デスゲーム5日目(残り23名)
文才亜里斗(眼鏡)は、自分の名前が嫌いだった。
なぜなら、自分には文才がないからだ。
まぁ正直、苗字のほうは百歩譲って仕方がないと思う。
だが名前はどうよ?
確かに、否定的な名前だったり、無関係だったりすると、ちょっとは「うん?」ってなるけど、「ありと」はちょっとやり過ぎだった。
一応、自分には文才があるのではないか、という思春期特有の万能感で、小説投稿サイトなどで書いたことはあったけど、まったく人気が出なかった。
何度も辞めようかと思ったが、こんな自分にもひとりだけ常に反応をしてくれる読者がいて、その人が応援してくれるのが嬉しく心地よくて、辞めるのが申し訳なくて、結局はダラダラと続けてしまっていた。
本当はその読者に「あなたのおかげで続けられました。ありがとうございます」と言いたいのだが、向こうとしては単に面白いと感じた小説のひとつで、単にいつもやっていることの延長で、それなのに作者から感謝マックスの連絡が来たら、「重い」し、「なにこいつ?」と、ドン引きしてしまうかもしれない。
その結果、二度と読んでもらえなくなるかと思うと、感謝の気持ちを伝えられずにいた。
けど、そろそろ潮時かなとは思っていた。
投稿サイトは自由に好きな作品を投稿できると言いつつ、作品数が膨大となった結果、トレンドや分かりやすい快感が重要視され、結果、それ以外の作品が埋もれやすくなってしまった。
自由競争の結果、まったく自由度の高くない作品だらけになるなんて、皮肉でしかない。
作品の幅を広げるために出版社が頑張っているはずなのだが、最近は出版社も投稿サイトの流行に合わせているし、もっと露骨に、投稿サイトのランキング上位から出版していっている。
そういや最近AIイラスト関連で、著作権の記事をよく目にするようになったが、亜里斗が最初に著作権を知ったのは、とある漫画だった。
その漫画では、Aという絵描きが絵を描いて、友人Bが「お前の代わりに俺が絵を売って来てやるよ」と言って、絵を持ち出す。そしてBは「1万円で売れた」と言ってAにお金を渡すのだ。
Aは「あの作品が1万円かぁ」と徐々に自信をなくしていくのだが、あるとき、引きこもり気味のAは、気分転換に街に出た。
すると自分の絵が至るところに飾ってあり、Bがその作者としてチヤホヤされていることを知ったのだ。
AがBに問い詰めると、「実は10万円で売れていた」ことが発覚。Bは売り上げの1割しか渡していなかったのだ。
酷い話だ、と当時は思ったが、今の出版業界、印税はたいてい10%らしい。そして作者の代わりに出版社が作品を売っている。
もしかしてあの著作権漫画は、出版業界を皮肉ったものだったのか? と今では思っている。
ただ作品を売るためには、認知や話題性は大事で、出版社がそれを代行してくれるのなら、9割の報酬は妥当だろう。
けれども小説投稿サイトの台頭で、出版社はすでに話題となったランキング上位の作品しか売ろうとしなくなった。そのぶん出版社は仕事をしていないわけだが、果たして、印税は高くなっているのだろうか?
兎にも角にも、「才能がない」と諦めかけていたときだった。
ヒガン髑髏の動画配信を見てしまったのは。
自分に霊感があることを今まで知らなかったが、7日間過ごすだけで絶対的な才能が手に入るのだという。砂漠で干からびそうなときに、オアシスを発見したような気持だった。
だが──。
亜里斗が歯を磨いていると、「こんにちは」と真壁浩人が挨拶してきた。
軽く会釈を返しながら、ちょっと立ち去りたい気持ちになっていた。
純粋に怖いのだ、この人物が。
完璧なイケメン、みんなが頼れるリーダー。
すげえ、こんな人間、本当にいるんだな、と感心していたが、一昨日のゲームで、彼の印象にしこりが残った。
猿姫人形のエンティティを炙り出す際に起きた「ケンケン相撲」。
そのとき、真壁は相手の女性をぶん殴って勝者となった。
ある意味当然の行為で、生き残っている自分にそれを否定できる権利はないのだが、今までのイメージが完璧すぎたため、彼も普通の人間だったという事実に、ちょっとばかりビビッてしまっているのだ。
「何か?」
問われて、亜里斗は自分が、真壁をチラ見していることに気づいた。
「ああ、いや、特には…。だいぶん、臭ってきましたよね」
言ったあと、しまったと思った。
臭っているとは当然ながら、死体のことだ。
この洗面所は、死体を安置している教室から近い場所にある。呪蓋の中にいるとはいえ、今は夏場で、最初の死体から、もう5日が過ぎていた。
誤魔化すためとはいえ、自分をぶん殴りたいくらい、不謹慎な科白だった。
