呪憑物・猿姫人形
「猿姫人形さん、猿姫人形さん。一緒に遊びましょう」
五円玉がゆっくりと動きはじめる。
興奮から思わず歓喜の声を出しそうになったが、今は儀式の最中だ。
向井慎太郎は気を引き締めて、ひたすらに霊文を唱え続けた。
五円玉が動く。やがて、「はい」の文字のところで止まった。
儀式を行っていた4人は、互いに顔を見合わせて頷き合った。
遊祇葬傀は次の段階へと進む。
「猿姫人形さん、猿姫人形さん。よろしければ、お姿をお見せ下さい」
4人は再び霊文を唱える。
五円玉がゆっくりと動き出す。
「はい」から「いいえ」の方向へ。
やはり駄目か…。
と、すぐに五円玉が動きを止めた。
霊文を唱えながらも訝しく思う向井。
「いいえ」の文字へ向かうかに見えた五円玉は、再び戻るような動きをして、ややあって「はい」を丸で囲む動きをしていることに気づいた。
刹那、呪蓋が降りた。
「きゃああああああ!!」
「ひぃいいいいいいい!!」
周囲から悲鳴が漏れる。
なんど経験しても慣れることのない不気味な死の気配。
ヒガン髑髏の呪蓋の内側に、さらに強力な呪蓋が形成されたのだ。
「ウキ!? ウキキキキキ!!」
ひとりの参加者が奇怪な声をあげる。
目をギンギンに見開いた表情は、猿姫人形の形相を思わせた。
「嬢ちゃんが、猿姫人形だったのか…」
「え!? ちがっ! 私じゃない!! 私は──ウキッ!!」
蜜蜂花子(運営スタッフ)は泣きそうな顔で否定するが、すぐに猿姫人形の顔となった。
間違いない。
猿姫人形のエンティティは、彼女に憑りついている。
運営スタッフである彼女は、どこかで猿姫人形に触れてしまったのかもしれない。
次の瞬間、白川哲也が動いた。
彼は花子の腕を捻ると、そのまま押さえつけた。
「犯人は見つかった。はやく、こいつを埋めましょう!!」
効率化のため、すでに龍脈のある場所に穴を掘っていた。後は埋めるだけだ。
しかし、問題はそんなことではない。
「離れて!!」
叫んだのは梅宮愛(小学生の母)だ。
呪蓋は新たに降りた。
それはつまり、今は猿姫人形のルールの中にいるということだ。
「うっ!!」
白川哲也が急に苦しみ出し、自分の胸を押さえる。
「次は~、肝吸い。肝吸い」
猿姫人形の不気味な声が、耳ではなく、直接頭の中に響いた。
「うぐっ!! うぐぐぐぐぐぐぐっ!!!」
白川哲也が悶絶する。
苦しげに喉と胸のあたりを押さえる彼は、次の瞬間、口から大量の血を吐きだした。
いや、それだけではない。
彼の吐き出した血だまりの中、どくんどくんと脈打つ、こぶし大の臓物があった。
心臓だ。
白川哲也は、心臓を吐き出して絶命した。
「きゃぁあああああああああ!!」
悲鳴が爆発する。
場が騒然となった。
逃げ出そうとする者も現れる。
「動くな!! 呪蓋の中だぞ!!」
如月葉月(霊媒師)の一括で、みな状況を察した。
呪蓋の中から無理やりに逃げようとすればどうなるのか、みんな経験を持って理解している。
「猿姫人形さん、何をして遊びましょう」
再び、霊文を紡ぐ。
もはや呪蓋は降り、猿姫人形は姿を現した。
あとは淡々とゲームを進め、最小の被害でクリアするしかない。
五円玉が動く。
「はい」と「いいえ」の文字の下、ひらがな表で言葉を作っていく。
『大好きな人とペアを作ってね』
猿姫人形はそのように指示を出してきた。
「なんだそりゃ? そんなゲームってあったか?」
天元健三郎(髭)が疑問を呈する。
「ペアになったら何をしますか?」
葉月たちは再び猿姫人形に尋ねた。
けれども帰ってくる言葉は「ペアを作って」だけだった。
これ以上、指示を無視すれば、最悪儀式は失敗してしまうかもしれない。
「言われたとおりにしな!」
各人がペアを作りはじめる。
ゲームに負ければ死ぬかもしれない状況。
ペアの相手は誰もが慎重に選んだ。
「清明、できれば大人の人と!!」
愛が叫ぶ。
梅宮清明(小学生)が選んだ相手は、松田龍也(小学生)だった。
清明も龍也も、一緒にきた家族と組むことはできない。
清明の母親である愛は儀式に参加し、龍也の母親である加奈代は、怪異となって姿を消した。
そして大人の立場からしても、子供とは組みたくはない。
ふたりが組むことはある意味、当然の流れだった。
「ごめん、お母さん。龍也を放ってはおけない」
「清明!!」
「おい、集中しろ!」
葉月に叱られ、愛は悲痛な表情で言葉を押し込んだ。
ペアが作られていくなか、浮いた存在がひとりだけいた。
猿姫人形に憑りつかれた女性、蜜蜂花子だ。
「おい。あれとも誰か組む必要があるのか?」
健三郎が引き攣った顔で尋ねてくる。
「猿姫人形さん、猿姫人形さん。あなたもペアになりますか」
念のため、向井たちは霊文を唱えた。
五円玉は「はい」を指し示した。
参加者が奇数であれば、彼女ひとりが残っただろう。
だが、幸か不幸か数は偶数だった。
誰かが花子とペアを組む必要がある。
健三郎と真壁浩人が顔を見合わせた。
どちらが彼女と組むか、そう思案しているようだった。
「俺が組もう」
言ったのは、健三郎だ。
「じゃあ、ま、真壁さん。私と組んでくれませんか」
忽那来夏がもじもじとした感じで話しかけてくる。
当初、真壁は健三郎と組んでいた。
健三郎が抜けたため、フリートなったのだ。
「すみません」
真壁は短く断った。
気持ちは分かる。来夏は不良物件だ。ペアになるデメリットのほうが多い。
真壁は周囲に視線を送り、ソロで参加していた仮縫マキ(ソロ)とペアを組んだ。
最後までペアが出来なかった来夏は、似た立場の末次良子(小学生の母)とペアになった。
こうして全員のペアができた。
それを待っていたかのように、五円玉が動きはじめる。
『片足を上げて。足を着いたら負け』
ルールの提示がなされた。いわゆる「ケンケン状態」だ。ここから何をやらされるのだろう。
『ケンケン相撲であそぼ。ペアとなった相手と勝負』
向井は血の気が引く思いだった。
途中まで文字を声に出して読んでいたが、最期の方は絶句してしまった。
4人全員がそうだ。
「くそっ! 酷でえことしやがる!!」
篠田武光(金髪)が吐き捨てるように言う。
「なんて言ってきたんですか?」
岡森麗奈が尋ねてきた。向井たちが教えない限り、彼女たちには伝わらない。
「ケンケン相撲だとさ。ペアになった相手と勝負だそうだ」
葉月が敢えて感情を含めないように淡々とした口調で答えた。
「え?」
誰もが絶句する。
命を懸けたゲーム。
負けたほうは死ぬ可能性があった。
いや、間違いなく死ぬだろう。
つまり、このゲームは、ペアになった者と殺し合うゲームなのだ。
カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。
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そろそろ締め切りなので、何卒、よろしくお願いいたします




