テリトリー 7
文才亜里斗(眼鏡)は、真壁浩人たちと一緒に、必死に運動場へ向かって走っていた。
徐々に空は明るくなりはじめている。
山下朋子(しおりちゃん日記)が使う、なんらかの霊的な力は、おそらく弱まるだろうが、明るくなった分だけ、遠くからでも視認されてしまう。
一瞬、夜まで待ったほうが良いのでは? と思ったが、やはりそれは悪手だと思いなおした。
遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。
まるで隠す気がないような走り。
なんとなくだが、こちらの行動がバレているような気がした。
「おそらく間に合いません! 全員校舎の中に隠れて!!」
真壁が指示を出す。
今走っている場所から土手を下れば、後者の裏側に出る。窓を割って中に入れば、姿を見られることはないだろう。
「いいや、間に合う!!」
土手を走って降りた黒岩直弥(大柄)が、真壁の指示を無視して、そのまま運動場へ向かった。
車が道路を通って運動場へ入るには、校舎を大きく迂回する必要がある。
確かに、まだ間に合うように見えた。
「黒岩さん、中に入って!!」
真壁は叫ぶが、黒岩は止まらない。
そんな真壁の背後に、土手をジャンプして突っ込んできた山下朋子の車が迫ってきた。
「──え?」
きょとんとした表情をする黒岩。
車がショートカットしてくるなんて、想像だにしていなかったのだろう。
「黒岩さん、みっけ!」
そのままの表情で、黒岩の生首は宙を舞った。
本体までは、ぜんぜん足りない距離だった。
「きゃははははははは!! 残念だったね! もう少しだったのに!!」
朋子が愉快そうに笑う。
けれども、すぐに校舎に入ってくるようなことはしてこない。
カウンターを警戒してのことだろう。
作戦的には正解だったかもしれない。
だが、真壁はすでにその動きを読んでいた。
もしも間に合わなかったときの作戦は、道中で把握済みだ。
運動場から見えないよう、細心の注意を払いながら、亜里斗たちは準備を整える。
特攻してくるしか術はない。
その慢心が、朋子に付け入る隙を与えていた。
約30分くらいで、勝つための準備を完了させた。
全員が配置につく。
全員で頷き合ったあと、真壁が手を振り下ろした。
作戦開始の合図だ。
********
朋子はぜんぜん余裕だと思っていた。
向こうはおそらく全員で特攻してくるつもりだろう。
だけど、たかだか7人程度。
校舎から朝礼台までは、30メートルはある。
名前を呼んで殺すには、十分すぎる距離だった。
それを、見るまでは──。
激しい噴出音とともに、校舎の前を真っ白な煙が覆った。
消火器だ。まだ置いてあったのか!?
朋子は焦った。
これでは姿が見えない。
けれども、思いのほか煙が拡散するスピードは速く、煙の隙間から走ってくるプレイヤーの姿が見えた。
誰だ? やっぱり真壁か?
名前を呼ぶ準備をする。
しかし、煙から出てきたのは、H乳牛だった。
「なぁあああああ!!??」
朋子は思わず叫んでいた。
死んだはずのH乳牛がどうして?
いや、違う。
あれは被り物だ。
H乳牛の着ぐるみを被って、中身が誰だか分からないようにしているのだ。
そして煙から出てきたほかのプレイヤーも、穴をあけたゴミ袋や、給食袋を被って、身体には布を巻きつけ、誰が誰だか分からないようにしていた。
「きゃははははは!! やるねぇ!! 真壁さん、みっけ!」
朋子は先頭のH乳牛を真壁だと当たりを付けて呼んだが、走るスピードは変わらなかった。
「縦抜さん、みっけ! 財前さん、みっけ! 文才さん、みっけ! 金村さん、みっけ!」
金村翔太の名前を呼んだ瞬間、H乳牛の動きが止まり、牛の被り物と一緒に首が落ちる。
「真壁さん、みっけ! 縦抜さん、みっけ!」
朋子はひたすらに名前を呼んだ。財前博隆の名前を呼んだところで、次のプレイヤーが地面に転がった。
その調子で、縦抜和文と倉崎月緒(薄毛)、ふたりのプレイヤーを殺す。
残るは3人。
朝礼台まで、1メートルの距離に来ていた。
どれかひとりは阿久津未来のはずだが、布で体を隠しているため即座には判断できない。
朋子はプライヤーのひとりにタックルを食らわせた。
隣を走っていたプレイヤーにぶつかり、ふたりとも転倒する。
ルールでは、プレイヤーが鬼に危害を加えることは禁止している。
だが、その逆は規定していなかった。
ゲームの性質上、そのケースは想定されていないからだ。
故に、朋子が攻撃しても問題はなかった。
最後に残ったひとりが朝礼台に触る前に、その手に飛びかかり、バランスを崩してやった。
おそらく、こいつは真壁だろう。
そう思って、朋子は違和感を覚えた。
最後に走ってきた3人。
身長が変わらないくらいの高さだった。
未来は女子にしては高い方で、166センチある。
被り物に何か付加して高くすれば、この状況ですぐに気づくことは困難だ。
だが、真壁は178センチの細マッチョ。
並んで走って気づかないはずがない。
手を掴んでいるプレイヤーが朝礼台に触ろうとしたので、咄嗟に被り物を取り払った。
縦抜和文だった。
確かこいつは殺したはず!?
そう思った瞬間、縦抜の名前を呼んだ際に倒れた死体が、立ち上がって走りだした。
死んだふりをしていたのだ。
「縦抜、みっけ!」
朝礼台に一番近い縦抜を殺して、次は死体のフリをしていた人物の名前を叫ぶ。
「未来、みっけ! 文才、みっけ! 真壁、みっけ!!!」
残った3人の名前を呼んだ。
これで、奴が誰であれ、死んだはずだ。
しかし、
「いのぢが転んだ」
その人物は死ぬことなく、ゲームをクリアさせた。
「誰なんですか~?」
朋子は本気で理解できなかった。
全員の名前を呼んだはずだ。どうして死なないのか?
その人物が、被り物を取る。
真壁浩人だった。
やはり、間違いではなかった。
じゃあ、どうして死ななかったのか?
朋子の脳裏にある可能性が浮かび上がる。
「なんだぁ~。そういうことかぁ」
こうして、しおりちゃん日記のゲームは終了した。
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