「…そうですね。あと3日の辛抱ですが、無駄にストレスを受けるのは、よろしくないですね。今から全部の遺体を動かすのは大変ですし、女性用の洗面所を使わせてもらいましょうか」
意外にも怒られることはなかった。
あるいは亜里斗が失言を反省していることに気づき、気を遣ってくれたのかもしれない。
「文才さんも、もう死体は運びたくないでしょ?」
「え? ええ、まぁ…」
回答に困ることを言われた。
なんだろ? もしかして怒っている? よく分からなかった。
ただ、死体運びをもうしたくないのは、完全に同意だった。
3日目の「ケンケン相撲」が終わったあと、精神的にも肉体的にも限界の来ていた参加者たちは、泥のように眠った。
起きたのは、次の日の昼過ぎ。全員が12時間近く眠っていた。
起きてから初めにやったことは、死体の運搬だった。
正直、ずっとあまり食べていなかったせいか、空腹も酷く、死体の真横でも食事にがっつける自信はあったのだが、先に死体を片づける、という当然の流れになった。
死体はやけに重く、死後硬直もはじまっていたため、片付けが終わったのは夕方だった。
そこからみんなで料理をして、もしかしたら悪くなっていた食材もあったかもしれないが、そんなことを気にすることもなく、全員ががつがつと食事をした。
生き延びたという実感があったのかもしれない。
体が精神以上に、エネルギーを必要としていたのかもしれない。
人を殺した直後とは思えないほど、みんな一心不乱に食事をした。
その後、特に会話することもなく、全員が再び足りない睡眠をむさぼるように床に就いた。
そして今日、5日目の昼となった。
正確な時間はわからない。スマホの充電が切れてしまったからだ。
亜里斗は腕時計をもっていなかった。
だから時間がわからない。
異変があったのは、夕方過ぎだ。
そろそろ夕食の準備をしようと動きはじめたころだった。
「あれ? モコがいないんだけど?」
阿久津未来が、不安げな声をあげた。
「モコ?」
彼女の隣にいた大柄な体躯の黒岩直弥(大柄)が、誰?といった感じで訊き返す。
「朋子だよ! 山下朋子!! 私と一緒にいつもいたじゃん!!
言われて、亜里斗も彼女の顔が浮かんだ。
山下朋子。未来の友人でショートヘアのギャルだ。
確かに姿が見当たらない。
「捜しましょう。ただしペアで行動してください」
真壁が当然のように言って、亜里斗たちは廃校の教室を出た。
「あれじゃないのか?」
亜里斗は自分と同じフリーターの財前博隆と運動場へ向かっていたが、すぐに朝礼台の横に立つ朋子らしき人物を見つけた。
近くにいた数名とともに、彼女の元へと駆け寄った。
「お~い、そろそろ飯だぞ」
隣の財前が呼びかけるも、朋子は反応しない。
嫌な、予感がした。
「モコ~。どうしたの?」
後ろから未来がやってきた。
彼女の声を聞いて、朋子がゆっくりと朝礼台を指差す。
ぞわりとなった。
そこにあったのは、こっくりさんの紙だった。
確か前に使用したやつは、如月葉月(霊媒師)が燃やして処理をしたはずだ。
よくよく見ると紙質が違う。
色褪せていることから、廃校の壁に張ってあったポスターの裏に書いたものだろう。
「いったい誰がこれを…」
「ウチだよ」
芝浦恭平(大学生)の呟きに、朋子が答える。
え? となった。
どうして、彼女がこれを…。
「みんな、ずるよ。ウチとも遊んで欲しいな~。それともウチのこと嫌い?」
「モコ、あんた何言って…」
刹那、呪蓋が降りた。
「ウチも、ももももも‥‥、しお、しおおおおおおりも…遊び、たいよう」
くるりと振り向いた朋子の頭の上に、幼い少女の呪影が現れた。
「うわぁああああああ!!」
亜里斗は思わず悲鳴を上げてしまった。
一瞬で理解する。
彼女は呪憑物のエンティティに憑りつかれていた。
「うわああああ!!」
亜里斗は芝浦恭平と一緒に走って逃げ出した。
──逃げないで。こっちに来てよう。
脳に直接、呪いの声が聞こえた。
恐ろしさのあまり、足がもつれてコケてしまう。
──逃げるなぁ!!!
その瞬間、亜里斗の前を走っていた芝浦の首から鮮血がほとばしった。
鮮血は首のまわりを一周するように噴き出し、ぼとりと彼の首が落ちる。
「うわっ! うわぁあああ!!」
眼前に生首が転がって来て、亜里斗は情けない悲鳴をあげた。
おそらくは逃げようとしたから殺されたのだ。
コケていなかったら、亜里斗も同じ運命をたどったのかもしれない。
「何してんだ! おまえら!!」
廃校から葉月が飛び出してきた。その後ろには真壁たちの姿もあった。
そして、芝浦の斬首された遺体と、朋子に憑りつくエンティティを見て、すべてを察した。
新たなゲームが始まるのだ。
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