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こっくりさん

 松田加奈代(小学生の母)の異様な死に方、いや死に方といって良いかは分からないが、その想像を絶する最期を見て、誰もが気力を削がれてしまっていた。

 特に脱出できると思っていた者の落胆ぶりは酷かった。

 けれども、精神的にショック受けているからこそ、猿姫人形の封印を急ぐ必要があった。

 肉体的にも精神的にも限界が来ている状況では、誰がいつ二度と戻れぬやもしれない夢の世界へ旅立ってしまうか分からない。

 向井オカメンたちは、そのまますぐに学校へと戻り、如月葉月(霊媒師)の指示に従った。

 

「そんじゃ、今から霊話術を執り行う」

 運動場に机を置き、葉月はその上に紙を広げて、ひらがなの羅列と鳥居を書いた。

「こっくりさんじゃん!!」

 阿久津未来ギャルがつっこみを入れる。

「あん? なんか文句あんの? エンティティと交信するんだから当然だろ!?」

 未来の驚きも葉月の反応も、向井には両方理解できた。

 こっくりさんは幽霊やそれに類するモノを呼び出し、紙に書いた文字を通して交信する降霊術だ。

 その知名度は一般的にも高く、だからこそ専門家である葉月が使おうとしていることに違和感を覚えるのだろう。

 もっと専門的な術があるのではないかと。

 だがある意味、一般人も知るようなメジャーな術だからこそ、その効果が高いとも言える。

 向井の知識的にも、これ以上に効果が高い術式は存在しなかった。

「質問ですが、それをやると、どうして猿姫人形に憑依されている人が分かるんでしょうか?」

 真壁の質問に、葉月はあからさまな舌打ちをした。

 説明するのが面倒なのだろう。

「向井、説明してやれ」

 唐突に自分に矛先が向けられ、向井は戸惑った。

 説明しろと言われても、向井自身、葉月から何か聞いているわけではない。

「…遊祇葬傀」

 戸惑っている向井を見兼ねてか、葉月がヒントをくれた。


「ええと、たぶんですけど、今からこっくりさんで直接、猿姫人形のエンティティに呼びかけます。ですが、当然ながら普通に呼びかけても無視されるだけです。そこでエンティティの感情に訴えかけます」

 呪いはプネウマの座、つまりは理性のない精神の領域だ。

 故に、憎しみ、笑い、快感、恐怖、高揚といった、特定の感情に強い興味を示す。

 通常の生きた人間であれば、理性で持って、感情をある程度制御することができる。

 だが、呪いは違う。

 理性のない精神とは、別の言い方をすれば、子供っぽい感性ということだ。


 なので、ただ呼びかけるのではなく、「一緒に遊びましょう」と、遊びに誘うのだ。

 楽しい楽しい遊びならば、彼らも警戒を解いて、自ら名乗り出てくれる。

 幼稚な作戦だが、プネウマ自体がそういう幼稚性を持っているので、効果は高い。


「このように遊びに誘って霊などを呼び出すやり方を、『遊祇葬傀』と言います。ただし、注意点があります。遊ぶという名目で呼び出すということは、遊ぶという契約を結んだも同然なのです。つまり、このやり方だと、こちらから条件を作ってしまうことになります」

