくりとさせた。
清明がパーカーのポケットから、古びた巾着袋を取り出した。
「「ひっ!」」
愛と未来が小さく悲鳴をあげる。
当然だ。
霊感がそんなに強くない亜里斗でも、ひしひしとその悍ましい呪いの存在を感じ取っていた。
間違いない。
あれは行方不明だった呪憑物・キンシン袋だ。
「まさか、それ! エンティティが残ってるのか!?」
葉月が信じられないといった表情で問うた。
言われて気づく。
そうだ。こんなにも禍々しく悍ましいオーラを放っているのは、中にエンティティが残っているからだ。つまり清明は、呪憑物に憑りつかれたわけでは無いということだ。
「見ての通り、清明くんは呪憑物に憑りつかれているわけじゃないです。だから、無事に戻って来ます」
状況についていけない。
だが、何かとんでもないことが起きていることは理解できた。
そして、同時に誰もが思ったことだろう。
誰だ? おまえは? と。
「そろそろ僕の質問に答えてもらえますか?」
真壁が爽やかに笑って言う。
顔は笑っているのに、どこか怖い雰囲気があった。
「俺は、このキンシン袋を作るために、殺された人間です」
清明がキンシン袋を持ち上げてみせる。
すると驚くことが起こった。
あれほど、禍々しい呪詛を吐き出していた呪憑物が、ただの巾着袋のように、呪いの気配を完全に消したのだ。
それはつまり、彼がキンシン袋を完全に制御できていることを示す。
「俺の名は、目黒圭祐」
「え!!」
驚きの声をあげたのは、意外にも未来だった。
全員の視線を受けて、慌てて彼女は視線を落とした。
「そして、どうして7名なのかという質問の回答ですが、今から俺が、ゲームをするからです」
ごくりと全員が息を呑んだ。
ゲームには嫌な思い出しかない。
「ゲームはワンナイト人狼。みんなで俺を殺した犯人を当ててもらいます」
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