「よく分かんない。どういうこと?」

 未来がお手上げだ、とう所作をした。

「『条件を踏む』という表現を使いますが、早い話、ゲームで負けたりルール違反をすると、呪い殺されます」

 みんなの息を呑む音が聞こえた。

 葉月がずっとリスクが高いと言っていたのは、この点だ。

 だから、猿姫人形のエンティティを捜すよりも先に、外に出られるか確かめる必要があった。

 大勢の人間が死ぬ可能性がある。


「ふざけないでよ!! なんでそんな馬鹿なことするの!!」

 来夏が堪らずといった感じで叫んだ。

「馬鹿かお前は。しなきゃ寝れねえだろ」

「ほかに方法は?」

「あれば、こっちが教えてもらいたいね」

「どんなゲームをするんです?」

「さあな。それは向こうが決めることだ」

 参加者たちが次々に質問するも、この決定が揺るぐことはなかった。

 事実、向井もほかに方法はないと考えている。


「時間がもったいない。そろそろ始めるぞ。より確度を上げるため、この中で特に霊力が高い3人に協力してもらう」

 葉月はちらりと向井に視線を向けた。

「向井慎太郎、来い」

 不謹慎だとは思う。

 だが名指しされた向井は、場違いにも優越感と高揚感を覚えてしまった。


 自分に強い霊能力がある自覚はあった。

 オカメンの中でもトップクラスだろう。

 どこかに、それを自慢したい気持ちがあったのかもしれない。

 だがコミュニティを運用する上で、その自慢はタブーでしかなかった。

 霊感が強い弱いは関係なく、それどころか霊感がゼロでも、オカルトが好きならば、向井は受け入れた。マウントが目的じゃない、居場所があることが大事なんだ。

 本心、それで構わないと思っていた。

 だけど今は違った。

 いや、優劣を決めたくない気持ちは本心だが、それ以上に誇らしかった。


「それと、篠田武光。おまえもだ」

 周囲が少しざわついた。

 金髪で粗野な青年である篠田(金髪)には、霊感があるというイメージはないからだ。

 いや、よくよく考えれば、それは先入観でしかない。

 このデスゲームに参加した者の多くは、ヒガン髑髏の啓示を受け取ったからこそ、参加を決意したに違いない。

 最初に車で逃げ出そうとしなかった篠田に霊能力があっても、なんらおかしいことはなかった。

「お、おう」

 篠田は少し照れ臭そうに、前に進み出た。


「それと最後だけど…」

 選ばれるのは、オカメンのメンバーだろう。

 向井はそう思っていた。

 岡森麗奈オカメン野木智美オカメンあたりか。ふたりとも強い霊感を持っている。


「梅宮愛(小学生の母)、あんただ」

 再び周囲がざわついた。

 篠田以上に、彼女には霊感があるイメージが無い。

 それに向井の記憶が正しければ、呪蓋が降りて、みなが車で逃げ出そうとしていたとき、「せめて子供だけでもお願いします!」と叫んでいたのは彼女だった。

 彼女が霊感持ちだったのなら、ヒガン髑髏の啓示を受け取ったはず。

なのにどうして、脱出しようとしたのだろうか?


「え? そうなの?」

 隣にいた梅宮清明(小学生)が、目を見開いて尋ねた。

「…ごめんね。黙ってて。家は代々、霊感が強い家系なの。だから清明にも、霊感があるのよ」

 愛が弱々しく答える。

「じゃあ、お母さんが参加を許した理由って…」

 ヒガン髑髏の啓示を受け取ったからなの?

 次に続く言葉は、おそらくこれだろう。

「ええ、そうよ。…だけど、お母さんは清明のために…」


「おい、早くしろ! あたしはこう見えて、1日12時間寝ないと駄目な美少女なんだよ! そろそろ限界なんだ!」

 葉月に怒られ、愛が机の前に進み出た。

「ちょっと待ってよ!!」

 叫んだのは、案の定というか、忽那来夏ヒステリックだった。

「あんたら4人って、もしかして、ゲームとやらには参加しないの?」

「え!? そうなのか!?」

 天元健三郎(髭)も驚いた声をあげる。


「…遊祇葬傀をやる場合、コンタクト者は運営側の人間になる。普通はゲームには参加しない」

「卑怯じゃん!! ズルじゃん!! っていうか、そのメンバーってどういう根拠で選んだの!? 霊能力が強いとか、どうやって測定したの!! 証拠はあるんですかぁ!?」

「…確かにゲームには参加しないが、呼び出しに失敗した場合、私たちは全員殺される」

 淡々と葉月が述べた。

 衝撃の事実に、煽り気味だった来夏も息を呑む。

「私たちの失敗は、あんたら全員の死にもつながる。失敗するわけにはいかないんだよ」


 葉月たち4人を中心にして、周囲を参加者が取り囲んだ。

 4人はそれぞれ風水的に力が強まる位置に立ち、紙の上の五円玉に人差し指を伸ばした。

「分かっていると思うが、何があっても絶対に指は離すな。クソがしたくなったら、その場で脱糞しろ」

 向井たちは神妙な表情で頷いた。


「猿姫人形さん、猿姫人形さん、一緒に遊びましょう」

「楽しく楽しく、遊びましょう」

「お歌を歌って、遊びましょう」

 葉月の言葉を繰り返しながら、向井たちも霊文を唱える。

 願うように祈るように、指先の五円玉に、すべての霊力を注ぎ込む。

「猿姫人形さん、猿姫人形さん」

 だが、五円玉は動かない。

 緊張と疲労で、額から汗が流れ落ちる。

 何度言葉を発したのだろうか? 喉が渇いて痛くなってきた。

「遊びましょう。遊びましょう。夜越え朝越え、遊びましょう」

 やはり五円玉は動かない。


 焦りが胸を締め付ける。

 もしも、このままエンティティが現れなかったら?

 もしも、この儀式がすでに失敗していたら?

 あるいは、エンティティが誰かに憑りついているなんて勘違いだったのかもしれない。

 悪い想像が加速する。

 周囲からは嗚咽の声すらも聞こえてきた。

 もう駄目かもしれない。

 そう諦めかけたときだ。


 ずずっ…


 五円玉が反応した。


カクヨムの角川ホラーデスゲームコンテストに参加しています。少しでも良いと思えたのなら評価をお願いします。

ちなみに、カクヨムのほうで評価しないと、カウントされません。

そろそろ締め切りなので、何卒よろしくお願いいたします。

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